File55 パパパパパン!とツツツツツ!
無い無い無い……!
出口なんてどこにも見当たらない……
四方は湿ったコンクリートに閉ざされ、出口らしきものはどこにも無かった。
のっぺりと、冷ややかに、僕らを包囲して、触手の生贄として捧げんとするその部屋は、さながら屠殺場のような静けさが満ち、阿鼻叫喚の気配を内包している。
もうおしまいだ……
部屋の入り口でとぐろを巻きながら、静香の形を
せめて最後に星崎に……
僕が星崎の方に向き直ると、彼女はなぜか天井を見上げてひっきりなしに首を振っている。
「空野……!」
星崎が天井の隅を指さして叫んだ。
見るとそこには天井と同化して目立たない錆びた鉄の蓋がある。
「そうか……! ここは地下だ……!」
「出口は横じゃなくて上にある可能性が高い……!」
僕らは頷きあって部屋の隅に走った。
しゃがむ僕の上に星崎が阿吽の呼吸で跨った。
「せーの……!」
けれど肩車では蓋に手が届かなかった。
「届かない……」
「肩の上に立て……! 壁に手を付いてバランスを取れば立てる……!」
星崎はおっかなびっくり僕の肩に足を乗せた。
何度も踏みなおす足が、肩に食い込んで痛い……
「星崎……まだ……ぬおっ⁉」
思わず見上げて叫んだ僕は、そこから見える景色のせいで残りの言葉をゴクリ……と呑み込んだ。
ヒラヒラと揺れるスカートの中には、僕の両肩幅に開いた星崎の足が伸びていて、そのてっぺんには……
ぱ……ぱ……ぱ……パ……パン……!?
見上げていたい気持ちと、これ以上見たら負けという意地が火花を散らす。
逡巡した挙句、僕はもう一度だけチラリと上を確認してから、顔を伏せた。
ふう……ギリギリ引き分けだった……
それにしても……星崎って見かけによらず結構……
「空野……!」
「は、はぁあい……⁉」
突然声をかけられ変な声が出たけれど、星崎はどうやら僕の筋力に限界が来ていると勘違いしたらしい。
慌てた様子で続きを口にする。
「蓋が開いた……! 梯子がついてる……! すぐ上るから待ってて……!」
「わ、分かった……! 急いでくれ……!」
なぜかどんな危機の時よりも冷や冷やしながらそう言う僕の耳に、湿ったヒタヒタという足音が聞こえた。
振り返ると、グロテスクなミミズで編み上げたような静香が、触手の欠片を撒き散らしながらこちらに歩みを進めているのが見えた。
ツツツツツ……と冷や汗が背中を流れ落ちた。
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