【魔王として勇者として】2

【魔王として勇者として】2


笛吹魔音+(ぴこ)



_____________________


大広間、耳が痛くなるほどの静けさ。

この空虚な時間も何時間、いや何日、

何年経ったのか。

誰もそれは知らぬであろう。

そこにいる者達以外…。





カサリと動く者が居た。

この場所で久方ぶりの音であろう。

その者は何かを問いかけている。


何なのだ?

ん?何なのだとはなんだ?

我は意識を持つ者なのか?

ふと、そう思考を巡らせる。


「何者だ、貴様は…。」


これは我の声か?

長年出せていなかった為か

声が掠れている様だ。

何故長年と思うのか解らないが。


何か分からぬ物…いや、かつて観た事がある

そして話した事がある。

そんな気配がしている。


「名を名乗れ」

空に浮く物に問いかける。

いや、問い詰めると言う方が正しいか。

その物は慌てて名を名乗り始める。


「魔王様、私です、イヴィルアイでございます」

…ん?何処かで聞いたような名前だが

まったく思い出せない。


「我が魔王だと?それと、その名聞いた事がある…気がする。しかし我の記憶には…クッ…」

頭に鋭い痛みが走る。

何なのだ、これは。


「魔王様、大丈夫ですか!?」

「あぁ、大丈夫だ。大した事無い」

「何かありましたら仰ってくださいね!」

「解った」

随分心配性な魔物だ。

忠誠心があって大いに結構。

しかし、あまりにここは静かすぎる。


「イヴィルアイ、ここに魔物は居ないのか?」

「魔物は魔王様が召喚しないと増えませんよ!」

「そうか…。では、とりあえず何体か召喚しておこうでは無いか。今足りないのは何なのだ?」

「多分、参謀とか四天王とかだと思います!後は魔王様の側近やメイドとか居ると便利だと思われます!」

「ふむ、今の我では、そんなに召喚出来なそうだな。後、我は何年眠っていた?数日とかではなかろう?」

「え?全然眠りについて居ませんでしたよ!」

「いや、我は勇者一行と全力で死闘を繰り広げたのだ。魔力の回復をしないと…」

と、会話しているところにある男が現れる。


「おや?魔王様、どうかなさいましたか?」

「うむ?そなたは誰だ…クッ…またか…」

「魔王様!フォルネウス様ですよ!魔王様の調べ物を手伝ってくださっていた!」

「そうか…済まない、記憶が万全では無いようだ」

「フォルネウス様、魔王様はまだ記憶が安定してないですからゆっくりしましょう!」

「そうですね、では私は調べ物をしてきます」

フォルネウスの姿が消える。


「では、召喚を行うとしよう。」

魔法陣を描き術を唱える。

まずは参謀と側近であろうか?

