【魔王として勇者として】終

【魔王として勇者として】終


笛吹魔音+(ぴこ)



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ふと目が覚めた。

ここは何処だ?

確かあの時、魔王城の魔法陣に乗って天界へ来たはずなのだが。

本当にここは天界なのか?

「おいっ!全員起きろっ!何故か天界の雰囲気が違うぞ!」


勇者一行が目を覚ます。

そして我の言葉、空気を察して武器を構える。

「天界の空気が我にとって息苦しくない。これは何かあったのかもしれぬ。とりあえずこの森を拠点に行動する事にしよう」


勇者一行も、その事に納得した。

ただ提案として刃向かって来ない神や、天界の民は手に掛けない事を条件に。

「解っている。そんな事に力やアイテムを無駄遣いしたくないからな」





我はいろいろな天界の街を見て周る。

この姿で居ても何も言われない。

やはり死の神も居るから見た目で判断はされないようだな。

しかし、何処へ行っても情報が聞けないな。

情報統制が敷かれて居るのか?

「…何だ、あの人集りは?少々行ってみるか。」


人集りの所へ来ると、揉め事が起きていた。

どうやら今、命を生み出す神と死の神の争いが起きているとの事だ。

「ΜοιραとΘανατοsの事か…。」


その人集りに勇者一行も居た。

「何と、そなたらもここに居たのか。何か情報はあったのか?」


勇者一行は首を横に振るが、指を指す。

やはりこの人集りの事のようだ。

「今回倒す神はこの二柱の事だ。ΜοιραとΘανατοsと呼ばれている」


勇者一行は戸惑いを隠せていない。

それはそうだろう。

命を生み出す神を倒せば、もう人も魔物も天界の民も生まれない。

死の神を倒せば死ぬ事は無くなる。

もう新たな生き物を生み出されず、死なずに生きていける、それで充分な生き方が出来る。

但し…

「人間にとってはたまった生き方では無いのであろうな」


勇者は、神を倒す事を後悔しているように見えるが仲間達はそうしようと説得している。

「嫌ならいいのだ。ただこのままだと、また新しい勇者が生まれる可能性がある。利用される勇者が哀れなのだ。死ぬ事が出来なくなると、そなたらが哀れだがな…我はもうこのままでも良い。何度勇者に倒され続けてもいいのだ」


勇者一行は我の言葉に息を飲む事も出来なく、悲しい目をしていた。

しかし勇者は一声掛け声を挙げ剣を掲げる。

それに仲間も剣や杖を掲げる。

そこに光が瞬間輝く。

「どうしたのだ、勇者一行よ。自分の子を成す事も出来なくなるし、死ぬ事も出来なくなる。倒しても何も無いであろう。」


周りの天界の民も神を倒す事を反対している。

しかし、倒して欲しいという民もいる。

我らが倒すならばこれは、ΜοιραとΘανατοsを戦わせて勝った方を弱っている内に叩く。

そういう考えが浮かんだ。

そしてそれを勇者一行に伝えると、それならばという事でお互いに納得した。

「今、ΜοιραとΘανατοsはお互い争っている。かなりの時間戦っているようだ。だからどちらかが倒されるよう仕組む事もありだと思うのだが、どう思うか?」


勇者一行はそれが良いと賛成した。

それならば神々の戦いは時間がかかる為、どちらかの神の味方になり後から裏切る作戦で行こうとなった。

「味方となるならばどちらか…。どちらの味方に着くのも厳しいな。」


勇者は提案をしてきた。

難しいならば勇者一行はΜοιρα側に、我はΘανατοs側に着いてお互いが敵同士という事を見せて、それで背後から神に牙を剥く事にしようと。

「なるほど、そういうやり方もあるわけだな。勇者よ、助言助かる」


勇者は少し嬉しそうな顔で頬をかく。

我は夢で見た王妃…ソフィーの影を見る。

これも神の裁きの一つなのだろうか?

