幕間:3 雷は何処か

「では、緊急役員会議を開始する」

 社長である鶴田陽人は、厳かな声音で告げる。

<ミヤマ>本社にある会議室。

 会議室には、社の運営を左右する役員たちが集っていた。

 誰もが創設時より社に仕える者であり、先代の意志を継ぐ者たちだ。

 時に経営を巡り衝突しようとも、社の未来を願うのに偽りはない。

「今回の議題は、皆が周知の通りだ」

 緊急召集されようと、会議室に集った者たちの顔は様々だ。

 きっかけは今より二時間前。

 緊急生配信された戸田一騎とだかずきと黒騎士の戦闘であった。

 社籍は<ミヤマ>であるからこそ、配信終了直後からマスコミの問い合わせにより回線がパンクした。

 広報課の社員が泣き、通信が繋がらぬためにマスコミが本社へと直に押しかける。

 当人不在を理由に、日を改めて会見を開く約束を結ぶ形で下がってもらった。

「驚きましたね。まさか若が」

 驚き、希望、敬意と役員の誰もが好意的な表情であった。

「いやいや、流石先代の遺児、まさかこんなに早くやってくれるとは」

 若とは、先代社長の遺児たるイッキのことであり、役員の面々は、敬意を込めてイッキをそう呼んでいた。

 将来有望、先代の意志を託すにたる逸材と誰もが可能性に期待していた。

 当人は、○暴の若頭のようで嫌がっていたが。

探索者資格ダンジョンアカウントを奪われ、成りすまされたと知った時はどうなると思ったが」

「ええ、結果として良いほうに転んでいます」

「前回、若が手に入れた電機殻エレキハルですが、予定通りオークションに出す予定です。ですが、やはりというか」

 役員の一人が言葉を濁す。

 誰もが分かっているからこそ、次なる発言を待つ。

「例のグループが案の定、言い値で買い取ると、正規ルートで接触してきました」

「正面からとは、ふてぶてしいな」

「分かってはいたが、他には?」

「防衛省です。こちらは相場で買うと」

 会議室の空気が停滞する。

 誰もが、困った顔をしていた。

 企業として言い値で買うのは、喜ばしくも買い手を踏まえれば、よろしくない。

 省庁が相場での購入を持ちかけているならば、今後の長いつきあいを踏まえて、実りが結果として多くなる。

 電機殻エレキハルは膨大な電力を内蔵した蓄電器。

 テニスボールサイズでいながら、関東一円の電力を一年は賄える。

 殻も頑強なことから、災害時における緊急電源として、破格の機能を有していた。

 声に出さないが、国防のエネルギー源になるのもまた。

「売買の件は一旦、保留としよう。黒騎士の件で多忙だと」

 社長の発言に誰も意見を挟まない。

 討伐した当人がまだ未帰還なのも大きいだろう。

「若は無事なのですか?」

「接触したリーゼルトくんから無事だとの連絡は来ている。少し休ませた後、そちらに戻すとのことだ」

 片づけるべきタスクは多いが、根を上げる大人たちではない。

 若人が自ら身体を張っている。

 ならばこそ支えるべき大人が、未来を担う若人に任せっぱなしでは情けない。

「ひとまずは、ですね」

「ああ、水面下であちらさんは動いているがな」

「社長、若に例の話は?」

「親友との約束だからね。話してはいないよ。ただ、遅かれ早かれ気づかれるだろう」

「内々的ですが、株主の何人かと接触しているようです」

「懲りないと言うか、諦めが悪いというか」

「株主公開買い付けでも仕掛ける腹積もりだろう」

 みんな仲良くとは簡単そうで難しいものだ。

 今、この会議室にいる者たちもそうだ。

 かつては経営を巡り、裏に表にと衝突は絶えなかった。

 まとめられていたのは、先代社長夫婦の手腕が大きい。

 今もこうして一丸となって社を運営できているのは、皮肉なことに、先代社長夫婦の事故死を端に発した買収騒動。

 社がバラバラに切り売りされる瞬間、皆の心は、一つとなった。

「やはり、時期的にそろそろ話しておくべきかね」

 社長は、一枚の機密書類を手に取った。

 ペーパーメディアは電子化の時代だからこそ、ハッキングに強く、窃盗、紛失した場合、すぐに把握できる。

 内容は、今回の件の調査を担った社員からの経過報告であった。

「今は、彼の、イッキくんの帰還を待とう」

 唯一の家族を助ける為が発端とはいえ、結果として多大な利益を<ミヤマ>にもたらしてくれている。

 後は、今後の成長と、未来の家族に期待したい。

「社長、失礼ですが、厳つい顔が笑ってますよ」

「厳ついは余計だ」

「大方、いかにしてご息女と結婚させるか、企んでいたような顔つきで」

「失敬な、それをゲスの勘ぐりと言うんだよ」

「そういえば、私の姪が、若の後輩だそうです。最近、学校を休んでいるのを心配していましたよ」

「あっそう、元気だって伝えとくよ」

「娘が若の大ファンとかでサインをねだられたよ」

「娘って、四〇越えてるだろう。チラシの裏にでも書かせるから待ってなさい」

「一人娘が良い歳なのですが、生憎、私自身長男なので、婿養子を考えているんです」

「とればいいんじゃないの? 年上がいいよ」

 先ほどの停滞感はどこに消えたのか、会議室には牽制、威圧と別なる空気が重さを増す。

 むしろ、未来の後継者に誰がバトンを渡すかで議論が白熱していた。

 誰が誰かと白熱から激突に至りかけた時だ。

「失礼します!」

 会議室のドアが夏美の手で勢いよく開かれる。

「社長、大変です!」

「何かな?」

 神妙な趣に社長を筆頭に役員たちは、沈黙する。

 夏美の表情は、毒杯でも飲み干したかのように苦い。

「電機殻が盗まれました!」

『はぁっ!?』


 ――――――――――――――――――――


 金鮭介:ニュース! 大ニュースだ! <ミヤマ>で泥棒だってよ!


 ドーネルマン:おいおい、良いニュースの次は悪いニュースかよ


 チン竹ノ子:一騎が黒騎士討伐してフィーバーしてんのに、水差してくるな


 マッパッハ:では尻ムスビ先生、詳細よろしく!


 ωスビ:もう反論する気無くしたわ。っか、お前らちょっと俺が情報に詳しいからってなんでもかんでも頼るな! ネットで漁ったもんだっての!


 黒音:よっ、先生!

 

 ラーの浴槽流:大統領!


 ウルマーノフ:あなただけが頼りなんです!


 ωスビ:あ~もう! 詳細はまだ不明。確かなのは、ホーム内の<ミヤマ>幻界ムンド日本支部に保管されていたアイテムが盗まれたこと。何が盗まれたかは、公表はされていないが、恐らくは……。


 坦々カレー:電機殻エレキハル


 明太子:それしか浮かばないよな。


 きなここげぱん:あれ一つで、探索五〇〇回分の儲けが出るほどだし盗んだの誰だよ?


 ωスビ:ネットの歴史上、嘘でも憶測でもバズりたいからって理由でバラまくと、後々訴訟問題に発展するから、黙っといたほうがいいぞ?


 シャチマン:ωスビ先生、もう遅いみたいですよ


 ωスビ:シリスビ! あっ!


――――――――――――――――――――

これにて第三章完結!

次より第四章、最終章が開幕します!

イッキはアカウントを取り戻せるのか?

うるすけと再会できるのか?

シグマの狙いとは?

次章を待て!


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