第4話 バズ・ライトスタッフ
「えー、ダンジョン前署・ダンジョン課長の
「お世話になります」
「だが……」
ようやく戻ってこれた警視庁ダンジョン前署庁舎。
そのダンジョン課ブース、課長のデスク。
ナイスミドルで実直そうな課長はドン引きしている。
初見で『ドン引きしているのに実直そうだ』と分かるのだ。
これは相当できた人間でいらっしゃるだろう。
その人間が露骨にドン引きしている。
これはドン引き中のドン引きだろう。
そこまで酷いらしい。
オレのやったことと、
右頬の青アザは。
「早速事件を解決してくれて感謝する、べきところなのだが」
彼は気まずそうに、デスクに備え付けの電話へ目を向ける。
「本庁より、『動画投稿サイトの配信内にて、警察官が市民相手に暴れている。いったいどういうことか』とお叱りの電話があった」
「あれは公務執行妨害の現行犯逮捕であって、暴れてたんじゃありません!」
粟根が擁護してくれるが、
「我々が訓練する逮捕術に『右ストレートで突っ込んでいく』というものはない。そもそもあんな凶器を持っている相手に、素手で突っかかるのは危険すぎる。我々には可能なかぎり殉職を回避する義務がある。あの行為は市民に間違った印象を与え、若手の警官にも悪影響だ」
「おっしゃるとおりです。熱くなりすぎました」
「二階さぁん……」
「上総巡査長も負傷したんだ。そのことについての責任はある」
あのあとオレは昭和が過ぎる解決法に乗り出し、そこそこ面倒なことになった。
と言っても、少しはオレの言葉が響いてくれたのか。
そんなガチな抵抗はされなかった。
だが向こうも張り合った手前、まったくの無抵抗もバツが悪かったのだろう。
つい反射的に手が出てしまった。
それを見て、すでに助太刀に入っていた上総がヒートアップ。
本気のパンチを繰り出し大剣の峰で受けられ、思いっきり手首を痛めた。
今は係長に手当てしてもらっている。
「まぁ今回は不問となったが、こういうご時世だ。特に我々の現場は、最近流行りの配信者がどこで撮影しとるか分からん」
「以後、気を付けます」
説教こそあったが、課長は一定の理解を示してくれているようだ。
素直に返事をすると、安心したように鼻から息を抜く。
「では、ここで課のみんなに紹介、と行きたいところなんだが。悪いが被疑者の聴取に当たってくれ」
「自分がですか」
「『君になら話す』と言っている。頬の手当てが済んだら始めてくれ」
「はい」
一旦デスクに戻ると、粟根が係長から湿布をもらってきてくれた。
「貼ってあげます」
「自分でやれるよ」
「いいからいいから。それより、今日から相棒になるデスクの座り心地はいかがですか?」
「あぁ、転んだ腰に優しいよ」
どうやらデカいサイズの湿布をもらってきたらしい。
彼女は青アザと睨めっこして、サイズを合わせるべくハサミを取り出す。
「そういえば、二階さん」
「なんだ」
「『エラそうにならないために、警察官は立ち向かわないといけない』ってお話。あれすっごくよかったです。私感銘受けちゃった」
「……言った端から、説教垂れてしまったな」
一番恥ずかしいヤツである。
だが、あの明け透けでテンション高めな娘がしっとりこぼすのだ。
我ながらいいことが言えたのかもしれない。
「みんなそう思ってるみたいですよ?」
「みんな?」
「あの現場、ずっと配信されてたでしょ? なので二階さんのお話も一緒に流れまして。コメント欄は大盛況ですよ?
『信頼は大事』
『全ての警察官に、この思いは忘れないでいてほしい』
『熱血警官現る』
『昭和のかほりがする男』
『やだ、イケメン……(トゥンク)』
『自分はまだ若いと思ってそう』
などなど!」
「……いろいろ言いたいことはあるが、オレは平成生まれだ」
変なコメントも多かったが、ツッコんでいたらキリがない。
そもそもオレが細かく答えるまえに、
「ま、今日は『新人さんようこそ』と名物
粟根は話を切り替えてしまった。
「口の中切ってるから、熱いのは勘弁してほしいんだが」
「ノンノン、ダンジョン前署の宴会はもんじゃと決まってるんです。商店街に出たら、もんじゃのお店が60はありますから!」
「多いな」
「ウチに来たからには、お気に入りの店を見付けるのがルールですからね!」
「それはちょっと」
「なんでですか」
どれだけもんじゃ愛が深いのか。
ちょっと遠慮しただけで、初の冷たい目線を向けられる。
「なんでって、初日からこれじゃあなぁ。今回はなんとかなったが、普通に危険すぎる。勢いで行ったヤツの言えたことじゃないが、命がいくつあっても足りんよ。早いとこ実績を上げて、死ぬまえに本庁へ……」
「うるさい。しゃべらないで。湿布貼りにくい」
「えぇ……」
どうやらオレが放り込まれた職場は、ダンジョンに負けず厄介な穴らしい。
保険を見直した方がいいかもしれない。
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