File40 サイドボードとサイドキック
顔のすぐ隣に星崎の息遣いを感じながら、僕は耳を澄ましていた。
ガラガラガラ……
少し離れた場所で扉の開く音がする。
それに次いでキュルキュル……という車輪の音が部屋に入っていくのがわかった。
探している……
僕たちを探している……
声を出さずに身振りで逃げようと伝えると、星崎は首を振ってサイドボードを指さした。
この状況でサイドボード?
意味がわからない……
僕の表情から真意が伝わっていないことを読みとったらしく、星崎は次のジェスチャーを展開する。
彼女がしたのは両手を頭にあてるウサギのポーズだった。
ますます意味がわからない。
恐怖で頭がおかしくなったのか?
まだ伝わっていないと思ったらしい。
彼女は地面の埃に指で『ドラリオン』と書いた。
なるほど。ドラリオンが一瞥したサイドボードに特別な意味を見出したらしい。
馬鹿々々しい……
この状況で逃げる以外に大事なものなんてないはずだ。
それでも星崎は目を細めてこちらを睨み、意地でも動かないという顔をしていた。
こうなったら無駄な言い合いで時間を潰すより、さっさとサイドボードを調べて、化け物が来る前にどこか別の場所に隠れるしかない……
ここまで一緒に行動してきて、このサイドキックの性格が何となくわかってきた。
いや……星崎がヒーローで、サイドキックは僕か。
僕は小さく息を吐き覚悟を決めると、音を立てないようにベッドの下から抜け出してサイドボードの引き出しに手をかけた。
慎重に引き出しを引くと一段目には何も入っていなかった。
二段目に手をかけた時、またしてもキュルキュルと音が聞こえた。
どうやら一つ目の部屋を調べ終わったらしい……
僕はごくりと唾を呑み込み、二段目の引き出しを開けた。
中には一枚のメモが残されている。
見るとそこには水色のペンで髑髏の絵が描かれていた。
僕はそれをベッドの下の星崎に手渡した。
声は出さずに「行こう」と口を動かすと、星崎は首を振って再びサイドボードを指さす。
残り二つも確認しろということらしい。
こいつ……なんか図々しくなってきてないか……⁉
僕が恨みを込めて星崎を見ながら三段目に手をかけると、またしても車椅子が移動する音が聞こえた。
引き出しと連動してるんじゃないだろうな……?
嫌な想像が頭に浮かんだ。
それを振り払うように、僕は中身を確認する。
そこにはまた一枚のメモが残されていた。
『院長は良い人』
そう書かれたメモを見て、婦長の日記の文言を思い出す。
僕は再び背中に薄ら寒いものを感じた。
それも星崎に押し付けると、最後の引き出しを開けた。
同時に、すぐ隣の病室の扉が開く音がする。
僕らは同時にビクっ……と体を震わせて視線を交わした。
時間が無い。
最後の引き出しを見ると、中にはゴミが詰まっていた。
入院患者の出したゴミ……
そう考えると何となく身が竦む。
病原菌や様々な体液を連想して、丸められたティッシュのすべてが脅威に思えてくる。
僕は触るのが恐ろしくなり、引き出しを完全に引っ張り出して、中身を床にぶちまけた。
すると紙くずに紛れて何かが床にぶち当たったのか、カツーン……と乾いた音が薄暗い病室に響き渡る。
それはカラカラと音を立てながらベッドの下に転がり込み、星崎の真ん前で止まった。
ヤバい……
恐る恐る、ゆっくりと扉の方を振り向くと、そこには残忍な笑みをたたえた車椅子の少女がいて、真っ直ぐ僕の方を見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます