File37 婦長の日記と大塔病院
【2008年6月1日】
今日は急患が運び込まれた。そのせいか院長の機嫌がやけに悪かった。近くの公園で倒れていたらしい。転んだケガとは思えない。
【2008年6月2日】
来年の4月で閉院すると発表があった。突然の発表にどよめきが走った。明日から面談があるらしい。余計な仕事が増えてユウウツ。
【2008年6月3日】
一昨日運ばれてきた女の子の様態が急変した。院長の凄い形相が目に焼き付いている。
【2008年6月4日】
ラーメン食べたい。休みが欲しい。とつぜんあしためんだんすることになった。だるい。
【2008年6月5日】
院長が怖い。いつもおとなしくて優しいのに、ここのところいつも機嫌が悪い。あの子が入院してから?
面談も意味不明だった。お前はどれくらい病院を愛しているか? とか、守秘義務についてはどれくらい理解しているか? とか、最後は金銭的に困ったことがあれば相談しろ。とか。
院長経営難で追いつめられてるのか?
【2008年6月6日】
また急患が来た。同じように頭部に挫傷がある女の子。意識はまだ戻っていない。通り魔じゃないかと思う。聞き取りに来た警察は何も教えてくれなかった。
【2008年6月7日】
院長が本格的におかしい。カウンセリングルームにマネキンを運んでいた。
尋ねると笑いながら新しい心理療法を試すって……来年閉院するのに?
そういえば昨日から工事の業者が入っている……来年閉院するのに?
【2008年6月8日】
マネキンが増えてる。
【2008年6月9日】
院長室に呼び出された。院長は憑き物が取れたみたいな清々しい顔だった。なんでも閉院を免れるかもしれないらしい。その時も婦長を頼みたいと言われた。給料が3倍になるらしい。あやしい。院長の妄想かもしれない。
【2008年6月10日】
放射線技師の佐々木さんがいなくなった。院長が物凄く怒っていた。噂では夜逃げらしい。
【2008年6月11日】
女の子の意識が戻った。とても怯えている。明日から心理療法を行う。院長が。あの状態でできるの?
【2008年6月12日】
女の子が脱走しようとしてカウンセリングルームの窓から飛び降りた。非番なのになぜか呼び出された。最悪。
両足の複雑骨折。一命は取りとめた。でもあれではもう歩けないだろう。
何から逃げようとしたのか……?
【2008年6月13日】
1日に運ばれてきた急患の女の子が消えた。意味が分からない。意味が分からない。
両親は一度も面会に来ない。警察の反応も変だった。
院長は何をしている?
【2008年6月14日】
佐々木さんが帰ってきた。別人に思うのは私だけ?
【2008年6月15日】
最近頭痛がひどい。耳鳴りもする。工事の音が頭に響いて本当に辛い。
【2008年6月16日】
みんな変。みんな変。私がおかしくなっているのか? 明日は院長と面談。はぴ。
【2008年6月17日】
お給料がサンバ! サンバ! サンバ! 院長は良い人。院長は良い人。わたしのこと何でも分かってくれてる。頭痛薬もくれたし。頭がスッキリしてはぴ。
マネキンさんたちの着せ替えが今から楽しみっぴ。
工事も終わったし、はぴ。
【2008年6月18日】
女の子が帰ってきた。
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