努力の天才

 ──お昼休み

 俺は馬鹿共からの質問攻めの嵐を何とか掻い潜って技術棟の屋上へ向かっていた。


 はぁ……何を聞かれても、答えられないってのに。今朝初めて会ってバケモノとの対決から二回しか会ってない。知り合い程度の関係だから、個人的な事を聞かれても沈黙を極めるしかない。


 それにアイツ、俺の隣の席になりたいだとか言い出しやがったんだ。無論、断ろうとしたさ。

 そしたら須藤がいらん気遣いして、『お前にも遂にモテ期が来たって事だな! 先生! 俺、転級生さんと席変わりますよ!』


 なーんて、満面の笑みでふざけた事を抜かしやがったんだ。先生も即OK出すからおかげで、俺の平穏な学園生活がピンチだ。

 

 ふぅ、ついた、少し落ち着くか。

 

 今ついた所は、技術棟屋上のベンチだ。空も見渡せるし、周りに植物もあるから空気も最高。それに、技術棟屋上は滅多に人が来ない。

 今日は特別で昼で授業が終わる。ここは第二のオアシスだ。

 寝っ転がり、空を眺めて呆けていたら──下僕! 嫌な声が聞こえてしまった。


「げっ何でここにいるんだよ!?」


「何って昨日、明日屋上集合って言ったでしょ? それより下僕! 十秒の遅刻よ! 次はもっと気をつけなさい!」


 確かに言ってたけども、よりによってここかよ。もう逃げられないか。丁度いい、聞きたいことがあったんだ。


「下僕ってのは置いといて、何で席の隣にわざわざ座るんだよ? しかも、学級替えまで使ってさ、どうして俺と組みたいんだ?」


「あぁ、隣にしたのは何となく、強いて言うなら隣の方がより高いレベルで意思疎通が出来る」


 何となくで、平穏が壊されそうなんだが。


「そして、組む理由はアンタが強いからよ」


 そういうことね……多分、「魔龍」時の俺を見てそう思ったんだな。

 世良は次に話す言葉をため息混じりに話す。


「なら、辞めておいたほうが良い。お前が求めている力は残念ながら出せない。そして俺と組んだからにはきっと後悔する」 


 「後悔?」


 (普通じゃ学園最低ランクのCランクだ)


 「あぁ、弱すぎてビックリすると思うぜ、ギャップで風邪引いちまうぐらいにはな」


 (ノアの動きは目で追うだけで精一杯だし)


「後、Cランクの俺じゃSランク様の任務や訓練にはついていけないぞ」


 (そして、最悪の地雷能力付きと来た)


「……アンタ、そんな弱音ばっかり吐いているから駄目なんじゃない」


 はぁ……とため息を付き、呆れたと書いてある顔をみせた。


「弱音なんかじゃない、冷静な自己分析をしたまでだ」


「私、弱音を吐いて努力もしないで言い訳ばかりする人間は嫌いだわ! それにアンタは自分の事を過小評価しすぎ」


「過小評価なんかじゃない、実際バケモノを目の前にして手も足も出なかった」


「アンタが能力を出したら、バケモノなんて瞬殺だったじゃない!」


 「だから! その能力は出せないから、辞めておけと言ってるんだ!」


 「さっきから出せないって、どういうこと? アンタの能力何でしょ? まさか、この歳になってまだ使えこなせてないの?」


「そんなわけあるか!」


 駄目だな……何とか納得してもらえる様な言い訳を作らないと。だが、この異能力だけは教えてはならない。きっと危険人物だとか言って排除するだろうからな。


「とにかくだ、SランクとCランクがバディを組むなんて前代未聞なわけ、余り目立ちたくもないし、俺は平穏に過ごしたいんだ!」 


「確かに、SとCがを組んだ事例は一つも無いけど。戦闘科アサシンにいるくせに平穏を求めるの? 意味分かんない」


「入りたくて入ったわけじゃないぞ。ここしか受からなかったんだよ、入試で第三希望にしてたんだが、第一と第二は不合格になっちまった」


 入試は三日間あるんだが、第一は一日目。第二は二日目と分かれている。


「何受けたの? ちなみに、技術科エクスギア機甲科アーマーレジストは倍率物凄かったみたいだけど」


「ドンピシャだ、その二つだよ。第一と第二」


 道理で受からなかったのか、それにあまり手応えは感じていなかったからな……けど、そういえば、確かに受けた三日間の戦闘科アサシン試験の記憶が殆ど無いんだよな。


「戦闘科も並の実力じゃ入れないわ。 確か合格条件は、学園側が用意した機甲鉄戦ガンストを一人で制限時間内に倒す事」


「へぇ〜〜そうだったか」


 機甲鉄戦ガンストってのはとにかく刃が通らない鉄の塊だったか


「なんで他人事みたいに言ってるのよ……」


 何かに閃いたのか企みが含まれてそうな顔を浮かべ、喋り始める。


「アンタが頑なに能力を出したくないのは分かった。 なら……階級昇級ランクアップするわよ!!」


「はぁ!? 突然何いってんだよ?」


「ランクをBに上げてあげる! だから上げるまではバディとして私と組んでもらう! それで良いわね?」


「いや良くねぇよ」


 ……SとCランクが組んだ事例が無いならBに上げちまえば良いんだと。いや今俺、Cなんだが? 後、Bに上がったらバディは解消すると言っていた。


「はぁ……」


 ……ありえん。

 ……本当にありえん。


 自分勝手にも程があるぞ、本当に。俺は……嫌なんだよ。自分じゃ無くなっていくあの感覚が。血が凍るようなあの感覚が。

 人の大切な何かを忘れて、ただ目の前にいる者だけを殺し続けていく。

 だから……戦闘は嫌いだ。

  

