あの夢のような話
紅家スケキヨ
第1話 猿夢みたい
夢を見ていました……。
それが夢だと何故判るのか?
理由は私は判りません。けど、それが夢だとなんとなく理解出来たのです……。
夢の中の私は何故か薄暗い無人駅に一人いました。
「ここどこ?……はっ?!まさか……きさらぎ駅?!」
慌てて駅名を確認すると、漢字で駅名が書いてあった。
なんて書いてあったのかは判らなかったのですが、とりあえずきさらぎ駅ではなさそうで内心、安堵しました。
その上で辺りを見回してみると、ほんとに人の気配を感じない、寂れた駅でした。
これはホントに夢?……いや、多分夢よね、こんな駅見たことないし。
それにしても、ずいぶん陰気臭いを夢をみるなぁ……疲れてるのかなぁ、私?
そんなことを思っていると、急に駅に精気の無い男の人の声でアナウンスが流れました。
それは「まもなく、サルの電車が来ます。その電車に乗るとあなたは恐い目に遇いますよ~」と意味不明なものでした。
声の感じが某ネズミの大人気キャラに似ているのが意味不明さに拍車をかけていました。
「ん?……今、猿の電車って言った?」
駅に入ってきた電車にはトー○スのように電車の前面にお猿の顔が付いた奇妙な3両編成の電車でした。怪訝に思いながらも私は好奇心につられ、その電車に乗り込みました。
中は普通の電車と変わらない雰囲気でしたが、車両にほとんど人の姿はなく、乗っているのは二人の男女だけでした。
「えっと……確かこの電車に乗ってると怖い目に会うって言ってたよね~」
ただ、自分の夢がどれだけ自分自身に恐怖心を与えられるか試してみたい…その時の私は特に事態を重く捉えることもなく、気楽にそんなことを思っていました。それに本当に恐くて堪られなければ、目を覚ませばいいと思ったからです。
私は自分が夢をみていると自覚している時に限って、自由に夢から覚める事が出来たからです。
私は電車の後ろから3番目の席に座りました。とりあえず前の方に座るのは気が引けて、最後尾の列に座ろうと思ったのですが、最後尾には男性が、後ろから2列目には女性が座っていて、仕方なく3列目に座った形でした。
席に着いた瞬間、辺りには生温かい空気が流れていて、それがとても不気味で……それはまるでお化け屋敷に入る前のような雰囲気でした。
その雰囲気は本当に夢なのかと疑うぐらいリアルな感覚で、夢なのにひやりとしたのを覚えてます。
「 出発します~」とアナウンスが流れ、電車は動き始めました。これから何が起こるのだろうと私は不安と期待でどきどきしていました。電車は ホームを出るとすぐにトンネルに入りました。紫色ぽっい明かりがトンネルの中を怪しく照らしていました。
私は思いました。このトンネルの景色は子供の頃に遊園地で乗った、スリラーカーの景色だ。
この電車だってお猿さん電車だし結局過去の私の記憶にある映像を持ってきているだけでちっとも恐くなんかないな。
少しがっかりしたような気になっていると、車内にアナウンスが流れてきました。
「 次は活き作り~活き作りです」
ん?活き作り?魚の?などと考えていると、急に後ろからけたたましい悲鳴が聞こえてきました。
「なに、なに?!……なにが起こったの?」
振り向くと、電車の一番後ろに座っていた男の人の周りに四人のぼろきれのような物をまとった猿顔の小人がむらがっていました。
「なにアレ……きもっ!」
その猿づらの小人たちはただキモいだけの連中ではありませんでした。
よく見ると、男は刃物で体を裂かれ、本当に魚の活き作りの様になっていました。
「嘘でしょ?!ちょっと待ってよ……思った以上に怖い目にあってるんだけどぉ?!……てか、怖い通り越して殺しに来てるんだけどぉーっ!」
強烈な臭気が辺りをつつみ、耳が痛くなるほどの大声で男は悲鳴をあげつづけました。
男の体からは次々と内臓がとり出され血まみれの臓器が散らばっています。
「最悪……なんて夢よ……」
私はそう思いながらすぐ後ろには髪の長い顔色の悪い女性に視線を映しました。というか、この女性もなかなか変な方で、彼女はすぐ後で大騒ぎしているのに黙って前をを向いたまま気にもとめていない様子でした。
私はさすがに、想像を超える展開に驚き、本当にこれは夢なのかと思いはじめ恐くなりもう少し様子をみてから目を覚まそうと思いました。
それからしばらくして、気が付くと、一番後ろの席の男はいなくなっていました。
電車はまだ駅に停車してません。当然人が降りれるわけはなく、私は現実から目を反らしたいばかりにその男性は最初から居なかったんだと思いこもうとしました。
しかし男性が座っていた席には赤黒い、血と肉の固まりのようなものは残っていました。
うしろの女性は相変わらず、無表情に一点をみつめていました。
この人はこの人でこの状況で何考えてんのよ?と思っていると、
「 次はえぐり出し~えぐり出しです。」とアナウンスが流れました。
また物騒なアナウンスきた。なによ…えぐり出しって…。
すると今度は二人の猿づらの小人が現れ、ぎざぎざスプーンの様な物でうしろの女性の目をえぐり出し始めました。
さっきまで、無表情だった彼女の顔は、痛みの為ものすごい形相に変わり、私のすぐ後ろで鼓膜が 破れるぐらい大きな声で悲鳴をあげました。
「いや、もうさっきからグロいって…○リファーもビックリだよ」
おそるおそる振り返ると、後ろの女性の眼からは眼球が飛び出しています。血と汗の匂いが堪りません。
私は恐くなり震えながら、前を向き体をかがめていました。ここらが潮時だと思いました。
