File31 ムッツリ魔人と視線の先

 ミチィ……と断末魔の声を上げて扉が粉砕した。

 

 同時にマネキン達が将棋倒しになりながら部屋に雪崩れ込んでくる。

 

 開いた窓を見るや、マネキン達は我先にと窓の方へ殺到した。

 

 ある者は勢いあまって階下に落下し、ある者は仲間に押し出されるような形で落ちていった。

 

 そこにあるのは僕らに対する異常なまでの執念だけで、仲間への情や思い遣りは一欠片も感じられない。

 

 いったいなぜそこまでの執着を示すのか?

 

 その理由は知る由もないが、僕は屋根裏の通気口に身を潜めながら、固唾を呑んでその光景を見守っていた。

 

 くいくい……

 

 星崎が僕の袖を引いた。

 

 早く立ち去ろうということらしい。

 

 僕は静かに頷いて星崎の後から通気口を這って進んだ。

 

 危なかった……

 

 星崎が通気口の存在に気づかなかったら、今頃どうなっていたか分からない。

 

 僕が窓の外の段差に足をかけようとした時、彼女が僕を部屋に引っ張ぱりながら叫んだ言葉がリフレインする。

 

「ダメ……! 落ちたら死んじゃう……! 死んだら、二度と会えなくなる……! 二度と空野と会えないのは嫌……!」

 

 それから僕が言葉を発するより先に、星崎は天井を指さした。

 

 通気口の留め具は錆びていて簡単に壊すことが出来たものの、僕らが天井裏に潜り込むのとほとんど同時にマネキン達が扉を突き破って部屋の中に入ってきた。

 

 だから、僕らの会話はあそこで途切れている。

 

 星崎はあの言葉をどういうつもりで言ったのだろう?

 

 制服のプリーツスカートに包まれた星崎のお尻を後ろから眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えていると、彼女は突然進むのをやめて、バッ……とお尻に手を当てた。

 

 その動作で僕もハッと我に返る。

 

 気づいた時には手遅れで、星崎は頬を紅く染めながらジトォォ……とした目で僕を睨んでつぶやいた。

 

「今、いやらしい目で見ていた……空野がエロマンガ島民ということを失念していた……」

「み、見てねえよ……!」

「嘘。じーっと見つめるよこしまな視線を感じた。見ていないならなぜ動揺する?」

「か、考え事してぼーっとしてただけだ……! 別にお前のパンツなんて興味ないし……!」

「‼⁉ パンツの話題なんて出していない……わざわざその単語を出すのは、無意識の表出……空野がエッチな目で見ていた証拠……」

 

 ダメだ……何を言っても口では勝てそうにない……

 

 僕は頭を掻き毟りながら歯ぎしりした。

 

 その時不意に誰かの視線を感じて僕は我に戻る。

 

「おい……星崎……」

「ムッツリ魔人とは三分間口を利かない……認めるなら解除してもいい……」

「今そんな場合じゃないだろ⁉」

「しーん」

「ああもう……! 認める! お尻を見てた!」

 

 それを聞いた星崎は相変わらず赤い顔のまま振り向いてつぶやいた。 

 

「話は何……?」

「なんか視線を感じないか……?」

「ムッツリ魔人の……?」

「違う……! もっとヤバそうな……」

 

 コキ……

 

 床の方から音がした。

 

 二人でゆっくり音の方を向くと、網目状の通気口の下から、マネキンがこちらを見上げていた。

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