第6話 アーティファクト
既存より、やや分厚いフレームで覆われたメカニカルなデザインの携帯端末。
幻界探索仕様携帯端末、通称
もっとも、探索から一〇回ほど無事帰還できれば、払いきれる額でもあった。
「応援要請か」
知己のチームから届いたメールであった。
基本、イッキは
チームを組んで探索するのは、資源獲得率と生還率が向上する。
それをしないのは単に、リーゼルトの単独で強くさせるという教導方針と、そのネームバリューの大きさが遠因だった。
チャンネルを開設した当初は、コメント欄に僻み妬みに伴う荒らし沸いて出たほどだ。
コメント欄では、規約違反のチーム勧誘を堂々と行い、イッキを引き入れることで、あわよくばリーゼルトにお近づきになろうとするいじましい者もいた。
人間の意地汚さを
「どうした?」
「レイブンテイルから応援要請」
リーゼルトに伝えるなり、口端を細めて静かに笑った。
「最近は破竹の勢いで活躍しているが、ご指名とは。今回はよっぽど大きな山のようだな」
レイブンテイルは、
メイン活動はダンジョン攻略。
ダンジョン配信において、攻略組を自称するだけに高い実力で視聴者を魅せる持つチームだ。
チャンネル登録者数も、同時視聴者数も、イッキチャンネルとは雲泥の差、地表と月との開きがある。
「最初は三人しかいなかったが、今や一〇〇人規模のチームにまで成長するとは思いもしなかったな」
リーゼルトの発言に、イッキは白けた目で沈黙を選ぶ。
その足下では、うるすけが後ろ足で耳の裏側をテシテシと掻いている。
そもそもレイブンテイルを教導したのは、他でもないリーゼルトだ。
レイブンテイルのメンバーとリーゼルトのスポンサー企業の社長の娘と縁があり、依頼とする形で教導を引き受けた経緯があった。
「応援要請ならば、ダンジョンボスが見つかったということだろう」
「ああ、三時間前にボスゲートを発見、今より五時間後に攻略を開始するからホームエリアに集合しろってさ」
もちろん、知己のチームからの要請に断る理由はない。
ボス攻略により得られる報酬は旨みが多い。
レアメタル・レアアースは高い買い取りが見込めるが、何より強力な装備を入手できる確率が高い。
特にダンジョンで極々希に発見される<アーティファクト>と呼ぶ装備は、一人一つしか装備できない制限があろうとも、非常に強力な装備品故に誰もが探し求めてやまないほど。
ただ<アーティファクト>は見つければ使えるものではない。
ましてや、いくら求めようと手に入るものでもない。
まるで磁石のS極とN極のように、<アーティファクト>と
気づいたら
木を切ったら、その中に剣があった。
ゾンビを殴ったら、口から杖を吐いた。
ダンジョンに入ったら、空から眼鏡が落ちてきたなど、入手方法に統一性はない。
国際法において過去の遺物――海底に沈んでいた金塊など――は、領海内の国ではなく発見者に所有権がある。
しかし、発見場所は
<アーティファクト>はお宝になろうと、ただのお宝ではなかった。
発見者だろうと装備できないことはままあり、ダンジョン探索黎明期では、発見者と所有者、どちらが正当な所有権を有するか、
泥沼に至るもっともな原因として、<アーティファクト>は、他のアイテムのように売買、他者への貸し借りや譲渡、トレードができないこと。
さらに厄介なのは、アイテムストレージにアーティファクトたるカテゴリーは存在しないこと。
アーティファクトをアーティファクトと確かめる、証明するには
所持していた装備が実は、と珍しくない。
結果として裁判沙汰になる率は低下しようと、<アーティファクト>所有者に対して、強引なチーム勧誘や引き抜きが横行するようになり、中には
「お、ボスか! ガジガジかみ砕きがいがありそうな奴だと良いな!」
強き相手と戦えるからか、うるすけは犬歯をむき出しに、尻尾をはちきれんばかり嬉しく振るう。
うるすけもアーティファクトのカテゴリーとなる。
一年前、オーロラ煌めく氷河のダンジョンにて、厚い氷の岩盤を掘り進んでいた際、容器に入った状態で発見した。
その時、紆余曲折あったが以後、頼れるイッキの相棒としてダンジョンを渡り歩く。
ケンカもあるが、なんだかんだ不思議と馬があった。
連携がしやすかった。互いが望むとおりに動いてくれた。
(ほんと、こいつなんなんだろうな?)
喋る知性持つ
アーティファクト持ちだろうと、イッキの身に強引な勧誘が来ないのは、単にリーゼルトの名前が大きいのだろう。
下手に師の機嫌を損ねれば、今後の
イッキ自身、今なお単独活動を行えているのは、リーゼルトの影響が大きい。
(だから一人前の
自身が実力不足なのは痛感している。
相棒のうるすけがいなければ、窮地を脱せえなかったことが幾度とあった。
(妹が安心して暮らせる生活をしたいが)
今は一歩一歩、力を鍛え、蓄えること。
事をなす経験も、物を見通す資質も、圧倒的に足りない。
だから己を鍛えている。鍛えているが、望むように至れぬ訓練結果が、胸中を焦がしていく。
半分は己の気の短さが原因だが、未来を見ているため、過去のことは振り返らない男であった。
「よし、行くか!」
うじうじ悩むなら動けと、内なる自分に強く語れば、イッキは煩悩として振り切った。
ボスフロアでは激戦が予測される。強い装備やレアな資源が手に入るが、
今は己が正しいと思うことをする。
そうすることで前進している気がするから。
「ん?」
「どっしたか、リーゼルト?」
気合いを入れるイッキを横目に、リーゼルトが目を細めて、反対方向に視線を向けていた。
うるすけは見上げながら小首を傾げる。
「いや、気のせいだ。嫌な視線を感じたんだが」
「おうおう、毎回言ってる黒騎士か?」
「奴ではないな」
リーゼルトはうるすけに苦笑しては言った。
「もし奴なら、視線に気づかれる前から既に斬りかかってるさ。例えば、お前の背後からとか!」
「おおおう!」
意図的に恐ろしく声を震わせ伝えるリーゼルトに、うるすけは尻尾の毛を逆立て膨らませていた。
「フラグやめい!」
決意を折られそうなお約束にイッキは、つっこまずにはいられない。
冗談だとしたいが、相手が相手だけに冗談には聞こえないから困る。
リーゼルトはその身を持って黒騎士――
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