初彼女がNTRされたけど狐の彼女が出来た

@Contract

第1話 狐の嫁入り

時刻は深夜1時くらいだったと思う。

20歳の男は神社で一人ストゼロ片手に全裸で泥酔していた。

焦点の合わない虚ろな目でジッと虚空を見つめると大きな声で叫ぶ。


「おーなんだ、見せもんとちゃうぞ!散れ!」


もちろんこんな時間に神社にいるバカはこいつしかおらず、ただ怒鳴り散らすただのやばい奴だ。

もしくは妖怪か化け物のたぐいか。


「これだから最近の若いのは」


そんなことをぼやきながらグイっと缶を煽る。


「ぷはー旨すぎる。世の中の飲み物はこれで十分だ」


そんな訳あるか。


「つーかなんだよ。私も初めてなのとか清楚ぶっといて、いきなり先輩と付き合ってましただ?素人物なのに女優のタイトル名とか出しちゃうあれかよ、くそビッチと性欲チンパンが!」


中学生、高校生とモテない自分を変えたいと思ってファッション誌やヘアスタイルを勉強して満を持しての大学デビュー。


必死こいて色んな人と連絡先交換して、明るくふるまって、飲み会のためにバイトして、サークルで仲良くなった子と人生で初めて付き合った。

俺は理想のリア充になった。そのはずだった。


講義も終わり、彼女とどこにデートに行こうかと妄想してウキウキで教科書を片付けていたところ事件は起る。


連絡アプリに一件の通知が入り見てみると、俺の彼女だった人とサークル内でもモテモテな先輩がホテルから出て来た写真だった。


「こんなの犯罪だろ?どうして国も政府も取り締まらねえんだ?これが政治の腐敗ってやつか?俺が立候補してこんなおかしな国は俺が正してやる!」


こんな奴に任せるくらいなら隣の家の竹中さんに任せた方がマシだろう。

少なくともこんな状況になってもテロ一歩手前のこの状況にはならない。


「恋は純愛しか認めないしNTRは死刑!最近の流行は純愛だしな!

あとついでにビデオのモザイクと玄人ナンパものはこの世から消してやる!

