第2話 もしも昔に戻れたのなら
ある快晴の土曜日、俺は惰眠を貪るでもなくゲームをするでもなく荷物持ちの仕事に勤しんでいた。
「美味しそうに食べるなぁ」
カフェで夕方にコーヒーを嗜み、ケーキを頬張りホクホク顔の彼女を見つめる。
「当たり前じゃ、こんなに美味しいのが手軽に食べられるなんて良い時代じゃ」
彼女が家にすみ始めて数日がたった。
同性でも一緒に住むのが大変なのに、異性で相手が神様だとゆうのだから大変なことこの上ない。
世の中にはそんなの惚気か?とか、それなんてアニメとか羨む奴もいるだろうが、現実は甘く無い。
どのくらい甘く無いかと言うと、チョコで言うとカカオ80パーセント。
コーヒーで言えばブラックくらいには甘く無い。
部屋に物を出しっぱなし、置きっぱなしはNG。
洗濯物は脱ぎっぱなしにしてはいけないし、トイレ蓋は使ったら閉めなくてはいけない。
何より辛いのはお風呂のタイミングや、下着関係が見えてしまう時である。
一応気を遣って見せないようにしたり、帰ってくる前に済ませて置いてくれるのだが、男子大学生だ舐めないで欲しい。
男はみんな下で物を考えるので、理性との戦争が毎日絶えなくて本当に辛い。
戦争ダメ絶対。
「うちに置いていってくれるのは稲荷か、お煎餅。それかおはぎばかりじゃからな、確かに上手いが一世紀も食べてると流石に飽きるのぅ」
「あー確かに。とりあえずそこら辺貢いでおけば良いやろみたいに思ってる」
「貰えるのは嬉しいのじゃがな」
彼女が来てから、洗濯、掃除の悩みが全て解消されてしまいとても生活が楽になったが、神様にこうゆうのをさせるのはと気が引けたが、住ませて貰うからにはと言われて断り切れなかった。
初めは現代の家電に手を焼いていたが、少し使えばすぐに覚えて使いこなし、基本的な家事は完璧で俺がやるよりも丁寧だ。
今日は一緒に生活して行くなかで、足りない物を買いにと、家事のお礼にケーキを奢っている。
「良いのか?何から何まで全部買って貰ったが、学生は何かとお金が掛かるじゃろ?」
「心配すんな、元々仕送りとバイトで余裕あったし、家事の分のお礼だと思ってくれ」
まあ彼女と遊びに行く分のお金だしな、こっちの方が世のため人のためだ。
むしろこんなに可愛い女性の普段着る服を選ぶのを手伝えたのだ。
目の前で美味しそうにケーキをほおばり、嬉しそうに笑う彼女を見ているとその価値はある。
まだあのコーヒー独特な苦みが苦手なようで、ミルクと砂糖をいっぱい入れるそんな姿に更に心奪われる。
こんな経験は世の中、お金を払ってでもしたい男は五万といるだろう。
「ちゃんといつか働いてお金は返すからな」
「いいよ別に、家事やってくれてるのにろくにお金は渡してないんだ。
それに今までこの街を守ってくれてたみたいだしその分だ」
「む~強情な奴じゃ」
「お互い様だろ」
お互い呆れて笑いながら飲み物に口をつける。
そういえば気になっていたことがあって聞こうと思ってたんだった。
「なあ、最近この街でよくこの落書きをみるんだけどなんか知らないか?」
スマホから写真を見せる。
俗に言う魔法陣ではあるが、全てが絵だけで完結していて文字が使われていない。
似たような絵をネットで調べたが出てこなかったのだ。
「むぅ…初めて見るのこんなの」
首をかしげうんうんと唸る。
棒人間みたいな人間が真ん中に立っていて、周りには沢山の線や模様が描かれている少し気味の悪い絵だ。
「あまりいい物ではなさそうじゃな、少しつてを使って調べてみよう」
「務めは終わってもこうゆうのはまだやるんだな」
「今さら知らんぷりして生きるのも、気持ちが悪いだけじゃ」
人に忘れられ力を失い、それでもなお彼女は人を助けずにはいられないのだ。
今の僕にはただ彼女をできる限り甘やかすことしかできないのが少し子ぐるしかった。
「あ」
最悪なタイミングで最悪な奴らに出くわしてしまった。
目が合った瞬間にそらして隠れたが、奴らなら感づくだろう。
人の幸福には呪いを掛け、相手の不幸を心から喜び一緒に底へと落ちていく。
我らの友情は都合が良ければダイヤをもしのぐほど固いが、浮ついた噂や、いい思いをした者には鉄槌を下す。
コツコツと足音が近づいてくる。
「あれあれ~誰かと思えば我らの親友、
足音は2人か。
店内だから逃げるのも無理だし、始末するのも人目があってむりか。
「きょうは僕たちの約束を断ってデートですかな」
人相の悪いメガネを掛けた宮下の顔が目の前に迫る。
さてどうする。
下手な言い訳は噓を息をするように吐くこいつらには一瞬でばれる。
そうなれば俺は明日の日の出を見ることはないだろう。
「この前あんなにも慰めてやったのにな。恩を仇で返すなんて悲しいねぇ」
後ろにいる巨体の虎山もゆっくりと近づいてくる。
「海がいいですか、山がいいですか?好きな方を選んでいいですよ」
この一瞬の刹那、俺は人生のすべての知識とあらゆるすべての可能性考え答える。
拉致されそうになる刹那答えは出た。
「レンタル…彼女だ…」
俯いて絶望の顔で答える。 今はプライドよりも生きることが優先だ。
「お前そんなに追い詰められて…」
「すまない。彼女も困っているし貴重な時間が過ぎてしまう。今日は見逃してくれないか?」
歯をグッと食いしばり羞恥心に耐える。
一方彼女は彼女でやくざかなんかに絡まれたと思っておろおろしている。
「すまねえ兄弟、お前がこんなにも追い詰められてたなんてねぇ」
「すまない、ちっぽけな疑念のせいで僕は親友の大切な時間を無駄にしてしまった。カフェ代だ、貰ってくれ」
2人とも財布の中からありったけの札を置いて立ち去る。
「こんどまた飲み会を開いてやる。またな親友」
2人が少し立ち去った所で小さな声で聴いてくる。
「あいつらいったい何なのじゃ!?」
「ただの馬鹿だよ」
もう立ち去ったと思った所で、宮下が声を掛ける。
「そうそう。あいつには最近お前の体調が悪いから休んでるって言っといた。
つらいとは思うが早いうちに話をつけろよ」
そう言うと手を振って立ち去っていった。
ブー。
スマホが通知を知らせるメッセージをだす。
彼女と僕の時間はあの日から止まったままだ。
二人ならんでどこか上の空な会話をしながら家へと帰る。
さっきの宮下の言葉に反応した顔で彼女にも意味が分かったのだろう。
それに対して無かったように振舞うことも、心の内を説明するのも何か違う気がして会話を切り出せずにいた。
彼女は彼女で下手に慰めるのでもなく、説教するのでもなく俺の言葉をきっと待ってくれている。
どこかで区切りをつけるそのきっかけが欲しい。
その願いはすぐに叶うことになった。
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