File38 繋がりとつよがり
二人して言葉を失ったまま、日記に書かれた最後の言葉を凝視する。
二十四年前に何かが起こった……
それが具体的に何であるかは分からない。
ただひどく恐ろしいことだというのは、この病院の現状を見ても明らかだろう。
その出来事は報道されることも無く、噂になることも無く秘匿され、どうやら今も継続しているらしい。
日記をめくるとそれ以上続きはなかった。
それがさらに恐ろしさを助長させる。
婦長はどうなったんだ……?
ぞくり……ぞくり……と冷たい血が全身をめぐり、手足の感覚を奪っていく。
薄気味悪い蛍光灯の明かりが、手足の冷えに拍車をかける。
ガタガタと震えそうになったその時だった。
「これでハッキリした……」
星崎の言葉で僕は我に返る。
「……何がはっきりしたんだよ? イカれた院長に、イカれた職員、イカれた病院……こんなの謎が増えただけだ」
「病院の謎はわからない。でもお化け公園とこの病院の繋がりはハッキリした。あの公園の女子生徒はこの病院に運ばれたと思って間違いない。病院で起きた事件にも、飛び降りた少女の通り魔事件にも、おそらく報道規制がかかっている……これは国家規模の陰謀」
「こんな地方都市で起きた事件だぞ? おかしな所があるのは認める。でもいくらなんでも国家規模は言いすぎだろ?」
「巨人の骨の生放送も地方の局だった。それにUMAやオーパーツは都市に集中しているわけじゃない。今も昔も然るべき理由があってその場所に存在している。政府は事件ではなく、この土地にある何かを隠したいのかも……」
「じゃあ、動画サイトの女子生徒も飛び降りた少女も、その何かに関わってこんな目にあったのか? 患者を受け入れただけの病院にも伝染病みたいに感染して、こんなヤバい廃病院になったって言うのか? それなら……」
僕たちも危ないんじゃないのか……?
「空野の言いたいことは分かる……でも始めに言ったように、何もしなければ手遅れになった時に後悔する……」
「でも……それなら……どこか……」
一緒に遠くに逃げよう……
喉元まで出かかった言葉を僕は吞み込んだ。
一緒に? 一緒にってなんだ?
話すようになってまだ数日で、一緒に遠くへ逃げる?
自分の思考に混乱して僕は頭を掻き毟った。
そんな僕の考えを見透かすように、星崎は力なくつぶやいた。
「わたしは……逃げられない……もし逃げるときは、わたしのことは置いて行ってくれていい」
なぜか胸がズキン……と痛んだ。
その痛みを誤魔化すように僕は強い口調で取り繕う。
「はあ……⁉ 逃げるなんて言ってないだろ⁉ どこかに頼れる大人はいないか考えてたんだよ……! でもどうせ誰も信じてくれないと思って……」
星崎は目を丸くしてから、なぜかこちらに背中を向けた。
僕の聞き間違いでないなら、彼女は消え入りそうな声で「ありがとう……」とつぶやいたような気がした。
よく見ると小さく肩が震えている。
「お、おい……⁉ なんで泣いて……?」
星崎は病室の方へと延びる廊下を見据えたまま、僕の言葉を手で遮って言った。
「空野……聞こえる……」
「はあ?」
「変な音が聞こえる……」
きゅるきゅるきゅるきゅるきゅる……
それはまるで、錆びた車輪が回るような、不吉な音だった。
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