第18話
唇が離れると、男は私の唇の自分の唇を拭った。
「……こういうこと、慣れてないだろ。
気をつけろ」
私は捨てたのに。拾われたのに。
嫌がることは、何もないのに。
「………もっと食え」
そう言って、男はコップをキッチンに置きに行く。
外へ行くようだ。
出る前に振り返る。
「……出かける。寝ろ」
そう言って、ガチャリとドアが閉まる音がした。言われた通り、眠ることにする。
その前に、お風呂を借りた。
シャワーから出る冷たい水が体を打つ。
目を閉じて、体がひんやりとしてくるのを感じながら、深呼吸をした。
髪と体を丁寧に洗い、その後しっかりとタオルで体と髪を拭き、歯を磨く。
その後、渡された化粧水と美容液、乳液で顔の手入れをした。
ベッドへ行き、ボディークリームを手足、腕、首に塗り、手を洗う。
女なのだから、気を遣えと言われて渡されたものたち。
心の底では面倒だと思っているが、言われたのだから仕方がない。
髪にも洗い流さないトリートメントをして乾かす。
腰より伸びた、ゆるっとうねる髪はなかなか乾かないので面倒だ。
終わった後、髪をおさげに結う。
あまりきつくなく、ゆるゆるにする。
こうすれば、髪が痛むことはない。…らしい。
長い髪は、そのまま寝ると痛む。
きつく結んで寝るのも痛む。
三つ編みならまとまるし、きつくなったりもしないから便利だ。
1つ難点なのは、朝解いた時にうねることくらい。
あのマンションにいた時も、ロクにお風呂なんて入れてくれなかったくせに美容には気をつけろと言われていた。
だから、クリームやら髪は結って寝ろやら散々言われたので板についている。
ベッドへ入ると、ドッと疲れが押し寄せてきた。
そういえば、男が私の目の前で外へ出るのを見たのは初めてだと気づく。
でも、理由はわかってるし、気にもしていない。
聞く必要も無いだろう。
私は、”男”に拾われたのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます