第30話 ボス討伐チャレンジ

『行け~カズキやっちまいな!』

『ファイトファイト!』

『はい、最近、視聴者増えてきたから、チャンネル登録者二番目の俺がみんなに説明するぞ!』

『最初じゃないのかよ』

『狙ってたけどハルハルって人にとられたんだよ!』

『このカズキチャンネルはボス狩り探索者チャンネル。それもチームじゃなくてソロでやってるときた!』

『普通、ボスなんてチームで挑むんであって、ソロでなんてやんないけどな。リーゼルト・スケアスなら別として』

『ソロは失敗率高いし、喪失ロストもあるから赤字になる。けどチームでやれば損耗は抑えられるし、喪失ロストしても死なば諸共、チームだからリカバリーだってやりやすい』

『しっかし、すんごいチャレンジャーだよな』

探索者シーカーやること自体、凄いっての』

『やれって言われたら無理無理無理!』

『戦闘に忙しすぎてコメント見てくれないのは、アレだけど』

『注意一秒どころ一瞬で惨事だぞ!』

『見てたら死ぬって!』

『ボス戦のハラハラ感がたまらん!』

『それよりカズキの今までの戦績確認しようぜ!』

『累計ボス戦回数は一六回』

『喪失回数は一五回だな』

『ボス討伐数はようやくの一回』

『現在の同時接続者は七九四三!』

『並の探索者なら現界に裸足で帰るレベルだぞ!』

『一回でも倒すのヤバくね?』


<ボス討伐チャレンジ挑戦中!>

 イッキチャンネル改め、新設されたカズキチャンネル。

 安直なチャンネル名だが、凝った命名をつける時間が状況的に惜しかった。

 騒動のどさくさに紛れて、探索者資格ダンジョンアカウントと紐づけされている動画配信アカウントまで奪われていたのは痛い。

 確かに視聴者数は少なかったが、思い出が奪われたような気分だ。

「それでもな!」

 なくしたものは戻らない。

 されど、思い出はまた作り直せる。

 ただ単独ソロボス討伐を課題に課すなど、つくづくリーゼルトはスパルタだ。

 強くなることを一騎イッキが自ら求めたのは、有名配信者になりたいわけでも、金儲けでもない。

 奇病苦しむ妹の治療手段を見つけるため。

 見つけるためには強くなる必要がある。

 膝を折ることなく、今日もまたイッキは一騎かずきとしてボス討伐に単身で出向く。

「ったくどこのどいつだよ、俺の名前で休学届けだしたの!」

 犯人は分かっているが、頭と腹に来る。

 学校は偽者の件もあるのでリモート授業を、との矢先、事業云々で一時休学しますと提出されていた。

 仮に後見人がいようと、探索者資格ダンジョンアカウントは成人同等の権利云々、法的に問題ないと受理されている。

 本当に腹立たしいが、調査は<マミヤ>に任せてある。

「ボス討伐に集中出来ていいだろう!」

 今は前向きに進めと、己に発破をかけてダンジョンボスに挑む。


「あぶなっ!」

 死を満載した錆びた鉄と酸化した油の匂い。

 鼻孔貫き不快さを与えてくる。

 スクラップの機械巨人が、一騎に向けてスクラップの棍棒を振り下ろす。

 騙しも何もない純粋な質量による攻撃。

 一撃受ければ体力ゲージはゼロになるのは必須。

 ただ一撃は重かろうと大振りだからこそ、読みやすいのは幸だった。

 地面を力強く真横に蹴り、回避する。

「ぐおっ!」

 スクラップ棍棒の直撃は、回避しようと激突にて砕け散り、無数の破片が四方八方に飛び散った。左右に握った大小二振りの剣で弾き逸らそうと全てとは行かず、細かな破片がかすめ、体力ゲージを削っていく。

