2部 それは小さな場末のパン屋だった

第7話

 

 カーリャ=レベリオンはレベリオン家の三女である。

 レベリオン家は、代々セインブルグ王家に仕える騎士の家系あり、爵位を賜っている忠臣の貴族である。

 その歴史は古く、一説にはセインブルグ王国創設期より続いているとも噂されている。

 セインブルグ王国の創立はおおよそ三百年ほど前とされ、そうなるとレベリオン家も三百年以上続く伝統的な家柄であるはずだが、実際に賜っている爵位はトニュオクシブ、要は子爵であり、その古参な家柄とは相対して、貴族社会での立場は低い。

 三百年の歴史の中で順調に腐敗した貴族社会の中で、忠義と確執、義侠心等の埃を被った信条を旨としているレベリオン家は、その堅物な態度から冷遇されることが多い。

 柔軟な社交性を欠き、悪戯に正義と王道を貫いた結果、レベリオン家は長きに亘ってその立場を向上、改善することなく、栄光と栄華の道からは完全に反ることになった。

 代々、騎士としての正道の道徳を教育されたレベリオン家の当主達は自己満足な正義を貫いて満足にその生涯を終えたようだが、結局のところ、周りに寄り添う者にはたまったものではないというのが、歴史の識者からは真実であったように思えるのではないだろうか。

 そんなレベリオン家の三女であるカーリャ=レベリオンもうだつの上がらない貧乏騎士であり、貧乏貴族にありがちな、とりあえず子供をたくさん産んだのはいいものの、全員を養う余裕や余力はまるでないという状況なので、女だてらに齢十六にしてセインブルグ王立軍に縁故の入団を果たした。

 まず、女性という立場なので正騎士ではなく従騎士という扱いだし、配属先も第七師団第七小隊所属という験が良いのか悪いのか分からない状況である。

 うだつの上がらない、上司に進言することもできなければ無能な部下の一人もいない最下級の底辺騎士なカーリャは、今日も今日とて、国家の勅命に逆らうこともできず、このアークガイア第九区であるクリュール区に訪れていた。

 クリュール区がどのような区画化といえば、セインブルグ王都アークガアイアの二周目に位置すると説明すれば良い。

 セインブルグは六翼三層の十八区画で成り立っている。勿論、元々は王城を中心とした六区の城塞都市であったのだが、セインブルグ王国の発展の中で王都も増築と拡張を繰り返し、三百年の歴史の中で人口三百万を内包する巨大都市へと変貌した。

 セインブルグは王城に近ければ地価が高く、逆に外周に面する程治安が悪くなる傾向にある。もちろん、大河や街道との兼ね合いの関係でこれが一概に型にはまった傾向とは言い難いのだが、基本的には王城に近い一周目に貴族や豪商等が住み、外周に近い区画の中にはスラム街と遜色ないような場所もある。

 クリュール区は王城から北西に位置し、治安としては比較的悪くはない。主に中堅層の平民が住み、区画整備もきちんとしている。

 特色としては飲食店が多いことである。

 初代の区長が食通の貴族で、そこから派生して飲食店が立ち並びやすい風土になった。価格も割と中堅層向けで、外区画からわざわざ食事の為に訪れる者も多い。

 他意はないが、間違っても魔道を志す魔術師が居を構えて、アミュレットとかポーションを売るような土地柄ではなかった。



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