第5話
心平は自身の店が倒産してしまったら、取引先を大切にしたくてもできなくなる。
だから、自分の店がまず、立ちゆくことを考える必要があった。
店の菓子の種類を徐々に減らしていった。そうすることで常連の客から文句を
言われるようになったが丁重に謝罪をしながら切り抜け、あの日光市小林の武平まんじゅうの味を追求することにしたのだ。
そしてあの饅頭の食感が一般的な黒糖饅頭の食感ではなかったので饅頭と蒸しパンのレシピで試作することにした。
レシピ1、(材料)
薄力粉 100g
重曹 4g
黒糖 80g
豆乳 65ml
全卵 1個
はちみつ 10g
酢 10g
(作り方)
1. 蒸し器に入る大きさの耐熱容器にクッキングシートを敷いておく。
2. 薄力粉と重曹を合わせて篩っておく。
3. 黒糖が固形なので包丁で刻んで溶けやすくしておく。
4. 黒糖をボールに入れ、50℃ぐらいに温めた豆乳を注ぎ
黒糖が完全に溶けるまで混ぜる。
5. 黒糖が溶けたら、全卵を入れて泡だて器でまぜあわせる。
6. そこにはちみつを加えて、さらに混ぜる。
7.しっかり混ざったら、篩っておいた粉類を入れる。
8.滑らかになるまで泡だて器で混ぜる。
9.酢を加える。
10.白っぽく泡立つので、全体が滑らかになるまで混ぜ合わせる。
11.クッキングシートを敷いておいた型に生地を流し入れて
「つぶあん」を入れてまた生地を流す。
12.蒸し器に入れて強火で15分蒸す。
13.15分後、中央に竹串を刺して生地が着いてこなければ完成。
14.冷めたら乾燥しないようにラップで包む。
完成して試食したが、あの味とは程遠かった。心平は自分だけの力でやりたかったので、父には教わりたくはなかった。
※
そこに、常連客の中山様の孫娘が祖母に頼まれたと言って菓子を買いに来た。ショーケースの中の菓子を見た孫娘の一言に心平は落ち込んだ。
「お祖母ちゃまが、買いに行けと言ったから来たけど、こんな田舎臭い和菓子なんか今時、
流行らないし珍しいわ」
「すまん。せっかく来ていただいたけぇ、もし良かったら今、新しい商品を開発中なんじゃが、ご試食をして頂けるじゃろうか?」と満面の笑みを浮かべて言った心平。
孫娘は素っ頓狂にこたえる。「えっ、そうなの?」
心平が言う。
「はい。若い女性のお客様にもご支持を頂けたらええかと思いまして」
試作品を皿に盛りつけて店内のテーブルに置いた心平。孫娘は冷たく言う。
「これでは甘過ぎると思います」
心平は落胆して言う。
「そうじゃのぉ。また改良するけぇ、もし良かったらまた来てご試食して頂けるか?」
孫娘はまた冷たく言う。
「私、そんなに暇じゃないし、いつもは大学に通っているから」
心平は素直に謝る。
「そうか。すまんじゃった」
孫娘が心平の謝罪を無視して言う。
「お祖母ちゃまから頼まれたので、全部のお菓子を二個ずつ箱に入れてください」
心平は礼を言いながらも奥に引っ込んだ。
「ありがとの。少々待ってつかぁさい」
孫娘はイライラして心の中で叫んだ。
「いつまで待たせるのよ?」
心平は謝罪しながら言う。
「すまんじゃった。三千五百円でがんす」
孫娘はまた生意気な言葉を発する。
「はい。それと、和菓子店なのに、かき氷までやっていてお客さんを呼ぼうとしている涙ぐましい努力は買いますけど、和菓子店は和菓子を売っていればいいんじゃないですかね? それとその広島弁を何とかした方がいいですよ。古くさ過ぎて今時ではありえないので笑っちゃうほど酷いですから!」
心平は更に落ち込んだ。
「はい、それはすまんじゃった」
孫娘は更に追い打ちをかけた。
「それと、『旨うなれ!旨うなれ!と心を込めた、続く三代の手仕事の和菓子の味をご賞味あれ!』ってダサくないですか?」
心平は更に謝り落ち込みながら礼を言った。
「それも、すまんじゃった。ほいで、どうもありがとの」
その日はそれで彼女は帰って行った。
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