「厄介だなこいつ!」

 あらゆるジャンク機械が巨人の形となったボス。

 巨体を支える片足や股関節を破壊しようと、周囲の瓦礫が意志を持つかのように新たな部位を形成する。

 瓦礫の装甲を剥がそうと同じ。

 ボスステージが廃材置き場故にできるリソース無限の再生だった。

 リソースが有限である一騎かずきには不利であった。

「爆弾でぶっ飛ばせば便利なんだが!」

 使用しないのは、不安定な瓦礫の足場のせいだ。

 飛来する大きな歯車を長剣で弾き逸らす。真っ正面から剣で受けるなど愚策。質量ある物を真っ正面から受けようならば、剣の耐久性が著しく消耗し、最悪破損する。

「って何、バカ正直に剣で戦ってんだ!」

 左右から挟み込むように自動車の残骸が迫る。一騎は脚をバネにして垂直ジャンプで回避、追撃のロードローラーが真上から追撃で落下してこようと、これは回避すらとらない。

「ほっ!」

 ロードローラーの相対距離が縮まる中、一騎は右手を勢いよく突き出し自ら叩きつける。本来ならロードローラーの質量により、一騎の肉体は砕けていてもおかしくない。だが実際に砕けたのは、ロードローラーだった。錆で朽ちるかのようにズタボロとなる。錬金術を応用した構造破壊だった。

「地形を利用するのは戦闘の基本!」

 加えて廃材置き場だからこそ、錬金素材は文字通り山の如し。スクラップの機械巨人との距離を作れば、イメージを強く抱き、両手を足下のスクラップに叩きつける。プラズマが走ると同時、スクラップは意志を持つかのように結合、ボスの巨人と劣らぬ巨人を錬成した。

「おおっ、これかなりクルな!」

 錬成するにも精神を使うが、姿形を維持するにも負担が重くのしかかる。

 便利だが、乱用はできず、戦闘後の反省点として脳裏に刻んでおく。

『ロボきたああああ!』

『でけええ!』

『ダンジョンで巨大戦だと!』

 視聴者のコメントが盛り上がっているようだが、生憎、ゆっくり読み返している状況ではない。

「ぶちかませや!」

 一騎の動きをトレースした巨人が拳で殴りつける。相手も負けじと殴り返し、互いに瓦礫をまき散らしながら譲らない。殴る蹴る殴る蹴る治す蹴る殴る砕く壊すと、スクラップ&ビルドが幾重にも繰り返す。巨人同士の戦闘に終わりは見えない。だが限界は見えてきた。

「はぁはぁはぁ」

 巨人を操る一騎の精神は疲弊の一途を辿っている。瞼は重さを増し、体に倦怠感が走る。互いにガラクタ機械を素材としているからこそ、破損個所はガラクタ機械で補填できるが、一騎はそうもいかない。互いに譲らぬ戦局故、回復アイテムの使用は、踏み込ませる隙を作る。

「むっ!」

 一騎が敵の背後に回り込み、背面に強かな大鎚の一撃を叩き込んだ時だ。明らかに瓦礫とは違う硬質な音が響いたのを一騎は聞き逃さない。崩れ落ちた背面から、明らかにガラクタとは異なる異質な部位が覗いている。

 スクラップの機械巨人は、自ら背面より倒れ込めば、じたばた四肢を動かし接近を阻んでいた。

「なるほどな」

 瓦礫を引き寄せればいいものを、自ら瓦礫に飛び込んだ。

 背面を破壊されては困るものがあるのがお約束。

 硬く、頑強な部位に守られている物など機械系では一つしかない。

「うおおおおおっ!」

 強い眩暈が意識を狩り獲りに来る。限界が近い。ならばやるべきことは一つ。巨人を両腕突き出させて突撃させる。ボスもまたバカ正直に両手を突き出しては、互いに握りあい押し合いとなる。ギチギチと深いな金属の噛み合う音が鼓膜を刺激する。

「おっら!」

 ジャンクの機械頭を大きく振りかぶり、そのままヘッドバッドを叩き込む。

 鈍い激突音の後、ボスが大きくたじろいたのを見逃さない。ニ体の巨人の股ぐらをくぐり抜けた一騎は、身体を構成する瓦礫の凹凸を階段代わりにして駆け上がる。そのまま背面に力強く掌底を叩き込んだ。背面の瓦礫が鳴動し、粉々に砕け散る。当然のこと、補填するためにボスは、一騎の巨人から敢えて押し倒される。巨人の影が一騎を覆う。