「では、勇者一行Μοιρα側に手伝う振りしてきて貰えるだろうか?我はΘανατοs側に行ってくるとする」


勇者一行は頷くとΜοιρα陣営に瞬間移動した。

「我も行くとするか、Θανατοs陣営に」





ふむ、流石死の神の陣営。

禍々しい者が多い。

我の呪文が通づるか怪しいな。

とりあえず焼き尽くせば少しは減らせるだろう。

いや、今来たばかりだ。

未だ動くのは早いな。

戦いつつ魔力温存して残兵にトドメだ。





よし、戦いがまた始まったな。

一番背後に着いて、打つ!

Θανατοsと、その陣営者が大魔術や呪文を使っている。

Μοιρα側も同じように攻撃してくる。

甘い呪文攻撃が多いと思ったら、これは勇者一行の攻撃か。

周りの敵にはヒットするが、我には当たらないように呪文を放ってくれる。

「やるじゃないか、勇者一行。我も負けるわけには行かぬな!」


我の周りの陣営の者はかなりダメージがあるようだ。

そろそろか?

無限の灼熱(インフィニティ・クリムゾン)を解き放つ。

我を中心に広範囲の攻撃呪文を放つ。

残兵は全て倒しきった。

我に炎の呪文は効かないからいくらでも使える。

遠視の目を使う。

勇者一行の居ない所へ向かい呪文。

漆黒の突風(ダークネス・トーネード)放つ。

Μοιραには特にダメージは無いようだが、周囲の敵は殲滅出来たようだ。

遠視の目を使っているのに、何故か勇者と目が合った。

勇者はグッジョブと親指を立ててるのが見えた。

「な、何故見えているのだ!?ここから数百kmは離れているのに!」


まあよい、とりあえず此方は粗方片付いた。

すぐ復活してくるであろうが。

「勇者一行の援護に回るか」


勇者一行の動きに合わせて呪文を放つ。

かなりの敵を殲滅し終えた…が

「流石、命を司る神。いくらでも産み出すか」


呟いた矢先に敵は復活している。

仕方ない。

呪文を連発して援護をする。

楽になったからだろう

勇者がΘανατοsに挑みに来る。

我も背後から死の神を撃つか。

いや、このタイミングはΜοιραを撃ちにか。

瞬間移動で命を司る神の元へ向かう。





魔王side


命を司る神の陣営に到達した。

さて、どう話しかけるか?

それとも攻撃を仕掛けるか。

攻撃が効くかは正直分からぬ。

何せ相手は神。

我とは次元が違う相手なのだ。

負けて元々か…よし、攻める!

闇の邪龍(ダークネス・スネークドラゴン)を放つ。

Μοιραに絡みついて身動きが取れなくなる。

何か言っているが神の言語は聞き取れない。

「命を司る神よ!魔王と勇者の命の繰り返しを断ち切らせてもらう!これ以上操り人形にされる訳には行かないのでな!」


Μοιραはこちらを振り返り悔しそうな顔をする。

しかし、それは致命傷だからではない。

屈辱を与えられたからだろう。

闇の邪龍は引きちぎられる。

流石に効く訳はないと思っていた。

だが、少しは効くようだ。

これは少しは勝機がありそうだ、1%位だが。

「我は負ける訳には行かぬ。かかってこい」


我はわざと神を煽る。

挑発に乗るとは思ってなかったが、通用したようだな。

命を司る神が詠唱を始める。

何が来るか正直分からぬ。

とりあえずこれは唱えておくとするか。

闇の瘴気(ダークネス・ウォール)

