学級替え《バディシステム》

 ガヤガヤ、ガヤガヤ。


 はぁ~昨日は大変だった。まさか、血塗れになって保健室行くわ。学園最強と出会って保健室の早瀬先生にカップル扱いされるわ。

 

 (学ランは結局ボロボロで消えちまったし)


 世良は今、二年A組クラス内、一番後ろの窓側の席に座っていた。そこは、様々な青春が生まれてきた場所。窓から見える景色は学園全体を見渡せる事が出来る。

 今日から二年二学期で、同時に席替えもあり、見事に最高の場所を引き当ててみせた。

 

 (最高の席だ、アイツらに会っちまったけ

ど、良い出だしみたいだ)


「よっ! 昨日はどうした〜〜学校に連絡もなしに休んだって聞いたぜ。珍しいな~〜もしかして、満員だったのそんなに悔しかったか?」

 

 最高の席をクジで引き上げ、喜びを心の中で抑えていると、席の隣から話しかけて来るのは、昨日、俺をバスから置き去りにした須藤賢吾だ。

 須藤は「万能科オールラウンダー」だが、一般授業だけの日は、クラスは同じ学級で様々な科の人間が混合する。逆に、実技授業だけの日は、科同士で集まる。そして科にもまた分かれる様にクラスがある。


「そんな事で休んでたまるか、修学旅行とかだったら諦めるって意味で分かるけどよ」


「それじゃ、一体何してたんだよ?」


「えっと、それは……」


 ガラガラがらがら。


 回答に困っていると二年A組のクラスを受け持つ先生がドアを開け入ってくる。


 「皆さん、おはようございます。今日は皆さんに大切なお話が二つ程あります。席について下さい」

 

 「光輝こうき先生〜話って何ですか? 私、めちゃ気になります!」


 先生へとキラキラとした目で期待の眼差しを向ける彼女は、楓原かえではら 未久みく。「機甲科アーマーレジスト」の総合Aランクの優等生だ。ワクワクと子供みたいにはしゃいでいるが、意外と物騒な科に入っている。

 「機甲科」は、主に戦車やバイクなど優れた機動力を用いて情報収集や警戒任務などを行う科である。俺の科、「戦闘科アサシン」とも良く合同で訓練したりする。


「一つ目は、タダの注意喚起さ。でも二つ目は皆驚くと思うよ」


 そう前置きをした光輝先生は、一つ目についてプリントを配って話し始める。

 

 「これはね、昨日起こった事件なんだけど、闘戦学園の赤門を入ってすぐ路地の敷地内で、正体不明のバケモノが暴れたという話」


 彼は昨日起こった事件について神妙な顔で語り始めた。15mに及ぶ、正体不明のバケモノ。

 これはきっと、俺が出くわした奴に違いない。

 「しかし、不可解な点がいくつかあってそれについても説明する。まずは特徴についてお話しよう」


 「なあなあ世良、昨日居なかったのって、ひょっとしてバケモノの件でか? まぁ、そんなワケないか〜〜」


「う、そんな訳、無いだろ」

 

 話を聞いている最中に小声で、確信を突かれ、少し困惑してしまった。


「バケモノの特徴は、以下の通りで──」


────────────────────

 特徴:おおまかな姿形は人間によく似ているが、異なる点は巨人であること。皮膚は全体が腐った青黒く色、髪は何年も髪を切っていない程長く、仮面を被っている。

────────────────────

 渡されたプリントには奴が写った何枚かの写真と共に、こう書かれてあった。


「やっぱりか……ん?」


 プリントを見て、俺はある事に気がつく。

 顔のコメカミに大穴を開けた、しかし、プリントにはその傷が一切無かったんだ。

 受けたダメージ分、傷が後から回復する。 

 やはり、予想は当たっていた。

 

 他のクラスメイト達が、異形の姿を見てざわつき始める。

 それを静止するかのように、教卓の前に立っている先生は話し始める。


 「うん、焦る気持ちも分かるけど、安心して欲しい。奴は既に我々、闘戦学園の地下に厳重に管理してある。脱走する事もまずないだろう」


 わぁーと皆が安堵の表情を浮かべていた時、そこに釘を刺すように割って入って来たものがいた。

 

 「はっくっだらねぇ、こんな奴にビクビク怯えやがってよぉ! 雑魚どもはこれだから」

 

 一番後ろで俺の席から、四番目の男。そいつは机に足を両方共上げていた。いかにも、悪そうな奴はこの学園でも、一番の不良だ。そして、例外を除いたランクで一番ランクの高い……Aランク。


「俺に言わせれば、こんなん殺すのイージー過ぎるなぁ、情けない奴等とは違ってね」

 

