第6話
それより、おおよそ幾何の刻が過ぎ。
そこまで数の多くない議題がつつがなく処理され、円卓議会は円満に終了した。円卓の間は今、閑散としており、すでにバナンを始めとする参列者は解散し、自らの職務へと戻った。
セインブルグ十五世は閑散とした円卓の間の椅子に座り、書状をしたためていた。自室でも出来ることだが広い城内、詰まる職務、自室に歩いて戻る手間も惜しかったし、軍の計務課であるラプラスに送る書状などに一国の王が気を払う必要性はなかった。
「熱心ですな」
グランクが、年季の入った扉を音を立てながら開くと、開口一番の言葉がそれであった。おそらくは、嫌味である。王がそのような些事を引き受けるな、と。グランクの立場からすれば、苦言も告げたくなるとセインブルグ十五世は痛ましいほど理解できた。
「嘆願すれば、受け入れてもらえると勘違いされますぞ」
「今回だけよ」
グランクは書状を覗き見る。
「調査依頼、ですかな?」
「ええ、私の書状なら今日中に首席卒業生周りの情報収集を始めるでしょうし、早ければ午後にでも必要最低限の身辺情報が明らかになるでしょう」
「そのあとは?」
「暇な騎士大隊の第七師団でも突いて、お使いをさせるわ。連中も訓練ばかりで退屈でしょうし、良い気晴らしになるでしょう」
第七師団の評判は悪い。分類的には遊撃部隊、とでも評するのだろうが、実際はどの部署も任せられない半端な者の集まりである。
ただ。
第七師団と聞いて、グランクが眉をひそめる。なにか思う事でもあるかのように。
「第七師団、ですかな?」
「ええ。それが何か?」
「いえ」
グランクは王の言葉に首を横に振り、そこで一度言葉を切る。そして、王に対して心配げな瞳を向け、気をもむように告げた。
「私から申し上げることはありません。フォルスの下らぬ嘆願を引き受けたことも、申す事はありません。ただ……」
「ただ?」
「誰が何を陰で言おうと、あなたしかこの国の王はいないのです。あなたのかわりには何者もなれないのです。たとえ、ファラリス殿下であろうとも、なので」
グランクは、そこで懇願するように言う。
「くれぐれもご自愛下さい」
そのグランクの言葉に。
セインブルグ十五世は困ったように微笑を浮かべると、優しく返す言葉を紡いだ。
「わかったわ。安心して」
そうして、その日のアークガイアは、小さな事件こそ無数にあれど、大事とされることは何事も無く、一日の終焉を迎えたのであった。
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