我の周りに呪文耐性の障壁を纏う。

その瞬間、神の光が我を貫く。

障壁を纏っていたお陰で致命傷は避けた。

やはり我が敵う相手では無いのか。

回復アイテムを使う。

鮮血の剣(ブラッドソード)を剣に宿す。

少しでも掠ればこちらも回復出来る。

闇の剣の舞(ダークネス・ソードダンス)で攻撃に特攻する。

神は驚きながらも攻撃を交わそうとするが、やはり交わしきれなく攻撃を喰らう。

血塗れになった神と回復した我。

片膝を付いてこちらを睨み付ける姿。

「神よ、ここで終わらせよう。我がトドメを刺してやろう」


灼熱の剣(ブレイズ・ブレード)放つ。

そしてΜοιραの心臓に突き立てる。

心臓から全身に地獄の焔が駆け回る。

命を司る神は絶叫を上げて力尽きる。

「これでもう産まれる者は居ない。そして魔王と勇者などと戯けたループが終わる」


神を倒せるとは思っては居なかったが、無事に倒せたな。

部下が装備になってくれていたお陰だ。

「部下よ、助かった。後は勇者一行の方だ。援護に向かおう」


我は再び死の神の陣営に瞬間移動した。





勇者side


死の神陣営がこんなに禍々しいとは思わなかったけど、ここからが正念場。

私は勇者として仲間に鼓舞をする。

「みんな、これが最後の戦いだよ!魔王も頑張って戦ってる!私達も行くよ!」


仲間たちはやる気あるみたいだけど、正直不安だよ…。

神に勝てるかなんて。

でも…魔王のソフィーって言葉…あの名前は…。

いや、今はそんな事考えない!

「行くよっ!もうこれ以上大切な人を死なせないんだから!」


轟雷波(サンダーボルト・ウェーブ)を放つ。

とりあえず遠くからの様子見。

当たれば少しは痺れるはず。


Θανατοsに呪文が当たったようだ。

しかし痺れはしていない。

こっちに気づいた!

「みんな!一斉攻撃だよ!」


聖騎士は聖なる剣(ホーリー・ブレード)を放つ。

聖術師は聖なる壁(ホーリー・ウォール)を放つ。

聖導師は輝きの柱(シャイニング・レイ)を放つ。

私は永遠の裁き(インフィニティ・ジャッジメント)を放つ。

聖騎士の攻撃は死神の鎌で弾かれる。

聖術師の光の障壁で皆を守る。

聖導師は後方から強力な光の呪文を唱える。

私は聖騎士が鎌を逸らしてくれたので、近距離から勇者専用呪文を叩き込む。

しかしあまり聞いている気がしない。

いや、悪い方に考えるのは良くない。

回復アイテムはいくらでもある。

ガンガン攻めよう!

「みんな!まだまだ行くよ!」


全員前回の呪文を唱える。

しかしその前に死の神が詠唱を終えて放つ。

何を言ってるか解らなかったから反応が遅れた。

聖術師の光の障壁のお陰でまだ大丈夫。

私は全体回復呪文(ヒーリング・オール)を唱える。

全員の傷が癒える。

みんなが立ち上がる。

「私達はまだまだ負けないよ!」


Θανατοsは死神の鎌を何回も振り回してきた。

やばい、これは避けられない。

「みんな何とか耐えて!」


目を瞑っているとそこに

「何をしておるのだ、勇者一行。このような攻撃に負けるつもりか?」


私が目を開けると魔王が死神の鎌が突き刺さっている。

「魔王…心臓に刺さっているよ…?大丈夫…?」

「我がこの程度で殺られると思うか?」

「だって心臓だよ?普通死んじゃう…」

「大丈夫だ、フンっ!」


死神の鎌が魔王の心臓に刺さりながら折れる。

Θανατοsは自分の武器が折れた事で動揺しているが、それを気にせず詠唱を始める。

魔王は死神の鎌を引き抜き回復アイテムを使う。

「ここは我が盾になってやろう。今すぐ体制を立て直せ!」

「わかった!魔王ありがとう!みんな準備よ!」


私達は詠唱を始める。

死の神は強大な闇の呪文を放つ。

「ふっ、その程度か。我は魔王ぞ。闇の呪文なぞ効きはせぬわ!」


私達は全力を込めて呪文を放つ。

先程よりはダメージを与えているようだ。

その時…

「あっ、痛っ。」


私のコンタクトがズレて外れてしまった。





我は勇者の一言を聞き逃さなかった。

「どうしたのだ、勇者よ。…っ!どうしたのだ、その瞳の色は!」

「あはは、バレちゃったね。この眼…。」

「そなたは人間の勇者のはず。何故、黒と紅の瞳なのだ!?」

「ごめん魔王。私も解らないんだ。産まれた時からこうだったみたいなの」

「その瞳の色は人間と魔族の血を引く色。まさか勇者、そなたの母の名はソフィーなのか?」

「そう私の母の名はソフィー。あの庭園で聞いた時もしかしたらと思った」

「では勇者、そなたの名はレティーなのか?」

「えっ、どうして解るの?名乗ってないのに」

「…勇者ソフィーは私の妻だった。そして産まれた子は理に反するとして天界へ連れ去られた。更にソフィーは人間界に強制送還だった。記憶を消されてな」

「という事は私はその後母の元に戻されたの?」

「恐らくな。まさかここで知る事になるとは」

「じゃあ魔王、親子技放ってみないですか?」

「一長一短で出来るとは思わぬが試してみるか」


死の神は再び詠唱を始める。

「よし、呪文が来る前に行くぞ!」

「はいっ!」


天光と宵闇の刃(カオティック・ブレード)を二人で解き放つ。

死の神の呪文も解き放たれる。

ぶつかり合って光で天界が溢れる!









