徒花が朽ちるまで

アサツユ

花は枯れ始める

高校一年生

夏も終わりに近づいているにも関わらず

セミが鳴き響く部室で、一人脚本を眺めていた

うちの部活は県大会常連校らしく

私が中3だったころにいた3年生の先輩が引っ張り

県大会出場を勝ち取ってくれていた

全国だって夢じゃないような、素晴らしい大輪の花が揃っていたそうだ。

なんなら、今の部活もそうだ

大輪揃いだ

だからこそ地区大会なんて余裕で突破すると

負ける不安なんてなかった

でも、それでも不安はあった


「お前、正直言って演技下手」

自分に浴びせられた言葉と思いたくなかった

初夏、真っ白な頭で慌てて止めるスズランと

当たり前だろうと我が物顔でいるオハイアリイ

わかっていた、目をそらしていただけだ

いつかは、いつかはうまくなるって信じていたんだ

でも大会前になり

いよいよごまかしが効かなくなってきた


葵、青い、空の下、部室で嫌気が差しながら

脚本を小さく息を吸いながら読んでいた

すると控えめにドアが開かれる

開け方的にすずらんだろうか。


こちらに気がつくとそっとおんなじ椅子に腰掛けた

「別の椅子座ればいいじゃん」

「いや、わざわざ別の椅子座らんて」

すずらんはいつもの口調で喋る

定位置、演劇部の伝統であるベンチは

ちょうど私達三人が座れるくらいの広さだ

仲良し三人組?まぁ、仲良しだろうけど


すずらんの演技はとてもしっかりとしている

役としても、演技としても

声が観てくれる人に対しての礼儀を感じれる

お客さんを置いていかない

脇役でも一目置かれるようなそんな演技


オハイアリイは目立つし、才を感じる演技をする

本人のいいところはあるが、役が嫌われ役であれ

悪役であれ、自分を出さずに演技をする

この人の演技が正しいと、圧倒的だと、

その役自身がいるんだとお客さんに思わせる

ブレないし、なんにしろ自分の演技を大切にしてる

そんな演技


「ねぇ、私、、」

声が小さく漏れ出るがすずらんにハッキリとは

聞こえてなかったらしい

「どうした?」

と返ってきた言葉に我に返り

「ううん、やっぱなんでもない」


部活も終わり、自分の能のなさに辟易しながら

ベッドに体を埋もれさせた。

さぁ、そろそろやってくる

ステージの庭園への招待状が


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徒花が朽ちるまで アサツユ @asatuyu-namida

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