第2話

少年の周りが再び騒がしくなってきた。しかし、今回は先ほどの様な獣の荒い息遣いは聞こえない。遠くからの人々の話す声が段々近づいてくる。


無気力だった少年の目に再び灯りがともった。


「おー!カムロ!お利口に待ってたんだな」


ぞろぞろと皆がかえってくる中で一際元気のいい一人の男が少年の頭をわしわしと撫でた。


「そんな子供っぽいことやめてよ、マグナ。もうガキじゃないし。」

「いや、お前まだ13だろ、全然ガキだよ。」

「ガキじゃない!」

「ハハハ、そーいうトコがガキなんだよ!」


マグナは、このスラム街をまとめるリーダーのような存在で、親のいないカムロを小さい頃から世話している。


「でも、無事に帰ってこれてよかった。」


ニコッと笑うカムロの顔を見て、マグナも嬉しそうに微笑んだ。


◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇


町のみんなが何故月に一度一斉にいなくなるのか。小さい頃マグナに聞いたが、

「みんなは仕事に行ってるんだよ」

とだけ答えて、後は何を聞いても話してくれなかった。



「そんなに心配しちゃって~。もしかして、寂しかったの?」

「寂しくなんかない!」


二人が他愛のない話をしていると、トタン屋根の小屋から、小さい女の子が顔を出した。


「あ、カムラおはよう」

「もしかして、起こしちゃったか?」


カムラは、この街で一番年下の末っ子だ。身寄りがなかったのと、この町は子供があまりいなかったということで、みんなから可愛がられている。


カムラはふるふると首を振ると、「お腹が空いた」と食べ物をせがんだ。


「お腹が空いたか。今日はね~、隣町から買ってきた肉がありま~す!」


いつも芋や硬いパンばかり食べている彼らにとって、肉はたまにしか食べられないご馳走に等しい。


皆町の真ん中に集まって、炊き出しをしている。大きな鍋でスープを作ったり、

丸焼きの肉にかぶりついている。


「久々のちゃんとした飯だぁ~!」

「俺らが頑張って仕事をしたおかげだな!」


〝仕事〟


(そういえば昔マグナに聞いたことがあったけど…。でもきっとあの時は小さかったからあまり相手にされなかっただけかもしれない。)


マグナたちが一体何をしているのか、もう一度聞こうとしたとき、


「怪物だーー!!」

「急いで逃げるんだ!」


先ほどの和やかだった雰囲気が一瞬で消え去った。


町の人たちは我先にと飛び出すようににげていく。そして多くの人に押されながら、カムロも駆け出すと、遠くで声が聞こえた。


「いいか、最優先は人質となった〝ニライさま〟の救出だ!町のニンゲンどもが散り散りとなった今がチャンスだ!蔵でも倉庫でも、片っ端からこじ開けろ!」


(人質?〝ニライさま〟?……もしかして怪物達は人質を探しに…?でも、誰がそんなこと……まあいい、とりあえずそのニライさまっていう奴を探せば彼らは帰ってくれるかもしれない)


◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇


町のみんなにも、怪物たちにも気づかれないよう、こそこそと隠密に知っている蔵や倉庫を開けた。どちらにばれたとしても、面倒なことになるのは間違いない。


そこでふと、カムロは冷静さを取り戻した。


(なんで俺は知らない奴の為にこんなに一生懸命になってるんだ。それよりもカムラがどうにかなっていたら…)


さっきの炊き出しの時、カムラはマグナと一緒にいた。マグナがいればきっと安心だが、さっきの群衆ではぐれたということもなくはない。


急いで町の中央に戻ってみたものの、そこにはだれもいない。


(みんなはちゃんと逃げられたのか?)


ほっとしたのもつかの間、こんどは炎がカムロの周りを取り囲んだ。

鍋の火が家の木か何かに燃え移ったのだろうか。



〝もう逃げ場がない〟



(あの時人質を探しに行かなければ…カムラやみんなはちゃんと逃げられたのかな…)


すると遠くでマグナがカムロを呼ぶ声が聞こえた。大勢の人影が見える。



(だめだ…みんな…こっちに来たら…)

  

遠のく意識の中、彼の頭の中にはっきりと声が聞こえた。


「おい、そこの少年」





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夜と缶詰 ゐ己巳木 @kotobukisushi

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