「六堂くん、少し静かにしましょうね。今は私が話しているので」


「けっ、地下に捕らえたってよ、そもそも信用ならねぇな! もし脱走したらどう責任とんだよ!」


 何時までも悪態をつく六堂に顔をしかめていると、またもや割って入ってくるものがいた。そいつは教室の外から入って来て、

 

「確かに、彼の言っている事が正しいわ」


 第一声と共に、意外にも六堂の言葉を肯定した。驚いたのは、ソレだけじゃない。なんと、そこには──ノアがいたからだ。


 「あっちょ、ノアくん何で合図も無しに入ってくるんですか!? サプライズで出そうと思ってたのに……」


「サプライズ? それはすまなかったわ先生。でも私、待つって嫌いなの」


「そうですか……ノアくんらしいですね」


 突如現れたSランクに、全員固まる……そして歓喜だ。


「うぉお! 凄え! Sランク様がこのクラスに何用なんだ!?」


「凄い……天才、ノア様。まさかこの目で、拝めるなんて」


二刀流デュアル炎神ブレイムが、ここに……まさか! 転級で来たのか!?」


「闘戦学園唯一のSランク、この様な風格とは……恐れ入った」


 息ピッタリだな……お前ら。

 あれ、まさか……このクラスに来る転級生は……ノア?

 

 「そうです! 今日からこのクラスに転級してくる赤瀬ノアくんです!皆仲良くしてあげてね!」


 ぱちぱち……と拍手を鳴らす教室。ノアがわざわざこのクラスに来たのか、疑問を抱く者もいた。


「ノアくんがここに来たのは、転級替え《バディシステム》を使用したからです。この教室にバディになりたい方が居るみたいなので……校則に乗っ取って、転級しました」


 転級替え《バディシステム》とは、二人組を作り、より相性の良いバディを見つける為。そして、戦闘訓練や試験で、より結果を残せるように組む事が出来る。


 へ〜アイツが? 自ら名乗り出るなんてな。 

 昨日しか関わっていないけど、アイツは油みたいな奴だ。俺達、水とは戦闘能力が違いすぎて混ざり合わないだろ……。

 

 「このクラスに私とバディを組む人間が居るわ! 拒否権はない、絶対よ!」


 拒否権ないって、アポ取って無いのか……? 横暴過ぎだろ……まさかな。

 

 ざわざわ……と誰がバディになるのか、そこらで犯人探しが始まる。すると、須藤が話しかけてきた。

 

 「なぁ、誰だと思う? 俺は、やっぱり未久ちゃんだと思うんだよ。同じ女子で、しかも良く合同訓練で一緒だ!」


「確かにな、ソレか他のAランクだろうな」


「もしかして……俺だったり?」


「ありえねぇな」

 

「即答かよ!?」 


 雑談してたら、ノアはある方向へと指を指していった。


「何寝ぼけてるの? アンタよ! アンタ! そこの阿呆面の片目人間!」


 「「え」」


 ……ありえん。

 ……ありえんだろ。

 この教室に片目だけの人間なんか、一人しかいない。そんなイレギュラーが居たら、すぐに分かってしまう……嫌でも。

 教室の奴等は、全員が俺の方を向いた。須藤も、羨まけしからんという顔でコッチを見てくる。


「世良……天下のSランクに直接指名されるとか、何したんだよ!?」


「いやいや!? 何もしてないって!? てか何で俺を選ぶんだよ!?」


「何でって……アンタ……」


 何故か、少し沈黙するノアに危機感を覚える。

 ちょっと待て、滅茶苦茶嫌な予感が──


「だってアンタは……せ、せ……責任とんなさいよ!! バカ世良!」


 言葉を省くな!? その言葉だけだったら、猛烈に誤解を招くぞ!?


「お前……まさか、バディだけじゃ無く、もうそこまで──!?」


「違う! 誤解だって! 決してそんな関係じゃない!」 


「そういえば世良、昨日、学ラン綺麗な物と交換しといたから、後携帯も返してあげるわ」


 新品同様の学ランと昨日奪われた携帯を投げてきて、キャッチしたすると──


 「あれ──あれれ? 私、わかりました! これ完全にラブラブです!」

 

 俺の前の席に座っていた楓原未久が、ガタン! と席を立った。


「世良くん、今日だけ学ラン着てない! そして、ノアちゃんが学ランを持ってきた!」


 ノアと同じくらい背が低い未久は、明るく活気溢れる声で謎推理を阿呆みたいに、並べる。


 「学ランと携帯を家に忘れた世良くんは、ノアちゃんに持ってきて貰った! つまり! 二人は今──! ラブラブの同棲中なんだよっ」

 

 同棲って、お前。

 そんな戯言信じる奴が居るか──?

 だが、ここはイカれた奴等の集まり、闘戦学園。

 クラスは盛りに盛り上がってしまった。

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