第2話 私が見たあの夢の真相

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 社会人になって半年が過ぎ、ようやく仕事に慣れてきた頃、大学時代の友人、あきから連絡が来ました。


 それは大学時代の友人たちで集まって、遊ぼうというものでした。


 大学を卒業してから忙しくて、みんなと会えてなかったということもあって、私はこの誘いを受けることにしました。


 この予定を決めてからというもの、仕事が怖いくらいスムーズに進み、予定を変更することなく、私たちはその日を迎えました。


 この日の予定は、朝早くにみんなで合流して、車で隣の県にある大型アミューズメントパークに向かうというものでした。


 車内では、久しぶりに会えたということでみんなで盛り上がって話をしていたはずなのですが……。


 どうやら、私はいつの間にか眠ってしまったようで、


「ごめん……私いつの間にか寝てた」


 そう言って顔を上げた私だったのですが、その目の前に広がる景色はさっきまで居たはずの車内ではなく、なぜか電車の中でした。


 「ウソでしょ?!あれって、もう終わったはずじゃ……」


 すると、私の席の隣に人影が立ち、


「またのご乗車ありがとうございます!この電車は地獄行き、特急電車です!」


 そう言って隣に立つ車掌らしき人物を私は睨みつけた。


 その顔は人間ではなく、以前この電車に乗った時に私を直前まで追い詰めたあの大柄な猿の顔をした男と似たような猿の顔している。


 そんな私に車掌は構うことなく、手にしたマイクを口に近づけて……。


「また活き作りからでしょ……またあんな気持ち悪いものを見なくちゃいけないとか最悪なんだけど……」


『次は圧し潰し、圧し潰しでございます』


「はぁっ?!圧し潰しって何?次は活き作りのはずじゃ……」


 私は驚きのあまり立ち上がり、そして、そこで乗客の姿が以前と違うことに気づいた。


 そうか。前にここで殺された人たちは現実世界でも死んでいた。だから、もうここに居るはずがないんだ……。


 だとしたら、今は誰が……?!


 胸騒ぎのようなものを感じ、前の席に視線を移すと、そこには見知った顔が二つあった。


 その顔は、さっきまで私と同じ車内に居たはずの木内きうち君とあきだった。


「な、なんで、こんなところに二人が……」


 私は二人の姿を見て、ただただ呆然とするばかりでした。


だけど、時間は止まってくれません。


 気がつけばあの猿の顔した大男が大きなハンマーを持って、木内君の目の前まで迫っていた。


「待って!木内君、起きてーっ!!」


 私は立ち上がり渾身の力を込めて叫んだが、木内君は意識を失っているのか大男を前にしても微動だにせず、座って動こうとしません。


「ダメだ……このままじゃっ!」 


 私は慌てて席を立ち上がろうとしたのですが、どういう理由か足が動きません。それどころか腕さえ動かすことが出来ないのです。


『いけませんね……勝手なことをされては……』


 そうこうしてる間に大男はハンマーを振り上げ、そのまま一気に木内君の頭へ振り下ろした。


 何が潰れたような音がして、木内君はそのまま起き上がることはありませんでした。


 座ったままの状態では、木内君がどうなったのかまでは判りませんが、おそらく頭を潰されてるのだろうというのは容易に想像出来ました。


 木内君……。


 私が木内君の死に落ち込んでいると、大男はそのままあきの前に立ち、さっきと同様にあきの頭めがけ、ハンマーを振り下ろしました。


 再び車内にあの砕ける音が響きます。


「あき?!……どうして?なんで同じ理由で殺されるの?」


『どうしてって……当車では1人しか亡くならないなんてルールはありませんからねぇ……』

 

 驚く私に車掌は告げる。


「だって、この前は1人ずつ殺されてたじゃない!」


『貴女が以前乗車された時はそれぞれ死因が異なる方が乗車されていたのですよ』


「そ、それって……?」


『次は、挽き肉、挽き肉です』


 私の言葉を遮り、車掌が告げる。


 車掌の声に呼応し、大男がハンマーからチェンソーに持ち替え、私の元に向かってくる。


 ですが、私の身体は依然として動くことが出来ず、私はただただ念じるだけでした。


 起きて、お願い早く、早く……。


 ですが、一向に夢から醒める気配はなく、そうこうしてる間に大男が迫って来ます。


 もうダメだ……内心、諦めかけたその時でした。


「しっかりしろ瑞咲みさき!」


 後ろの車両のドアが開いて、1人の男性が姿を現しめす。


 その男性は私と一緒に車に乗っていた4人内の最後の1人、宮永みやなが君でした。


 宮永君は私の側まで駆け寄ってくると、私の手を取り、


「ここは危ない、早く逃げるぞ!」


 すると、不思議なことに身体は自由になり、席を立つことが出来たのです。


 私は宮永君に手を引かれるまま、席を立つと、まるで図ったかのようなタイミングで電車が停止し、私たちはドアを強引に開くと、そこから逃げ出しました。


 電車の外に出た途端、目の前が真っ白になり、気がつくと、私は車の中に居ました。


 ただ、車の中だったのですが、私の座る反対側はぐしゃりと潰れていて、車内が歪な形をしていたのです。


 な、なにがあったの……?


 突然の展開に頭がついていかず、私が呆然としていると、車のドアが開き、


「大丈夫か、瑞咲?!」


 宮永君が車の外から私に呼び掛けてきました。


「えっ……あ、うん、私は大丈夫。だけど……これって」


「話しは後だ。まずはここから出てっ!」


 私は宮永君に促されるまま車から出ました。


 そこではじめて自分が置かれていた状況を知りました。


 私たちが乗っていた車の右側半分が鉄骨の下敷きになり、潰れていたのです。


 つまり、車の右側……運転席と後部座席、そこに座っていた木内君とあきが潰されてしまったことを意味します。


 二人が潰されていたってことは……。


「宮永君、早くここから逃げないと……」

「えっ、車から出れば大丈夫なんじゃ……」


 あの夢で二人は頭を潰されていた。もし、あの夢の電車の中がその人が辿るべき死因を描いているのだとすれば、私の死因は挽き肉だ。


 この状態で考えられる私の身体が挽き肉にされような状況……それはもう一つしかない。


 私は宮永君の手を引き、無我夢中で車を離れた。


 その瞬間、車が爆発を起こし、車が瞬く間に炎に包まれていく。


 予想通りだった。あのまま、私が車の側に居ようものなら爆発に巻き込まれて、バラバラになっていたのだろう。


 天へと延びていく炎の柱を見つめ、私は考えていた。


 今回、私が夢に呼ばれた理由……それは死期が近かったせいだ。


 車掌はアナウンスしていた。

 

 この電車は地獄行き特急電車だ、と。


 その電車の行き先が地獄ということは、死者が乗る電車ということだ。


 今回はうまく回避出来たが、もし次に乗車した際、うまく逃げられる保証なんてない。


 それに最初、電車に乗った時、私に向けられたのは今回と同じ挽き肉だった。


 挽き肉とはつまり身体がミンチのようにバラバラに細かくなってしまうことを指す。


 この場合は爆発でバラバラになる予定だったのだろう。


 だけど、私は幸運にも回避出来たのだけれど、これが最後とは到底思えなかった。


 なぜなら、私の喉元には見えない刃物が突きつけられてるようなひんやりとした不気味な感触があることと、もう一つはついさっき車掌の言葉が聴こえてきたからです。


『この度のご乗車ありがとうございます。またのご乗車をお待ちしております』と……。


 

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あの夢のような話 紅家スケキヨ @SAWSOW

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