File6 無理ゲーとポラロイド

 無言になった僕達をよそに、路地裏には夜の商店街の喧騒がかすかに響いてくる。


 仕事帰りのサラリーマンや大学生達が居酒屋に吸い込まれていくのを感じながら、沈黙に耐えかねた僕は星崎に尋ねた。


「力を貸すって、具体的には何をするんだよ……? まさか行方不明者を探すのか?」

 

 先ほど見たポスターを思い出しながら僕は言った。


 あんな昔の行方不明者、今頃はおそらく……

 

「行方不明者は探さない。きっともう死んでるか、どこか遠くに連れて行かれてる」

 

 無機質な感情の読み取れない声で星崎が言う。


 そのどこか冷たい言葉に、思わずゾクリと背筋に寒気がした。

 

「まさか犯人を探すって言うんじゃないだろうな……?」

 

 星崎は何も言わずにコクリとうなづいてから静かに口を開いた。

 

「犯人は……多分人間じゃない。世界には子どもの生き血を飲むことで生き長らえたり、若返ったりしている権力者たちがいる。奴らは地球外生命体で、ドラコニアンと呼ばれている。決して表舞台には現れない。スレンダーマンやブギーマンは、本当は奴らの手先のレプティリアンで、各地の伝承は人々の目を誤魔化すための作り話……というのがわたしの立てた仮説……」


 いやいや……ありえないから……


 だいたい本当に誘拐犯が宇宙人なら、なおさら捕まえるのは不可能なわけで……


 そんな僕の考えを見透かしたのか星崎はと目を細めながら、ふくれっ面でトートバッグに手を差し込み何かを取り出した。


「誰も犯人を捕まえるなんて言ってない。レプティリアンの姿をこのポラロイドカメラで撮影する。奴らが存在する証拠を世間に公開すれば、敵も身動きが取りづらくなる。人類奴隷化計画も進行が遅れるはず」


「……」


 言いたいことは山程あった。


 レプティリアンが存在し、なおかつ誘拐事件の犯人がレプティリアンで、それを二人で見つけ出し、あまつさえその証拠をカメラに収めるという無理ゲーに付き合わされるというのだから、ひとことふたこと言うくらいは当然の権利だと思う。

 

 そんなことを考えながらも、真剣そのものの星崎を見て僕が言ったのは


「なんでそんなゴツいカメラで撮るんだよ……」


という、なんとも中途半端な一言になってしまった。

 

 星崎は両手で抱えた古いポラロイドカメラを凝視して考え込むように黙ったあと、なぜか再び恨めしそうにこちらを見据えて口を開いた。

 

「理由はいくつかあるけど……捏造を疑われない。というのが最も重要……」


 どことなく歯切れの悪い物言いが引っかかったけれど、確かに筋は通っている気がする。

 僕はしぶしぶそれを受け入れ、ため息混じりに答えた。

 

「そうですか……それで? どうやってレプティリアンを見つけるんだよ?」

「まずはわたしがスレンダーマンを目撃した公園の周辺を調べる。ナビゲーターニャーを連れていけば、奴らの怪電波に反応するから見つけられる。はず……」

 

 タイミングを見計らったように、キジトラが「ニ゙ャー」と声をあげた。


 それを合図に星崎は歩き出し、なぜかキジトラも星崎に従った。 


「さっそく今から公園に向かう。ついて来てほしい」


 数歩進んで立ち止まると、振り向きざまに星崎がそう言った。 


 彼女の話は全部、荒唐無稽なオカルト話か陰謀論で、断ってもいいはずだったし、付き合ってやる義理もなかった。


 なのになぜか僕は、大きなため息をついただけで、星崎と一緒に公園に向かうことにした。


 この時からすでに、あるいはもっと前から、僕は途方もない事件に巻き込まれ始めていたのだと、今ならそう思う。

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