やはり知的であると助かるが

フォルネウスが充分に賄ってくれているようだ。

しかし、調べ物に忙しい様では

これ以上負担にさせる訳には行かないだろう。

そうなるとやはり召喚するしかない。


「出てよ!我下僕よ!」

禍々しい輝きの中から二体の悪魔が現れる。

ふむ、知識はありそうな者が現れた、そう思う。


「そなたら、名を何と申す?」

「魔王様、召喚有り難き幸せ。私はアモンと申す者でございます」

「ほう、魔王とな…。我はバルバトスと申す」

「バルバトス、魔王様にしっかり挨拶をしないとならないでしょう?」

「ふん、わざわざ来てやったのだ。何故ペコペコせねばならん」

「アモンとバルバトスか。我の力を少々与えてやろう。より強くなれるであろう」

「有り難き幸せ。魔王様に忠誠を」

「ま、有難く貰ってやる」

「アモンはこれより我の側近、バルバトスは参謀として活躍を願う」

「「はっ!」」


これで身近に力のある者が存在する。

勇者の強さには及ばぬであろうが

居るだけで取り敢えずは安心か。


「ところで、勇者一行は現在何処に居るのだ?」

「今壁に映しますね!」

「おや?これは魔王城の前ですね。随分と早いお出ましのようだ」

「我らがいる限りここには来れぬわ!」

「さあ、バルバトス。魔王様の為に勇者一行の相手をして来ましょう」

「わかった、アモン。行こうではないか」


二人の魔物は勇者一行と戦う為に出て行った。

「さて、勇者一行はどのように戦うのか少々見物させてもらうとするか」

「魔王様、頭が良いです!相手の力量を見定めるんですね!」

「多少気になる事があるのでな」

「それは意識を取り戻した時でごさいますか?」

「そうだな、その時何故か戦った記憶が微かに残っている様な気がするのだ」

「でも魔王様は寝てはいませんでした。しかし勇者一行の記憶が無いのは不思議ですね」

「ああ、そうなんだが…ん!?そろそろ勇者一行との戦いが始まるようだな」

「研究しておきましょう!」





「バルバトス、とりあえず魔王様の為に勇者一行の力量を見極める、そして魔力を削る」

「ああ、わかっている。我々の仕事は魔王様の為にだからな。命も含めてな」

「ふふ、命を懸けてでも魔王様に協力をしようとするとは、なかなか考えが変わりましたね」

「うるせえ、我は自分の力だけで魔界を制圧するつもりだ。あの魔王もいつかは...」

「隠しきれてませんね、本当の感情が。さて、そろそろ勇者一行が来ますよ。行きましょう」

「そうだな、暴れまくってやるか。力が漲って暴走しそうだ」





「魔王様、今アモン様とバルバトス様が勇者一行と戦ってますね!私の目でも戦いに追いつけません!」

「いや、大丈夫だ。これくらいならまだ目で追える。そろそろアモンとバルバトスを撤退させる」

「もう宜しいのですか?魔王様?まだ勇者一行に力を使わせた方が...」

「とりあえず、この状態の勇者一行はどの程度なのかと思ってな」

「魔王様...それではアモン様、バルバトス様、魔王様がお戻りくださいと申しておられます」

「勇者一行...あれは夢か本当か試させてもらう」





「バルバトス、魔王様が撤退をする様にと言っておりますが?」

「我はまだ戦いたいのだ。帰りたければ貴様だけ帰るが良い」

「刃向かっても良いのか?魔王様からの功績を頂いて、魔力も頂ければ一石二鳥ではないか?」

「...くっ!勇者一行、ここは一度手を引いてやろうではないか。我々より恐ろしき者が待っている事を後悔するが良い!」





「魔王様、勇者一行が魔王門の前に居ます。もう最終決戦ですよ!」

「ああ、そうだな...。もし、我が敗れた時はそなたらは急いでこの城から脱出するのだ。何かあった時は勇者の血筋を残さない為城に仕掛けを施しておいた」

「魔王様...私達そんな事出来るわけがありませんよ!少しでも人間共に被害を与えないと気が済みません」

「アモンそなたらしい発言だな。だが、これは重要な事なのだ。解ってくれるな?」

「ふん、勇者一行にやられたヤツに仕えるつもりはねえな。我は知らぬ」

「バルバトス、それでも良い。我が死んだ時にその事をしてもらえれば、それだけでいいのだ」

「はあ、解ったぜ。その時はそうすればいいんだな?その後は我は自由にするからな」

「助かる。どうかその時はイヴィルアイも避難させてやって欲しい。出来るだけ安全地帯に」

「はいはい、そのチビも助けりゃいいんだな。そんなのお易い御用だ」

「では、よろしく頼んだ。我は行ってくる」

「魔王様、お気を付けてくださいませ!」





魔王門が開く。

そこには勇者一行が居た。

かつて見た事があるような最初の職業。

