<THIRD STAGE:ライザスラム>

第26話 再起する三羽烏1/4

 レイブンテイルの三羽烏こと三兄妹・万禾ばんか閃哉せんか燐香りんかは、立て直しに躍起であった。

 元々、三人で回していたチームである。

 人員補充は後回し。

 目下の問題は、活動資金と装備の確保だ。

 幸いにも<ミヤマ>とリーゼルト・スケアスのお陰で活動再開に目処が立った。

 立つも、世の中、資金があればなんでもできるが、逆を言えば資金があってもできないことはできようがない。

 スポンサーが支援を行うのも、利益が見込めるためだ。

 厳しい話だが、利益に連ならぬ者に金を恵むほど、企業は慈善団体ではない、一営利企業故に。

「困ったな、どれも急激に値上がりしすぎている」

 万禾が渋面で携帯端末Seフォンを操作する。

 幻界ムンド内において、端末バッテリーは文字通り体力であるも、原理は不明だが、アプリを使用しようと電力消費が起こらない謎の法則が働いていた。

 今閲覧しているのは、資源や装備品、アイテムなどの市場価格が閲覧できる流通サイトであった。

 幻界ムンド内外問わず、非常に流動的で、需要と供給・生産と消費・売り手・買い手により日々、値は変動していく。

 値上がりを見越してため込めば値は上がり、即金を求めて安く売り払えば値は下がる。

 市場価値は流通する個数により上下するのは基本だ。

「買い占めが原因なのは言わずもがな」

 原因は誰にあるかもまた。

 急激な値上がり原因は、買い占めだ。

 これはあくまで噂であるが、資本力を生かして、資材、装備品問わず、買い占めるだけでなく、今後市場に出るであろう品すら、出回る前に買い占めている。

 お陰で多方面に広がるべき流通が、一定方向にしか流れず、市場の閉塞を招いている。

 先んじて情報を掴むのは、珍しいことでもおかしいことでもないが、公平な取引という建前を崩しているようで、良い気持ちはしない。

 もっとも、相手からすれば、そのような気持ち、資本力と情報力がないただの嫉み妬みだと鼻先で冷笑するだろう。

「んむむむっ~!」

 事、いやチームの規模は万禾個人が思う以上にデカいようだ。

 大規模な引き抜きが起こった時点で、備えておくべきであったが、後の祭りでしかない。

 ならばこそ、現状、如何にしてチームを立て直すかは、リーダーであり長子である万禾にかかっていた。

「バン兄、渋い顔してないで手伝ってよ!」

 瓦礫越しに末っ子の燐香が呼んでいる。

 時折、重い物が倒れる音や砂埃が舞い上がっていた。

「ああ、今行くよ」

 末っ子にそう返した万禾は、椅子代わりにしていた瓦礫から立ち上がる。

「いい素材が手には入ればいいんだけど」

 三兄妹は、廃墟となった機械都市ダンジョンを訪れていた、

 爆撃に遭ったかのように、コンクリートの建造物は破壊尽くされ、荒れ果てた道路には無数の機械の残骸が散乱している。生命の胎動など草の根一つもなく、無機質な空間が広がっている。

 この手のダンジョンにはびこるモンスターは機械系が多く、上手くすれば、レアメタルや複合金属など装備品の素材になるアイテムが入手できた。

 特に、刀剣や鏃などに使用できる金属はウェルカム。

「悪くないようだな」

 閃哉は、瓦礫から引きずり出した機械部品に首肯する。

 ショベルのアーム部に近いようだが詳細は不明、それでも埋もれていようと、錆一つなく再利用できる質だ。

「いや~今日は運がいいよ」

 燐香の顔はホクホクのご満悦だ。

 端末ストレージには、限界ギリギリまで資材が内包されている。

 量質共に充分すぎるほど集まった。

 後は無事に帰還した後、馴染みの鍛冶師ブラックスミスチームに武器制作を依頼すればいい。

 特に燐香がかつて愛用していた武器はオーダーメイド品。

 アーティファクトでないため、先日の戦闘で喪失ロストした故、同等か、準じるだけの武器が必要であった。

「魔物と一匹も出くわさないなんて、ホント運がいい~!」

「燐香、それをフラグだという」

 閃哉は、兄として妹をたしなめる。

 普段は無口な次兄が口を開いたのだから、別の意味で警戒するのが末っ子だ。

「セン兄こそ、今日は珍しく喋るじゃないか」

「嫌な予感がする」

 仏頂面の次兄が、今日はやけに引き締まって見える。

 第六感は存外バカにできない。

 来た道を戻った時、些細な違和感が走った。

 実は樹に魔物モンスターが潜んでいた。

 来た時より軽いと感じた。

 気づかぬうちにアイテムを紛失していたなど例は多い。

「おんや~そこにいるのは活動停止中のチームじゃないの?」

 離れた位置より聞こえてきた記憶にある声。

 声音に乗った嫌みに、三兄妹が揃って不快な顔を向ければ、知った顔、いや元チームメイトたち六人の姿があった。

 かつてレイブンテイルにて物資輸送や配信器機の護衛をメインにしていた者たち。

 前線で戦うよりも護衛が性に合っていると、揃って語っていたがはずだが。

「あん、た、バン兄!」

 不快さを隠すことなく燐香は飛びかかるも、閃哉に襟首を掴まれ阻止される。

 チーム同士の諍いは珍しくないが、顔を見ただけで我先に襲いかかろうならば、非はこちら側に傾いてしまう。

 軽挙盲動は慎めと、閃哉は燐香を目線でたしなめた。

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