第8話 ようやく出立

 なんだかモヤモヤする。

 モヤモヤしているは思考だけじゃなくて、身体も。


「一応はシュシュは効いておるようじゃの。ギリギリじゃが……」


 そうだ、このシュシュをしてから、随分とあたしは平静でいられるようになってると思う。

 エーロの言う通りギリギリだけど。


「お主は余計なところで頑固じゃなからの。それが悪い事だとは思わんが……」


「ふっ、はっつ、……よ、余計なお世話だ……」


 くぅ……こんな所で、何よ。

 普段は頑固だけど、シュシュを外した途端……って言いたいんでしょ?


 さっきから意地悪ばっかり。

 その意地悪にあたしの身体が反応しちゃっうての。


「余計なお世話ついでに……」


 そう言うと、地図を剣の横に置いて


「この先の『迷いの森』のこの場所に行くがよい」


 怪訝そうにエーロの顔を見ていれば、エーロは言葉を続ける。


「よい修行にもなるし、お主の心強い味方になってくれるやもしれん。一緒に旅をする事になるかどうかは分からんがの。ともかく一度逢っておいて損はなかろう」


「一人で仇うちしたいと思っていることは知っておるよ。しかしな、ミーテ。そんなに甘くはない事も、今、身をもって実感したじゃろうと思うて、こうして言っておる。」


 悔しいけど、エーロの言う通り。

 昨日までのあたしなら、エーロの話なんて聞き流しただろうけど……。


 合うだけなら……こういう時、どうせエーロは何を尋ねても、逢えば分かるとしか言わないだろうし。

 ただ、少なくても敵にはならないだろう人物って事は確かなのだと思う。


「んっ…仕方ねーなぁ……分かったよ」


 そう答えた後、いきなり強くて甘くて痺れる刺激が身体を貫いて、頭が真っ白になった。

 あたしが欲していた刺激だったと思う。


 エーロと正対して座り、剣を頂戴し、戦闘服を着て、水色の紐パンを視た者はスタン効果がかかるという説明を聞き、そして、森の中のこの赤い印に居る人物を探せとエーロは言った。


「ミーテ。まだまだ未熟者だと常に意識しておくのじゃ。調子にのった途端に往々にして落とし穴があるのでな」


「ふんっ……爺、世話になったな。」


「見送りはせぬよ。行くがよい」


 エーロは立ち上がり、チラっとだけ視線を合わせ、そして部屋から出て行った。


 頭の中に霞がかかったような不思議な感覚。

 まるで寝起きのような不思議な感覚。

 あたしは出立を告げて、エーロと話をしていただけのはず。


 だけど、その間に色々とな事が起こったような気がした。

 夢でも見ていたのだろうか。


 あたしは、ゆっくりと立ち上がり、そして自身の服を見つめる。

 身体にフィットして豊満な胸が……いや、胸の先端が強調された、白いトップスにお尻がギリギリ隠れるかどうかの白いプリーツスカート。


 そして白の太腿まであるソックス。

 スカートの中には水色の紐パン。


 これらは全て、あたしの能力を活かすためだとエーロは言っていた。


「ふんっ、『マフ』の連中なんて悩殺してやるよ……」


 俊敏性を高めるため、小さなバックパックに最小限のモノだけを入れて、それを担ぎ、エーロの屋敷から出た。


 これから、あたしの冒険が始まる――。

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