我はいつの間にか笑みを浮かべていた。


「勇者一行、ようこそ魔王城へ。そんな初期職業で大丈夫なのかね?」

勇者一行は苦い顔をしている。

まあ、そうであろう。

この世界には魔物が出ないのだ。

レベル上げなどまともに出来ない。

言ってしまえば自主練くらいしか出来ないのだ。


「早速戦うかね?」

もちろん!と返事が帰ってきそうな質問をしてみる。

しかし...。

勇者一行は仲間と顔を見合せ俯いている。


「我が家臣と戦って魔力を消耗したかね?」

勇者一行は、首を振る。

一体何があったのか、聞いてみるとするか。


「何があったのだ?話してみるといい」

戦士が話そうとする勇者を止める。

勇者は目で訴え、戦士は諦める。

勇者一行の力が強くなる一方、敵と戦えない為、力を発揮すると体が持たないかもしれないと。


「ふむ、勇者の加護とは大変な物だな。ふむ、では我と戦い強くなれば良いのではないか?我も強き者と戦えるのであればそれは喜ばしい」

勇者一行は動揺し、どうするなどの話し合いが起きている。


「まあ、最初はただ粉微塵にされるだけだろうけどな。それに耐えれば強くなるだろう。しかし何故強くなれなかったのか...前のヤツは敵がいなくても強かった」

勇者一行は?のような顔をしてこちらを見ているが、我は無かった様な顔をし、何でもないと答えておく。

過去か夢か解らないのだから説明しても仕方ないのだ。





「魔王様、勇者一行を鍛えるなんて何をお考えなんですか!倒せるうちに倒しておいた方が!」

「イヴィルアイ、我は強い者と戦いたいのだ。それが勇者一行でもそれ以外でもな」

「アモン、さっきの勇者一行との戦い、何もしてこなかったと思ってたと思ったら何も出来なかっただけなんだな!」

「そのようですね。何も出来ないのによくこの城に辿り着けたと思いますよ。この城の周りには毒の沼地があると言うのに」

「それは勇者の加護と言うもので、無効化されていたのでは無いのか?」

「なるほどですね、流石魔王様」

「勇者の血を絶やすとか言っていた口が、何でこんな事をするのかね」

「バルバトス、そなたは強き者と戦いたいと思わないかね?」

「それは解る気はするけどもよ。わざわざ強くして魔界の驚異にならない事を祈るぜ」

「では我は行ってくる」





「ふむ、勇者一行を倒して既に五十になるか」

どれくらい強くなったか気になるところだが...最近来ない勇者一行。


「どうしているのか...。もしかしたら転職などしているのかもしれないのう」

「魔王様!勇者一行の新情報です!」

「どうした!イヴィルアイ!」

「勇者一行が人間界の王国裁判で死罪になったとの事です」

「なっ!なんだと!?人間共の救世主なのではないのか?勇者と言うのは!」

「そっ、そうなのですが...」

「それはですね...」

「アモン、何か解るのか!?」

「魔王様、勇者一行が魔の者と親しく...いえ、鍛えてもらっているとなったらどう思いますか?」

「何?」

「解らないのかい?聖なる力が魔の力に変わる可能性があるって事だ。その前にって事だ」

「なんと言う事だ...我が間違っていたのか...」

「魔王様は間違っていません!」

「この世界に雑魚魔物置いておけば、良かったのか?それが良かったというのか!?」

「魔王様!」

「...我は今から人間界を滅ぼしてくる。この城は壊れないように厳重に結界を貼っておく」

「人間界を滅ぼすのはいいですが、勇者一行の為に滅ぼすと言うのは...」

「我の決断に何か異議でもあるのか?」

「...いえ。」

「しばらく留守にする。何も無いと思うが、この城は任せておく」

「行ってらっしゃいませ、魔王様...」





「ここが魔王城の真裏の位置か。丁度勇者一行の旅立ちの町で、処刑された所か。勇者一行の亡骸は我らが魔王城に持ち帰るとしよう」

王城から兵士が数百人出て来る。

こちらは浮いているのに剣や槍で攻撃している。

届かないと判断した兵士は弓兵や砲兵を用意しているがこちらにはバリアを貼っている。


「そなたらの為に頑張っていた勇者一行を無駄死にさせておいてその行動か。貴様らの方が死ぬべきだ!死ねっ!」

数百万の虚無(ミリオネーション・ニュークリア)を解き放つ!

砂埃が収まった時、世界は更地となっていた。


「勇者一行よ、仇は取ったぞ...」

我はその後魔王城に帰り、勇者一行の墓標を作り上げた。



カチャッ


キュルキュルキュルキュルキュルキュル


カチャッ



第二話~完~


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る