第28話 再起する三羽烏3/4
<トラダ:脳だけが異常発達した知的生命体。高い知能を持つ分、非常に脆弱な身体を持つ。電子機器に擬態及び寄生する能力を持ち、電気信号で操作することができる>
閲覧したデータに怖気が走る。
データはパーティーを組んでいるなら直ちに共有される。
仲間同士、斬り合う理由に合点が行った。
元チームメイトの斬り合いは終わらない。
なまじ良質な装備が、延命という地獄に落としている。
攻撃は高かろうと、防御も高いため、体力ゲージの減少は緩やかだ。
緩やかだが、斬られる度に起こる痛覚に減少はない。
泣こうが喚こうが、足を折られようと立ち上がり、互いに攻撃し続けている。
加えて回復剤を互いに投げつけ合い、減った体力ゲージを回復してもいる。
「なら、あいつらがやりあってんのは!」
「恐らくだけど、寄生されたんだ! 筋肉や感情は電気信号! 電気信号で操作するなら、機械だけでなく生き物も範囲内になる!」
「セン兄の嫌な勘の正体はこれか!」
機械部品に見えて、実は擬態した
仲間同士、斬り合う原因は分かった。
チームを捨てて勝手に移籍した裏切り者たちだ。
「貸しは作って置くのが吉! そうだよね、セン兄!」
燐香は双剣を構えるなり鼻先を鳴らす。
恐怖や威圧で恫喝して利益を得るより、恩を売る方が、後々大きな利益に繋がる遠因となる。
「あれ、セン兄?」
次兄に呼びかけるも、背中を向けているだけで語らず。
危機の正体が判明したため、元の寡黙に戻ったのか、彫像のように微動だにしない。
「燐香!」
万禾の血の気の引いた叫びに、彫像化の理由が判明する。
閃哉のうなじにはICチップが張り付いている。
無数のピンが表皮に食い込み、次兄はゆったりとした動作で、長兄と末っ子に身体を向ける。
閃哉の表情はいつも通りの鉄面皮で、兄妹だろうと感情を読みとれない。
「セン兄、今楽にしてやる!」
燐香に迷いはなかった。
加えて、三兄妹の中で一番ガタいがあり、筋肉に恵まれた次兄だからこそ、早々にしとめなければ、全員共倒れとなる。
それではチームを立て直しなど夢のまた夢。
「ま、待つんだ燐香!」
万禾が顔を青くして燐香を止めるも、素早い身のこなしで閃哉の懐に飛び込んだ後であった。
長子だから末妹の行動が読める。
双剣で一気に首を切り落とすつもりだ。
「うぐっ!」
だが、首を落とされる未来は訪れることはない。
巨大な掌が、燐香の頭部を真正面から鷲掴みにしたからだ。
弓を引くからこそ、鍛え抜かれた純粋なまでの膂力。
至近距離の戦いで鍛えられた動体視力。
末妹の素早さなど意に返さない反射神経。
華奢な身体を持つ燐香は、ボールのように万禾の元へと投げ飛ばされていた。
胸部に振り回されるようにして手足を追従させている。
「ぐうっ!」
このままでは万禾と激突する。
燐香は身を翻し、双剣と靴裏を破損した路面に突き立てて制動をかける。
下から上へと貫く衝動に奥歯を噛みしめる。
破損した路面に轍が刻まれる度、体力ゲージだけでなく双剣と靴の耐久値が減少、衝動と摩擦熱に堪えながら長兄への激突は寸前で回避できた。
「そう、だ。待つん、だ!」
震える声で閃哉は言う。
いや震えているのは声だけではない。
全身の筋肉が震え、妹にも負けぬ
痙攣は
うなじあたりから、メキメキと不吉な音がする。
「ふんぬうううううっ!」
裂帛の気合いで閃哉が戦慄いた時、うなじから破裂音が放たれていた。
パラパラとうなじから飛び散った何かが瓦礫の上に落ちる。
「ま、マヂかよ、セン兄……」
燐香は、握り直した双剣を危うく落としそうになった。
飛び散った物の正体が、寄生したICチップだと気づかぬ兄妹ではない。
つまるところ、閃哉は気合いと筋肉で寄生の呪縛を打ち砕いたのである。
「電気信号で操るなら、操れぬだけの電気信号を逆に送り込めばいい。外的衝撃で破壊するのではなく内からとは、いかにも閃哉らしい」
兄として万禾は弟に感心してしまう。
一方、燐香は、あの兄がそこまで考えている訳がないと、白けた目であった。
ともあれ、オーバーロードによる自壊を誘発した。
同じ事ができるのかと問われれば、長兄と末っ子は揃って否と答えるだろう。
閃哉の場合、筋肉と気合いが揃ってこそ是とした一例だから。
「もしかしなくても、斬る必要なかった?」
「だから待てと言ったんだ」
「そうだよ、燐香。寄生原因があのチップなら、そのチップを取り除けば解決できるんだ。それを君は!」
早計過ぎた妹に兄二人の説教が始まった。
燐香は吹けぬ口笛を吹けば、気まずそうな目を露骨に兄たちから逸らす。
まだ元チームメイトたちは斬り合っている。
手足の骨は折れようと立ち上がり、誰もが涙目で啜り泣き、弱々しい声で懇願しながら斬り合っている。
どうやら回復剤は尽きたようだ。
「ちっと仕留め、いや止めてくる!」
「あ、こらっ!」
格好の逃げ先を見つけた燐香は、万禾の声を振り切る形で、元チームメイトの元に飛び込んでいた。
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