これで世界平和は完成し俺の当選は確実だろうガハハハッ」


人とは限界を超えると恐ろしくバカになるな。

動物園のサルの方がまだましなことを考えてる。


「どれ、さっそく神頼みするとするか」


座っていた石から腰をあげ、賽銭箱の前えと歩き始める。


こんな大馬鹿な願いも一応聞いてやらなくては神の仕事も楽ではない。

人間の世界はいくら時が経っても全く変わらない。


身なりが代わり、使う言葉が変わり、技術が発達し豊かな生活になろうとも

願いは変わらず低俗な物ばかり。


それどころか傲慢さ故にこれまで我らが与えてきた自然の力を捨て信仰

を捨てる。


見知った男は財布ごと賽銭箱に投げ入れパンパンと手を叩く。


こいつにいたっては学も礼儀もない。


「俺に超絶可愛いい美少女の彼女が出来て、世界が純愛で満たされますように!」


それでも、この地のとどまり人々のこのような阿呆な願いを聞き叶えようとする彼女も阿呆の一人か。


「お前みたいな昔から成長もしない、貧弱な阿呆に出来るわけがなかろうが」


女性は金色の長く美しい髪をなびかせ、神社の屋根からふわっといつもの調子で浮かび賽銭箱から拝殿に登る階段に座り耳をしなりと曲げ寂しそうに微笑む。


「まあそんな阿呆に救いを与えるのも私の務めか」


女性は目を閉じて何かを願う。


この行為には元々意味はないのかもしれない。


それでも女性は願いを聞き届けた相手には昔からこうしてきた。


夜の闇に小さな願いが溶ける。



…声が聞こえた気がした。


顔をあげるとそこには狐の耳と尻尾を付けた美しい女性がいた。


女性は月のような美しくも底が知れない顔で妖気的で底が見えず、魅力的な和服を着ていて、この満天の夜空を落とし込んで作られたような瞳に目が吸い寄せられる。


目が合って数秒。周りの草木の音も景色も何もかもが彼女を残して消える。


「えっと…どちら様で?」


女性は目を見開き数秒の間、呆然と見つめると面白い物を見つけたとばかりにふふっと笑う。


確かにさっきまでの俺の奇行はさぞ滑稽で面白かっただろう。


ただいきなり目の前に現れたこっちとしては恐怖でしかなく、おかげで酔いも一瞬で冷めた。


なんでこんな時間に一人で女性が?


いつからそこに居たのか?


その格好は何なのか?


頭を必死になって回すが答えは出ない。


「お主は恋人をさがしておるのか?」


「えっと、そうですね」


「ならばわっちが恋人になってやろう」


何が何やら分からないまま勝手に話がトントン拍子に進む。


「急すぎるだろ!?」


「恋ってといろいろと手順を踏んで、お互いに少しずつ意識して目が合ちゃってもしかしてみたいな?

