第9話 スタン

 当面の目的地は森の中だ。

 あたしのサバイバル能力であれば、大袈裟な荷物なんて必要もないはず。


 正面玄関からではなく、裏門から外にでる。

 いよいよだ。

 気持ちが高揚してくる。


 時折、吹く風にポニーテールが揺れ、そしてスカートがめくれあがる。

 うっ……やっぱりパンツ丸見えじゃん。

 スカートを手で押さえて、周囲を見渡すけど、ここに誰かが要る訳ない。


 誰もいないと分かっていても、スカートがめくれたら手で押さえるのは習い性のようなモノだと思う。

 恥ずかしいモノは恥ずかしいのだから。


 ともかくあたしの冒険のスタート。

 まずは森を目指してっと。


 ここから森には一方通行。

 途中、どこかで1泊しないといけないけど、寂れた村が途中にあるはず。


 昔を思い出すから寂れた村ってあまり近づきたくないんだけど仕方がない。


 人が多い場所を通るより安全だしね。

 人が多い場所と少ないとでは、どちらが目立つのか分からないけど、人目にふれるのは、やっぱり人の往来が多い方だろう。


 振り返って屋敷を見てから、大きく息を吸い込んで、森に続く道を歩き出した。


 胸の浮き出ている突起をさりげなく手で隠しながら、ゆっくりとしたペースで歩みを進める。

 風でスカートがめくれる度に、ゾクっとなる。

 だって、パンツが見えてるはずだから。


 普通に歩くだけで大変なんだけど……これ。

 村に着く頃には、大変な事になってそう。


 とか思っていると、前からガラの悪そうな30歳くらいの男が近づいてきて、ジロジロとあたしの身体を舐めまわすように視ている。


「一人かい?いい身体してるな?」

 挨拶もしないで、いきなりこれ? 

 品を感じさせない声音と口調だし。

 そりゃ、胸も大きいし、顔も可愛いって自覚はあるけどさ。

 露骨すぎるでしょ?


 無視して無言で男の横を通り過ぎようとした瞬間。

 その男はスカートをめくりあげてきた。


「こんな短いスカート履いて、恥じらいってものが……」

 男は最後まで言い終わらないうちに、スカートをめくりあげたままの姿勢で固まった。


 本当に相手の動きを封じれるんだ?

 そう、きっとパンツを視たから。

 男の視線の先には、しっかりと水色のパンツに向かっている。


 恥じらいが何?恥ずかしいんだよっ。

 それも、すっごくね!

 さっき、スカートをめくられた時は呆気にとられて声がでなかったのが幸いしたのか、恥ってるって分かって欲しかったのか……。


 愛剣『WM』を抜いて一閃。

 男の首がなくなり、胴体は地面に倒れた。


「下衆っ」

 吐き捨てるように言った。

 どこの誰だか知らないけど、悪いね。

 ともかく、本当にパンツを視たモノがスタンにかかる事は分かった。


 確かにこれだと大勢を相手にしても勝てるかも知れない。

 けど、大勢の男に視られるって事で。

 今の恥ずかしさの何倍に羞恥になるんだろうって考えると、ゾクゾクしてしまう。


 あたしは盗賊でも何でもない。

 男から金品を盗ったりはしない。

 ただの正当防衛だ。

 

 かと言って、道に死体が転がっていたら、見た人はイヤな気持ちになるだろうし、あたしの仕業とバレて、後々何かあっても面倒だ。


 適当な場所に蹴って移動させ、死体を隠して再び歩き出した。

 今後もこういう事が頻繁に起こると思うと、頭が痛くなりそうだ――。

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