「いや、怖いとかの次元越えてんのよ!てか、ふつーに
これ以上付き合いきれません。しかも、順番からいくと次は3番目に座っている私の番です。
私は夢から覚めようとしましたが、自分には一体どんなアナウンスが流れるのだろうと思い、それを確認してからその場から逃げる事にしました。
「次は挽肉~挽肉です~」とアナウンスが流れました。
最悪です。どうなるか、容易に想像が出来たので神経を集中させ、夢から覚めようとしました。
(夢よ覚めろ、覚めろ、覚めろ)いつもはこう強く念じる事で成功します。今回もこれで覚める…はずです。
なのに、夢は一向に続き、ついに私の背後で不気味な機械音が聞こえてきました。
「嘘でしょ?!……あの音って?!」
振り返るとあの猿づらの小人ではなく、猿づらの2メートルを越える大男がゆっくりゆっくりとこちらに歩み寄ってきます。
「いや、おかしいって!なんで私の時だけ、あんなん出てくんの~!」
その手にはホラー映画でお馴染みの
どうやら、アレを使って私をミンチにするつもりなのでしょう。
(最悪!夢よ覚めろ、覚めろ、覚めろ……)
私は目を固くつぶり一生懸命に念じました。
機械音がだんだんと大きくなってきて、顔に風圧を感じ、
「覚めろっ、私ぃ~っ!!」
◇
「うわぁぁぁぁっ~!!」
大きな叫び声を上げ、私は目を覚ましました。
「も、戻れた…」
無事に目覚めたことに安堵の吐息をつき、思わず天を仰ぎました。
全身汗でびしょびしょになっていて、目からは涙が流れていました。
改めて、とんでもない悪夢だったと痛感させられました。
私は、寝床から台所に向かい、水を大量に飲んだところで、やっと落ち着いてきました。
ただ、そこで一つの疑問が浮かびました。
夢の内容は恐ろしくリアルだった。けど、所詮は夢。いくらチェーンソーで切られても、痛みなんて感じないはず…。
なのに、どうして、私はあんなにも焦ったのでしょうか。
確かに伝わる感覚が妙にリアルでホントにその場所に居るかのようなリアリティーはありました。けど、あそこまで怯える必要はなかった……はず。
妙な夢と答えの出ない疑問に苛まれ、私はその夜、一睡もすることなく、朝を迎えてしまいました。
◇
次の日、学校で会う友達全員にこの夢の話をしました。でも皆は面白がるだけでした。所詮は夢だからです。
「
友達のあきの言葉が私の心に深く刺さりました。
確かに私は、ホラー系の動画が好きで、よく心霊系の動画配信者のチャンネルを観ていたからです。
「悔しいけど……あきの言うとおりかも……しょうがない、しばらく動画はやめとくかぁ……」
私がため息混じりにそうつぶやいた時でした。
一人の男子が不意に変な質問をしてきたのです。
「なぁ、瑞咲、その夢で最初に死んだやつってバラバラにされたんだったっけ?」
「バラバラ?…そうね、活き造りだから、バラバラって言えなくもないけど」
「それで、次のやつは目玉くり貫かれたんだったよな」
「そうだけど……なんなの?」
「いや、似てるんだよ。その夢……」
「似てるって……どうゆうこと?」
「
「猿夢?……なにその都市伝説?」
その男子、
猿夢はオカルト板で有名なスレッドに投稿された奇妙な体験談で、その内容は寂れた駅で目覚めた投稿者が、電車に乗り、その車内のアナウンスの度に乗客が殺されていく悪夢で、そのあまりにもおぞましい内容から、検索してはいけない言葉の一つとして挙げられている。
遊園地にある様なお猿さん電車の中で、「活き作り」「えぐり出し」「ひき肉」と言ったアナウンスが流れ、その通りの方法で乗客が殺されていく、という内容だった。
「って、ちょっと待てよ、宮永。その話って今朝のニュースの内容と似てないか?」
もう一人の男子、
「だから、話したんだよ……」
彼がそう告げた瞬間、背筋がひやりとしたのを感じました。
「ちょっと…夢で殺された人が現実で死んでるってこと?映画じゃないんだから、止めてよね…」
そう告げるあきの顔は、青くなっていました。
その場にいた全員が、言い様のない不気味さを感じていたのです。
「ねぇ、その被害者の顔って判る?」
私は真偽を確かめる為に彼にそう訊ねました。
「ああ、情報提供を求めるために二人とも写真が掲載されてるよ…ほら」
彼に見せてもらった被害者の顔。それは夢の中で見た、犠牲者と同じ顔でした。
どうやら、あの夢の中で殺されると現実世界でも同じ死を迎えるようです。
「ウソでしょ…この人たちよ、私の前で殺されたのは!」
「はぁっ?!……ってことはこの人たち、例のお猿に殺されたってこと?」
どうゆう理屈かは判りません。ただ、私は目の前で彼らが殺される姿を目撃した。
しかも、
そして、あの時、もし夢から覚めてなかったらと思うと恐怖でしか、ありません。
「けど、もうあんたは大丈夫なんだよね……?」
確かに、私はあの夢の中から、抜け出すことは出来たけど……あれが一度だけとは言えません。
もしかしたら、今夜また夢の中に誘われるかもしれないのです。
「……多分ね」
自信はありませんでした。もしかしたら、今夜すぐにでもあの夢を見てしまうのでは、という恐怖もありました。
けど、あの夢を見ることはありませんでした。
それから四年の月日が過ぎ、私は大学を卒業し、社会人になっていました。
慣れない仕事に追われるように日々を過ごす内に私はあの夢のことを忘れていました。
あの瞬間までは……。
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