手が触れちゃって顔赤くしたりとかあれこれって行けるのか?いやでも俺の勘違い?遊ばれてるだけ?いやいやでも、もしかして両想いみたいな!」


「うるさいぞ童貞が」


「童貞かどうかなんて分かんないだろ!」


「そんな少女漫画みたいなこと言いだす時点で童貞ですと言ってるようなもんじゃ。万葉集にもそう書いてあったしな」


「んなわけねーだろ!お前何歳だ!」


「そうさなぁ、200を超えたころから数えるのは辞めたからわからん」


「バケモンじゃなねーか!」


「失礼なじゃつじゃな、これでもわっちはここの神社の神だぞ」


「神だぁー?俺からはコスプレしてる外国人にしか見えねえよ」

「神ならNTRと戦争をこの世から無くして、ヤリマンとチンパンジーに天罰を与えろ!」


「お前は神以上にワガママな奴じゃ」


はぁっとため息を吐きうんざりしたように話す。


「神々の間ですらその手の話題はこと欠かんのに、下々の人間から無くすことなんてできるはずないじゃろ。

それにわっちはわっちの叶えたい願いだけを叶えるし、それだけの力はありんせん」


「ほれみろ、やっぱりニセモノじゃねーか」


「信ずるものは救われるだけじゃ。それにお主の願いはもう既に1つ叶えたしな」


「叶えた…?世界からNTRが消えたのか?」


「違うわ。ほれお前が好きだった女とお前の縁を結んでやったろう」


「お前のおかげだってのか?」


「最近の人の子には珍しく毎日着て祈っておったのでな、興味本位で結んでやったわ。 まさか一週間でこれとは思わんかったがな」


笑いをこらいきれずといった感じに、ぷぷぷと必死に笑いをこらえる。


「笑い事じゃねえ、アフターサービスと保証期間くらいつけろ。不良品だったわ」


「あとががどうなるかなんて知らんよ。そこは人同士で上手くやってくれ」


「自分のしたことには責任を持てって教わらなかったのか?」


「生憎と神なのでな。わっちにモノを教える者など当の昔におらんよ」


懐かしむように少し悲しそうに笑うと視線を落とす。

目線の先を見ると町の明かりが、夜空と同じように輝いていた。


「昔は沢山の人間が毎日のようにここ賑やかだったが、最近はとても静かでな」


確かに何度かお参りしたがここで人と会ったのは数えるほどだった。


「確かに昔は友達と遊びに良く来けどな」


「お主はかくれんぼしてはみんなから忘れられて置いていかれ、鬼ごっこをしては捕まえられずにいじけてたのぉ」


「そんなどうでもいいことは忘れてくれ」


グッとお酒を照れ隠しにお酒を流し込む。


記憶の中で掘り起こさないようにしてたのに、こんな所で掘り起こされるとは。


今考えると、あのころからモテるやつはモテてたな。

ファッキュー格差社会。


「もういっそこんな役目を終えて、自由に遊びたいのぉ」


「じゃあさっさと辞めて一緒に遊ぼうぜ、人生は一度きりだしな」


ポツリと呟かれた声に無神経に返す。


「そうはいかんじゃろ、私はこの地の神で民を守る役目がある」


「もう十分だろ。人が来ないのはあんたがこの地を見守り育てたおかげで親離れしたんだろ?あとはやりたいことやって遊べよ」


「簡単に言ってくれる。境内を出るには人の身になるしかないが行ける場所もない」


「なら俺んち来いよ。ちょうど今日から女が部屋に上がる予定も無くなったんだ」


「なぜそこまでの面倒を見ようとする?神を捨てあとのわっちにそこまでの価値はありんせんぞ」


「人間な酒を飲んでる日は優しくなれれるのだよ、神様ものむか?」


「それじゃあ明日の素面のお前さんは、なんて答えるかわからんじゃろ」


「分かるさ。俺が可愛くて優しくて、人の為に頑張ってくれて自分と同じ境遇にいる寂しげな女の子を助けないはずがないだろ」


期待もなく諦めている彼女に、ニコッと太陽のように笑う。


「そうか、もうわっちの務めは終わったか」


言葉を噛み締めるようにゆっくりと吐き出し続ける。


「しかし全裸でお酒飲んでいる奴にときめきそうになったのは長い人生でも始めてじゃ」


「これが2回目だったら俺でも怖いな」


2人で大きなわら声が静かな神社に響く。


「わっちはこの身の故に境内から出たこともなく、人の身でもない。」


「沢山の迷惑を掛けるし、常識が無くすれ違うことも多いと思う。

でもわっちの神としての最初で最後の願いは人としてお前側に居たい。」


…そんな上目づかいのそんな顔で見つめられて、この世で断れる男性はいないだろう。


心の中は恋のふわふわとしたあの感覚ではなく、優しくそこにあって当たり前のピースがやっと埋まった感じ。


不思議な気分だ。


「だめだろうか?」


「だめな訳ないだろ、2人の第二の人生に乾杯だ!さあどんどん飲もう!」


コンビニ袋から何種類かお酒を並べていく。


「何飲むんだ?サワー、それともビール?神様はやっぱり日本酒か?」


「バカモン、わっちは神じゃぞ全部に決まっておる」


「おい、俺の分は残せ!今日は記憶がなくなるまで飲むって決めてんだ!」


その後しばらくどんちゃん騒ぎで飲み続けた。


ここに来たのは人生を終わらせるつもりだったからだ。


みじめで何をやっても上手くいかない自分を変えたくて、親の期待に応えようと、たくさん勉強して、たくさん努力して、目の前の壁を乗り越え続けて、やっと結果がこのざまだ。神すら恨んだ。


でも、もう一度頑張ってみよう。 


今度は自分のためじゃなく、誰かのために。












ピンポーン


チャイムの音で目が覚める。


「はいはーい、ちょっと待ってな」


寝ぼけた頭でベットから這い出て玄関に向かう。


多分友人が気になって様子を見に来てくれたんだろう。


昨日は友人が慰めの会とゆう名の飲み会を開き、人間ポリバケツのように酒を飲み口を開けば愚痴と奇声をあげていた。


普段は人を人とも思わないような奴らだが、流石に俺が心配になったのだろう。


サンダルを片足履いて、ドアノブを捻りドアを開ける。


そこにいたのは狐の耳と尻尾を生やした美しい金色の長い髪をした女性だった。


俺を見るなりふぅ、っとため息を吐き少し拗ねたように言った。


「いきなり訪ねたのは確かにこっちが悪いが、もうちょっとシャキッとせんか。

神ではあるが、それ以前にわっちは女性で恋仲なのだぞ」


しばらくの間理解が出来ず呆然と眺めていたが、俺は理解した。


「うち宗教とかそうゆうのいいんで」


扉を閉じてカギを閉めた。

















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