「なに辛気臭い顔して……」


 ノアは世良の表情を見て、に世良が見せた魔龍を思い出す。


「……でもさ、アンタ戦闘は嫌々って言ってるけど、表情は心なしか良くなってる気がするわ……ねぇ、戦闘。好きなんでしょ?」

 

 世良はノアの目をみた後、目線を右に逸らし少しためらう。


「なんだよ……急に。俺は戦闘がキライだって」


「確かに戦闘は嫌いみたいだけど、心の奥には楽しいってしっかりと書いてあるわ」


「なんでそんな事がわかるんだよ」

 

「相手の仕草や些細な行動で読み取れる事もあるの。アンタの場合は目線の動きね」

 

「はっ、バカか。目線程度で心の奥が分かったら苦労しないだろ」


  不意に突かれた本心を誤魔化す様にして悪態をつく世良。


「分かってないわね……そんなんだから、いつまでたっても状況が変わらないのよ!」


 だが、悪態をつく世良を前にノアは臆せず言葉を返した。

 

 二人は同時に威圧がかったオーラをぶつけ合う。

 

「お前は良いよな。強くて……それでいて経験も知識もある。良い教師に教えて貰って得たんだろ? ソレ」


 互いに収拾が付かなくなりそうな所で世良が口を開く。


「なにその言い方……私は自分で勉強して力を手に入れた。ただ教えて貰ったからってこのレベルまでは身に着けられない!」


「でもさ結局それって才能だよな。才能がある奴は他の奴よりも格段に覚えるのが早い……それも高いレベルで」


 だが、世良の放った言葉はノアの逆鱗に触れた。

 

「なに……? もしかして才能だけでここまで上がって来たとでも言いたいの?」


「実際そうだろ、才能がなきゃS《最高》ランクには到達出来ない。凡人がどれだけ努力したって中の上くらいが関の山だ」


「私は努力だけでここまで上がってきた! 自分に才能がないなんて、とっくの昔に分かってた!」


 ノアは怒った。努力の成果である自身をただ才能という言葉だけで片付けられたから。


「だからこそ、世界で一番努力して私が最強になるって決めた! 才能だなんて言葉で片付けないでよ!」


「でも環境は恵まれてただろ! 俺は知ってるぞ……お前が貴族の娘だってことをな。だから質の高い教師や環境も手に入れることが出来た」


 ノアが貴族出身だということは皆が知っていた。だから全員がノアは才能と環境に……そして能力に恵まれたと思っている。


「ふざけないで……。あんな家の何処が良い環境だっていうの……? 教師……? そんないる訳ないでしょ」

 

 教師がいないって──貴族の娘だろ。それにその炎神の能力、一般家庭からは絶対に出てこない最強レベルの能力だぞ。生まれ持った時点で才能がありまくりだと分かるハズだ。だから、才能の原石であるノアを育てないわけがないだろ……?


「どういう事だよ教師がいないって? 環境に恵まれてないって?」


「……私の家は代々高ランクを生み出す程、才能溢れた人間が多かった。でも全員がそうじゃない……私みたいに落ちこぼれも存在する」


「落ちこぼれ?」


「ハズレの能力を持って産まれた子供の事を、家では落ちこぼれと言ってる。私はハズレの能力を引いたの」


「ハズレって……二刀炎神デュアルブレイムの二つ名を貰ったお前が?」


 二つ名は世間に広く知れ渡ってる実力と実績ある者に贈られる。言わば称号の様な物。


「ねぇ……『没落能力』って知ってる?」


「噂程度しか知らないな」


「能力を使う際には、必ず体内にあるエネルギーを使うの。普通は生まれ持った能力に対して、ソレを扱える程のエネルギー量は持って生まれる」


「じゃあ、『没落能力』って……能力に対して必要なエネルギー量を持っていない。つまり使えないってことか」


「そういう事。能力に対して扱える程のエネルギーがなきゃ、ただの宝の持ち腐れになる。そういう人間を『没落能力』と揶揄されてる」


 能力にエネルギーは必須だ。 エネルギーを元に、より高い精密操作や威力の向上が期待できる。一定を下回ると、そもそも能力すら発現しない。


「私の家では、そういう人間は早々に切り捨てられる。だから……何も学べなかった」


「わるい……何も知らずに、才能って言って」


「大丈夫……私こそごめん。アンタも何か事情があるんでしょ? 特異体質のことは、事例が少ないから分からないけど」


 ノアは長い袖で隠していたが、それでも分かるほど、腕は肩から手まで火傷の跡があった。

 

 もしエネルギーの不足した『没落能力』で、自分の力だけで上がって来たのなら、この子は紛れもない……努力の天才だ。

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闘戦学園の双刀炎神《デュアルブレイム》 ゆりゅ @yuryudayo

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