第16話
ふっと、意識が戻ってくる。
目を閉じたまま周囲の音、匂い、温度、今自分が触っているものの感触を確認し、まぶたの裏から見える明かりで時間を予測する。
おそらく、ベッドの中で布団をかけてもらった状態。
室温は21度。
あとは特に聞こえない。匂いも特にない。
時間はおそらく15時程度。
近くには、人の気配がする。
たぶん1人。
そこまで予測し、ゆっくりと目を開けた。
「……お前なぁ」
側に男がいた。
ベッド脇に椅子を置いて、ベッドの端に寝そべるような格好をしている。
ゆっくり起き上がると、私の目を見て男はため息をつく。
「……風呂で寝るバカがいるとは思わなかったよ」
頭をガシガシと搔くと、私を起き上がらせた。
「……まぁ、あんなとこで死のうとしてたしな。風呂で寝て死んだって別におまえは困らないか」
そうだなぁ。むしろその方が嬉しかったかもしれない。
「……お前が捨てた命と未来は俺が拾ったんだ」
そうだね。かってに拾われた。
「……かってにとか思うなよ。
まぁ、そうだけど…。って違う!
つまり、俺が拾ったんだからかってに死なれると困る」
1人ノリツッコミ…。
まぁ、そこは無視しよう。
困る、かぁ。何に困るのかなぁ。
「……何とか、別にどうでもいいだろ」
そこ、けっこう大事だと思うのだけど。
「……ご都合主義って言葉、知ってるか?」
うわぁ〜。この人、逃げた。
「……逃げて悪かったな。って」
はぁ、と深いため息をついて、男はまたうなりだした。
「なんで喋らねぇお前に俺が1人で喋ってんだよ。無性に悲しいんだけど」
……ご愁傷様です。
「……それ、絶対お前にだけは思われたくねぇよ」
言葉は無くとも、なぜか思ってることを汲んでくれる男。
声を発する気力もわかないので、とりあえずこのままでいいやと思うことにした。
「……よくねぇよ。喋れや、おい」
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