File30 警告音と終了のお知らせ
僕らは咄嗟に息を殺して身を低くした。
机の下に潜り込みマネキンの放つ気配に全神経を集中する。
コツ……コツ……カタン……
何かが……部屋を歩く音がした。
僕らは顔を見合わせると、机の下に空いた隙間から部屋の様子を覗き見た。
無数のマネキンの足が見える。
動いているものはいない。
けれどマネキンの足の林の奥では、時折白い影がヒュッ……と、動く気配がした。
どっくん……どっくん……
心臓の音が嫌にうるさい。
肩に星崎の手が触れた時、僕は思わず飛び上がりそうになった。
見ると彼女は無言で部屋の隅を指をさしている。
指の先には本棚の死角で気づかなかった、隣の部屋につながる扉があった。
扉までの道のりにはマネキンたちの姿も無い。
僕は無言で頷いてから、もう一度気配を探るために、机の下の隙間を覗き込んだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ……‼」
身をかがめて机の下を覗き込む、同じようにこちらを覗き込むマネキンと目が合い、僕は思わず叫び声をあげた。
星崎の手を引っ掴み、僕は先ほど見つけた扉へと猛ダッシュする。
振り返ると、マネキンはぎこちないながらも凄い速さで、手足の関節をコキコキと鳴り響かせながら、机の上に立っていた。
他のマネキンたちも連動するかのように一斉に関節を鳴らしながら、コキコキと不気味な動きをし始める。
カン……! カン……!
脳内の警告音が響き渡る。
「やばいやばいやばい……!!」
そう独り言ちた次の瞬間、手足を振り乱しながら、マネキン達は次々と僕らの方へ殺到した。
襲い来るマネキンから逃れるようにして、僕たちは隣の部屋に飛び込んだ。
「鍵を……!」
ドアを押しながら叫ぶと、星崎がドアノブについたつまみを回そうと手を伸ばした。
ドォォン……!
マネキンたちが扉にぶつかる衝撃で、鍵がうまく回らない。
「やばいやばいやばい……! 星崎はやく……!」
「わかっている」
ドォォン……ドォォン……ドォォン……
何度目かの波を乗り切った時、カチと音がして鍵がかかった。
僕は急いで扉から離れ、出口を探してあたりを見渡した。
ないないないないないない……!
出口がない……
物置のようなその部屋には出口が見当たらない。
それなのにマネキンたちは諦める様子もなく、扉はギシギシと嫌な音を響かせ続けている。
「最悪だ……閉じ込められた……だいたい何だよあれ⁉」
「わからない……! 宇宙人のアバターか、医療用のアンドロイドかもしれない……! 現在市場に出回っている技術は大半が古い軍用テクノロジーの払い下げ……! 本当のテクノロジーは三十年以上進歩している……!」
「今はそんなことどうでもいいんだよ……!」
いつものような余裕は微塵もなく、早口でまくし立てる彼女に向かって僕も思わず叫んでいた。
木の扉にはヒビが入り始めた。もう長くはもちそうにない。
どうやらマネキンたちは一人ずつの突進では埒が明かないと判断し、全員で体重をかけて扉を壊す作戦に打って出たらしい。
「こっちだ……!」
僕は板の張られた窓の方へ星崎を引っ張りながら叫んだ。
カーテンを破り足に巻き付ける僕に、星崎が言う。
「何をするつもり?」
「窓から逃げるんだよ……!」
僕は木板を窓ガラスごと蹴破ると、割れた窓から上半身を外に出した。
窓の下にはつま先立ちがやっとの細い出っ張りがあり、ぐるりと建物を一周している。
落ちれば死ぬだろう……
だけど捕まったら……?
息を呑む僕らの背後で扉がひと際大きい音を立てた。
カンカンカン……!
警告音が頭の中で鳴り響く。
カンカンカン……!
試合終了のゴングが脳裏に過った。
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