第22話 再起の名は。
〈ミヤマ〉本社ビル地下には、
本来なら、バス停や駅のような公共スペースの地下空間に設置され、通行費を払うことで
また資金力のある企業、あるいは個人は専用の
ただ設置基準があり、一定の広さ持つ地下室であること、展開を維持できるだけの電力確保が可能であること、と法令で定められていた。
万が一を想定した安全措置、
<ミヤマ>資源回収課に所属する新任の
鏡に映る己の姿、
髪色、顔立ちは変化なし。されど髪型は、
「あなたが
かけられた声に振り返れば、スカートスーツ姿の女性スタッフが立っていた。
「はい、今日はよろしくお願いします」
何度も話したことのある顔見知りの相手だが、一騎はあえて素面を装った。
良い印象を与えるための丁寧な言葉を忘れない。
仮面をつけていようと、スタッフの反応がノータッチなのは、仮面のアクセサリーなど、
動物の着ぐるみや水着ですら序の口。
全裸と誤認するピチピチスーツや誤討伐されそうな
困ったことに、この手の礼装を纏う者ほど、
実際<ビキニアーマーの会>という男のみで構成された筋肉ゴリゴリマッチョの
鍛え上げられた筋肉を活かして、どのチームよりも先んじて再起を果たしていた。
「鶴田社長からの推薦だということですが、念のため実力を計らせていただきます」
こちらに、と案内を受ける。
ホーム備え付けの大型ビジョンには、日本各地に出現した
ダンジョン攻略はいわば競争だ。
入れないが、出遅れれば利益は出ない。
刃物は使えば、切れ味が鈍り、弓や銃は矢や弾を消耗する。
魔法や超能力は脳を、精神を疲弊させる。
動き続けても、動かなくとも空腹となる。
装備を酷使すれば、最悪損壊して二度と使えなくなる。
メンテナンス費用が歳入を上回るのは珍しくなかった。
「てめえら、邪魔しゃがって!」
「ああっ! 俺らが先に入ってのに、横から邪魔したのはそっちだろうが!」
外見が世紀末ヒャッハーなモヒカン男たちが言い争っている。
一カ所だけではない。
同じことが別の場所でも起こっていた。
獲った、盗られた、邪魔されたと、怒鳴りあいの大合唱。
ちらほら見かけた
話したことはなくとも、見かけたことがあるのは当然だろう。
「ここは、あんな荒くれ者たちが集う場所なのですか? 話に聞いていたのとは違うのですけど」
素面の口調で聞けば、スタッフは困った顔で返す。
「いえ、基本的にここは他国と比べて、静かで穏便に事が進む方です。ですが、先日の件、黒騎士のせいで、ほとんどのチームが壊滅の憂き目に遭いまして、
優しい言い方であるが、要は誰よりも立て直すのに躍起だということだ。
詳細を聞けば、成果を横取りされたなどのトラブルが多数届いているとのこと。
「チームの主力が総出で引き抜きにあったのも大きいですね」
「あのニュースですね」
素面のまま返す
仮面がなければ感情がモロにばれていただろう。
「……シグマインテリジェンス」
黒騎士を討伐したと大々的に宣言したチーム。
スタッフから詳細を聞けば、高い資本力を活かして、各チームの有力メンバーを破格の額で引き抜いたとのこと。
引き抜きや移籍は別に珍しくないが、金にものを言わせたことから、他所うなりとも反発が出ているとのこと。
メンバーは、すでに二〇〇〇人を越える大規模チーム。
チームリーダーは、イッキではなくシグマと改名している。
人員と資本力に物を言わせ、装備やダンジョン資源をかき集めているという。
スポンサーがスポンサーだと陽人は言っていたが、<ミヤマ>の企業買収騒ぎの一件から、心当たりある企業は多すぎるため、現状確認は後回しとする。
(今何をすべきか、目的をはき違えるなよ)
自分の顔で、声で、好き放題されるのは腹に来るが、今はなすべき事をなせと自制する。
「こちらです」
案内された先を
扉を通り抜ければ視界は広がり、広大なスタジアムがお出迎え。
すり鉢上のスタジアムは、
チーム同士のトラブルを解決する手段として決闘という手もまた。
(てっきり、どっかのダンジョンで資材回収とか魔物討伐かと思ったけど)
実力を計るには、直に戦わせるのが単純明快。
相手が人間なのは間違いないだろう。
問題は手持ちの武器がないことだ。
ただ
どうにかなると手はあったりする。
「あれ?」
スタジアムの出入り口方面が騒がしくなる。
ギャギャ耳障りな鳴き声と車輪動く音がすれば、開かれた扉から、大きな檻が自動運転で運ばれてきた。
「試験は単純です。全部倒してください」
「うげ~」
本日三度目のげんなり、うんざりとした顔をするしかない。
何しろ檻の中にいるのは、
人型の敵は、倒した後の臓物(中身)が人間と同じだからメンタルダメージがでかい。
実力だけでなく、メンタル耐性を測るのも狙いではないかと邪推してしまう。
「特に制限時間はありません。ですが、体力ゲージが五割を切った時点で失敗と見なします。その時は、正規の手続きを踏んでから試験を受けてください」
「分かりました」
先日のリーゼルトとの特訓が嫌でも思い出される。
基本的に大小二振りの剣を好んで使っていた。
ただ今は武器どころか防具すらなく、徒手空拳で戦うことになりかねない。
「攻撃手段の制限は?」
対策を練る中、閃いたことを一騎は聞いていた。
「いえ、特に設けておりません」
「なら、別に壊しても問題ないってことね」
頷きながら、一騎はスタジアムに降りる。
心の強さが
「はい?」
スタッフが疑問を呈したのと、檻から
スタジアムに立つ人間は一騎のみ。
捕獲され、閉じこめられたせいで
誰もが我先にと一騎に奇声あげて迫る。
「よっとっ!」
ひときわ強い波動が壁面に亀裂を走らせ、揺れ動く。
揺れ動いたのも束の間、亀裂の隙間より無数の
悲鳴を上げるゴブリンたち。
中には同族を盾にして逃れようとするが、礫は肉体を貫き、容赦なく蹂躙する。
「う、う、そ、ん」
スタッフは両目を見開き、愕然とするしかない。
そして壊しても問題ない、の意味にようやく気づく。
「よしっ!」
再度、スタジアムの壁面を一騎が殴りつければ、映像の逆再生のように亀裂は縮小していく。
亀裂が完全に修復された時、聞き覚えのある遠吠えが、すぐ側から響いた。
『わお〜ん!』
だが、スタジアムに立っているのは、一騎だけであった。
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