File23 ごみ置き場と開いた扉

 僕らは後ろから奴が来ていないかビクビクしながら前に進んだ。

 

 しばらくしてどうやら追ってきている様子がないことを確認すると、やっと僕らは足を止めて地面に座り込む。

 

「なんだよアイツ……本物の不審者じゃんか……」

「正体を決めつけるのは早計……ドラリオンのおかげで助かった……」

「はあ⁉ 本気で言ってんのか?」

 

 思わず叫ぶ僕の方は見ずに、星崎は仰向けになったキジトラの首をゴニョゴニョと撫でながら答えた。

 

「ドラリオンがいなければ逃げ切れなかった。アレの正体が何であれ、捕まっていたらどうなったかわからない」

 

 せっかく忘れていた疑念がムクムクと膨れ上がっていく。

 

 それも質の悪いことに言いようの苛立ちを伴って。

 

「なあ……本当にその猫は信用できるのかよ? そいつが普通じゃないのは認めるよ……でも、この猫が……」

「この猫が……なに?」

 

 続きを言うのが怖かった。

 

 それでも渦巻く疑念を胸の中に留めておくことが出来ず、僕は静かに覚悟を決める。

 

「この猫が……お前を誘い込んだんじゃないのか……? 危険なナニカに。それにもしかしたら、他の被害者だって……」

 

 それを聞いた星崎は、なぜか安堵したようなため息をついた。

 

 その意味が分からず僕が顔を顰めていると、星崎は再びキジトラをじゃらしながら口を開く。

 

「それはない。わたしはドラリオンが子猫の時から知っている。それに暫定的には被害者が存在しなかった。さっき二人で調べたところ」

「政府が隠蔽してたんじゃないのかよ……?」

「他の件では確実。でもこの件については、まだ確証がない。とにかくもう少し調べないと、分からないことが多すぎる」

 

 星崎が言い終わるや、ドラリオンがむくりと起き上がった。

 

 キジトラの見据える先にはフェンスで囲まれたごみ置き場のような場所があり、黒い袋が山積みになっていた。

 

 かなり古い物らしく、打ち捨てられてそうとう時間が経っているように見える。

 

「ドラリオン……あそこに何か……きゃ……‼」

 

 立ち上がった拍子に、ごみ置き場からカラスがけたたましい聲をあげて飛び立った。

 

 思わず二人してビクリと体を震わせてから、恐る恐る顔を見合わせごみ置き場に歩み寄ると、カラスに集られ破れた袋からは医療用と思しき雑多な廃棄物が覗いていた。

 

 折れ曲がった注射器の針を見て、ぞくりと鳥肌が立つ。

 

「どうやら病院の破棄物……」

「そうみたいだな……てことは、この建物……」

「うん。大塔病院だと思う……」

 

 細い路地から見上げた風化した赤レンガ造りの壁。

 

 窓にはまった鉄格子。

 

 電線に並ぶカラスたち。

 

 嫌な予感がした。

 

 けれど、黒フードのことを思い出すと、もと来た道を帰る気にはなれなかった。

 

 そんな僕らを招き入れるかのように、ごみ捨て場の奥にある鉄の扉は開いている。

 

「にゃぁぁぁん……」

 

 ひと際長く甘ったるい声を出してから、キジトラは扉の奥へ走り去ってしまった。

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