夜と缶詰
ゐ己巳木
第1話
大きな町の隣のスラム街は、暗闇と静寂に包まれていた。
そこのスラム街の一つの小屋に少年が力なく横たわっている。
しばらくして、あんなに静かだった周りが騒がしくなってきた。たくさんの足音と、獣の息づかいのようなものが聞こえる。大勢の何かがこちらにむかってくることに気づいた少年は、一瞬ためらったようだが、仕方なくというように隣に転がっていた缶詰を開けた。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
その町は、とてもにぎわっていた。夜も昼間のように明るく、道行く人々は皆笑顔を浮かべていた。実に幸せな町だった。
怪物が現れるまでは。
元々森に住んでいた怪物達は、森の動物を狩って生活していた。しかし、狩人達が森の動物を狩りつくし、木こりたちが木を伐りつくした。
住処を奪われ暮らす場所も食べるものもなくなってしまった怪物達は、やがて大陸を移動しながら町の人々を喰らうようになった。
彼らは決して悪いわけではない。本当に悪いのは彼らの居場所と食料を奪い去らった人間たちなのだ。しかし、人間にも暮らしがある。
彼らが人々に危害を加えてしまった場合、人間も自分の命とくらしを守るために自己を防衛しないと生きていけないなのである。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
「ああ、これで最後なのに、使ってしまった。」
先程まで暗かった少年の周りが、まるで昼間のように明るくなっていた。少年は力なくうなだれた。開けられた缶詰が横で転がっている。
数年前、怪物の被害が目立ってきて、何か打つ手はないかと生み出されたのがこの缶詰だった。
缶詰には、太陽の光が詰められていた。
怪物の弱点が強烈な光ということを知った金持ち達は、国が保管している自然の太陽光をありったけ買い占め、缶詰に詰めて高額で売り始めた。
そのためこの国には昼が数時間しか来なくなり、缶詰が買えない者たちは、数時間の貴重な昼に働きに出た。
長い夜になるとできるだけ皆が一ヶ所に固まり、身を寄せ合って細々と暮らしていた。
少年は、ボーッと町の中心を見ていた。無気力な目には、遠くに見える町の灯りが映っている。
「早くみんな帰ってこないかな…」
トタン屋根の小屋に、少年が一人〝周りの人たち〟の帰りをじっと待っていた。
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