 このままでは瓦礫と瓦礫のサンドイッチになる。

「やっぱりそう来るかっ!」

 タダで押し潰される道理はない。

 足下の瓦礫から螺旋描くドリルを錬成した。

「ドリルは漢のロマンだろう!」

 両手で抱えるほどある巨大なドリルが唸る。背面と接触の火花を上げ、削り取っていく。ボスはドリルから逃げんと四肢動かし暴れもがくも、一騎の巨人が抑え込んで逃がさない。弱点であろう部位をいち早く補修するルーチンの裏目を突いた。

「ついでにおまけだ!」

 背面の金属板に亀裂が走ったのと、ドリルが砕けたのは同時だった。だがこれで終わるわけではない。足下から土管サイズの砲身が飛び出して、先端を亀裂の奥へとねじ込んだ。

「受けきれるなら――受けてみろ!」

 後一発の錬成が限界だった。

 これでしとめ切れねば、一騎は、物理的に潰れる未来しかない。

 発火と強く念じたと同時、砲身内を一本の杭が走る。

 錬成したのは砲弾撃ち出す大砲ではない。

 杭を打ち付ける杭打ち機パイルバンカー

 硬い切っ先がボスごと一騎の巨人を貫いた。

 暴れ回っていたボスは、糸が切れたかのように動きを止める。連動するように一騎の巨人もまた身体を瓦礫に戻していく。

「これが、本体か……」

 杭の先端は、手足の生えたバレーボールサイズの球体を刺し貫いている。

 スパークを全身に走らせれば、細かな砕片となって散った。

 やはり瓦礫を肉体として構成し、制御するコアとなる機械があった。

「はぁはぁはぁ」

 一騎は瓦礫の上に力なく倒れ伏す。

 これはゲームではない。現実を浸食する幻想。ゲームではないからこそクリアアナウンスはなく、勝利を祝うファンファーレも響くことはない。

 ただクリアだと証明する報酬が、Seフォンのストレージに入っていた。

 レアメタルの鋳塊、用途不明のジャンク機械が山ほど、後は……。

「お、電機殻エレキハルじゃん! しかも二つ!」

 膨大な電気を蓄積したレアな機械素材だ。

 現界リアルで例えるなら、使い捨ての蓄電器。

 機械装置の動力源にも使えるが、内包された膨大な電力は、災害時用の非常電源として重宝される。

 球体を構成する金属殻は頑強であり、長期保存されようと中の電力は減少しない。

 この球一つで丸一年は、関東一帯の電気を賄えるため、地方自治体が年間予算で購入する。

 査定次第で高く売れるし、武器の強化素材にも使える。

 もっとも使い道は現状一つしかない。

「これだけあれば負債が完済できる!」

 ボス戦は確かに実り多いが、ハイリスクハイリターン。

 特に、単独討伐であるならば、リターンよりもリスクが上回り、結果として大赤字などよくある話。

 普通どころか、熟練の探索者シーカーでも単独討伐は行わない。

 かれこれ一五回の喪失ロストを経験しているからこそ、正直、ちまちまと鉱石集めのほうが利益は出る。

 損得勘定を自覚した時、どこかお金に汚い大人のようで軽い自己嫌悪が出てしまった。

「ともあれ二体目!」

 単独討伐の生配信を行っていたため、コメント欄が沸いている。

『ブラボーブラボー!』

『電機殻とか超レアじゃん!』

『二個も出るとか、どんだけ運がいいんだ!』

『めっちゃ高く売れるぞ!』

 ただ疲労困憊であるため、滝のごとく流れていくコメントに目を留める余力はなかった。

「あ~電気喰いたい!」

 無意識が、らしからぬ言葉を走らせる。

 ボスが討伐されたことでダンジョンは消失していく。

 幻界ムンドの法則上、ボス討伐にてダンジョンが消失すれば、中にいる探索者シーカーは、全員自動的にホームエリアの転送門ポータル前に戻される。

 次に一騎が目を覚ましたのは、組合のスタッフに起こされた時であった。

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