「勇者一行よ、これで終わったな。人間としても魔物としてももう産まれてくることは無い。我の召喚術ですら無理だ。そなたらはそれで良かったか?」

「私達は大丈夫だと思う。これ以上魔王や勇者の肩書きに振り回される人が減るなら」

「そうか、それなら良いのだが」

「そうだ、魔王!私の母はまだいきているんだけど紹介したいの。良いかしら?」

「勇者の母親か。わかった、我の方に来てもらえるだろうか。我はこの姿ゆえ人間界には行けぬのだ」

「わかったよ!母を連れて魔王のところに行くからね!」


そして勇者一行が我の元に訪れたのは二日後だった。

「魔王ー!母を連れてきたよー!」

「おお、勇者よ。無事で何よりだ……っ!!そなたはソフィーではないか!何故ここに…」

「魔王、私の瞳知ってるもんね。実はね、私の母は記憶喪失だったの。でも私の事だけ覚えていたみたいなの」

「……。記憶喪失。しかし、人間は長く生きれないはず。攫われてから何十年経っていると…」

「魔王様、天界に攫われて封印されていたと考えれば辻褄は合うかと」

「フォルネウス、お主居ったのか」

「申し訳ありません、つい話に入ってしまいまして」

「いや、よい。その事を考えつかなかった我も愚かだった。それで、ソフィー、記憶は戻っておるのか?」

「ううん、まだ。ここに来る時に何だか懐かしいとは言っていたんだけど…」

「そうか…。時間が解決するしかないか。」

「そうだね、今の私達には悠久の時間があるんだから」

「皆さん、とりあえずお茶にしましょう」


フォルネウスが、ソフィーの愛する庭園でお茶の時間にする事となった。

ソフィーは綺麗や懐かしい気がすると呟く。

そしてフォルネウスが出した紅茶を飲み、驚いた表情をする。

思い出した…と小声で呟く。

「あ…あなた…もしかしてライアス?」


ソフィーが我の名を囁く。小さく細い声だがしっかりと。

「ソフィー、思い出したのか!?」

「えぇ、思い出したわ。私は娘、レティーを産んで直ぐに天界へ連れ去られ封印された。でも娘の事と貴方の事は忘れないようにしていたの。しかし…天界のお偉いさんは貴方の事を完全に封印しました。だから私には娘の事だけ記憶に残っていたのよ。」

「そうか…そうか…。無事で良かった、愛しきソフィー。そして勇者…いや、レティー。我が娘、苦労をかけたな」

「魔王…あ、ううん!お父さん!こう呼んでも良いよね?」

「お、お父さんだと!?」

「そうよ?貴方はお父さんと呼ばれるべきよ?うふふ。」

「う…ぬぅ…。わかった。レティー、何とでも呼んでいいぞ」

「ありがとう!お父さん!こんなに強いお父さん大好き!お母さん、魔王をお父さんに選んでくれてありがとう!」

「あらあら…。懐いているわね。」

「お父さんもお母さんも大好き!」


子育てをした事が無い我が今更出来るか不安だが良く考えればソフィーも大切な時期を逃しているのだ。

『もう産み出される事も死ぬ事も無い世界』

出産も亡くなる事も無い。

本当にこれで良かったのかは未だに解らないが、魔王と勇者の永久のループから解消された事はこの世界の勇者は助かった事であろう。

しかしいつか人間は開発を進めまた別の意味で産み出しを行う時が来るであろう。

我は生き続ける限りそれを阻止し続けよう。




カチャッ



最終話~完~


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【魔王として勇者として】 笛吹魔音 @mao_usui

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