File56 危機一髪と不吉な予言
やばいやばいやばい……!
「星崎ぃいいい……! まだか……⁉」
「もう少し……届いた……!」
肩がフッと軽くなる。
すると星崎は少し上から僕に向かって叫んだ。
「空野はどうやって登る⁉」
「足を伸ばしててくれ……! 一瞬だけ体重をかけるからしっかり梯子を持ってろよ……⁉」
僕は少しだけ助走をつけると壁を蹴って、天井に飛び上がった。
穴から伸びた星崎の足を掴んで重心を移し、すぐに反対の手で梯子を掴もうと手を伸ばす。
ずるっ……
うまくキャッチ出来ずに、僕は床に転がり落ちた。
「空野……‼」
「大丈夫だ……! もう一回……!」
「わたしの事は気にせずに体重をかけてくれていい」
星崎が言った。
僕は頷き、もう一度壁を蹴って今度はしっかりと星崎の足を掴んだ。
慎重に梯子に狙いを定めて手を伸ばす。
足元にはミミズの化け物みたいな静香が迫って手を上に伸ばし始めていた。
「掴んだ……!」
『掴……ん……だ……!』
ぬるりとした感触を足首に感じると同時に、頭の中で静香の声がした。
「わぁぁああああ……⁉」
僕は死に物狂いで足首に纏わりつく触手を蹴った。
千切れても、千切れても、触手は次々と産まれ出ては、僕の足を捕らえて離さない。
その時ふと、何かが焦げる臭いが鼻腔を突いた。
見ると壊れた発電機が煙を上げている。
その下には、灯油が黒い液溜まりを作っていた。
燃えろ……! 引火しろ……!
僕は祈るような気持ちでどんどんと足を伝って上ってくる触手を振り払う。
星崎も臭いに気付いたらしく、覚悟を決めたような顔でポラロイドカメラを取り出した。
「大島ノンコ……! 助けてほしい……!」
そう叫んでカメラを発電機の方に投げつける。
カメラはクルクルと回りながら放物線を描き、まっすぐ発電機へと向かっていった。
運動音痴の星崎に出来るとは思えない完璧なコースだった。
もしかすると大島ノンコの念力が作用しているのかもしれないし、奇跡的にうまくいっただけかもしれない。
とにかくカメラは発電機にぶつかると、小さく何かがスパークした。
チリチリ……
灯油に火花が引火する。
炎はタンクの中に吸い込まれるように伸びていき、爆発する。
ぶぉおおおおおっ……と音を立てる劫火が静香の形をした触手を吞み込んだ。
キィイイイ……キュイィイイイイイイ……と、触手たちが身の毛のよだつような悲鳴をあげる中、僕は梯子によじ登り、大急ぎで鉄の蓋を閉めて閂をする。
触手が蓋の向こうでのたうつ感触が伝わってくる。
加えて炎の熱が鉄の蓋を突き抜けて僕たちに迫った。
「急ごう……! 今度こそ脱出しないと……」
「うん……!」
その時、僕らの頭の中で再び静香の声がした。
『逃げられると思うな……もうすぐお前たちは……
「
「行こう……」
僕らが梯子を登る間中、頭の中では静香の狂気的な笑い声が響いていた。
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