「超使えない能力のお陰でクソみたいなパーティから追放された俺は実は勇者の生まれ変わりでハーレムしながらチートスキルで無双していく予定」

第3話 近寄るな

 俺からしたら、大好きな物語の中にするっと入ったものなのだから、感嘆の声も出ようというものだ。


『超使えない能力のお陰でクソみたいなパーティから追放された俺は実は勇者の生まれ変わりでハーレムしながらチートスキルで無双していく予定』、略して『ちかよるな』。

 主人公のランスは、勇者の一行の一員としてダンジョンに向かうも、その能力が戦闘にまったく役立たないものだったために、ダンジョンの中で追放されてしまう。しかし、そこで同じように追放された美女、リティアと出会い、段々と勇者だった前世を思い出していき、ついにはチート級スキルを手に入れて無双し、元々いたパーティを圧倒してしまうまでに成長する——


「そういうハートフルストーリーなんだけどさあ」


 俺たちがはじめに到着いるのは、森の中。

 いや、本に吸い込まれたと思ったらいきなりこの場所に立っていたので、到着と言っていいのかわからないが。

 どうも、初めにランスが追放される洞窟のダンジョンの外らしい。俺たちは、この世界に馴染むためか、モブのような格好をしていた。

———いや、俺の服はもうない。


「なるほど。追放系というわけですね。それで、その使えない能力というのは?」


 コトが思ったよりも食いつく。


「……ふ、イスキあんた、凄く似合ってる。なんていうか、そういうエッチな本、あるわよね」


 笑いを堪えて、ナカノが肩を震わせる。あれ、なんかそう言うキャラだったっけ? 真面目な先輩だったはずでは?


「イスキさんすみません、助けたい気持ちはあるんですけど……あの、それ以上肌色面積を広げられると、私、私……うっ」


 気分が悪そうに、ミモリが口元を抑える。


 それを俺は、少し高い視点から見下ろす。

 ———わけのわからん触手植物に捕まり、逆さ吊りで服を溶かされながら。


「いいから助けろお前らはぁ!!!」


 出会って数分のはずの相手に、俺は腹の底から叫んでいた。

 だってそうだろう、どうみても危機のはずの俺の生命を、俺の局部露出秒読みのこの状況を助けようとする素ぶりすらないのだから。


「いや、無理無理。あたしたちはただのモブなのよ? ……ふふ。」

「ナカノ、お前は笑うのをやめろ。さっきからずっと笑ってるよな? そんなに面白いのか? 俺が裸になっていく様がよお」

 真面目な先輩の印象はここ数分でとうに消え失せた。コイツ、完全に面白がっている。

「私、リバライト様に毎夜お祈りしていますが、今ばかりは信仰心も憎しみに変わるというものです……どうして、イスキさんを完全に女性にしてくださらなかったのでしょう。なんの意味があってイスキさんの体は男性のままなのですか? 意味がわかりません」

「ミモリ、それは俺が一番よく思ってるよ。お前は俺の気持ちをわかってくれる。きっと俺たちいい友達になれるよな。だからこの際攻撃魔法で俺ごと撃つでもいいから助けてくれ」

「それでそれで、イスキさん。ランスさんの無能スキルとは? もっと詳しく教えてください。リベルリライターの仕事に予習はかかせませんから」

「コト、お前はもう少し他のことが言えんのかこの状況で」


 コトは俺の言葉に少し考え込むと、自信ありげな顔で言う。

「次回、イスキ局部露出、猥褻物陳列罪で逮捕!? どうなっちゃうの〜!?」

「お前降りたらぶん殴る!!!」

 いたいけな少女に向かって大人気なく傷害宣言をしている男の姿が、そこにはあった。


 そんなことを言っている間にも、じゅるじゅると気持ちの悪い音をさせて、触手がどんどん俺の服を溶かしていく。まずい、ものすごくまずい。逆さ吊りの時点で男物の下着が露出しているから、もうそろそろ局部を大々的に公開することになってしまう。あのコトとかいうロリのクソみたいな予告通りになってたまるか。

 それに流石の俺も、女子たちの前でそんな非道なことはしたくない。

 何より、この美しい俺のこんな姿をいつまでも晒していたくはない。


 しかし、俺は無力だ。どれだけもがこうとも、触手の拘束を逃れられない。

 もはやこれまで。俺は屈辱に目をぎゅっと瞑って覚悟を決めた。

 

 その時———。

 ザシュ、と心地よい音がして、俺は呪縛から解放される。近づく地面に思わず目を瞑ると、ふわり、と誰かが抱き止めてくれる感覚。


「大丈夫?」

 逞しく、優しい声色。

 目を開けると、金色の髪のイケメンが、俺をお姫様抱っこしてくれていた。助け出してくれたらしい。

 俺のところに駆け寄ってくる三人と共に、彼に頭を下げると、イケメンは手をあげて彼のパーティメンバーの元へ戻っていく。ダンジョンから出てきたところだったようだ。


「危ないところでしたね、イスキさん。ごめんなさい、私助けたかったんですけど、イスキさんに触れないし……」

「いや……」


 俺から視線を外したまま謝るミモリに、なんだかんだ根はいいやつだと感心しながら———俺は、イケメンが歩いていった方向から目が離せなかった。

 それに気づいたナカノが、俺の視線の先を見る。


「……ランスが、追放されてない」


 イケメン———パーティのリーダー格である勇者・カインが戻ると、彼らは街へ向かって歩き出す。

 追放するはずのランスを加えたまま。

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