第24話林建設の飲み会
この日は、オレは楽しみにしていた。
林建設の社長が出席の懇親会。
懇親会には、谷課長、オレ、西、宮里が出席。
また、他の課の選抜組が参加する。
谷課長は緊張していた。
「秋田君、君は社長を知らないと思うが、醜態晒したら、クビか地方へ転勤だからな」
「だから?普通に飲めば良いじゃない」
「君は、緊張感がないのか?西や宮里も緊張してるぞ!」
「社長ねぇ〜。いい歳こいたじいさんが、何が懇親会だ。飲みたいだけだろ」
「君は、林社長を知っているのか?」
「……」
「知らないなら、黙ってビール飲んどけ。わかったな」
「はぁ〜い」
金曜日の19時から料亭「なだ千」で、懇親会が始まった。
開始、1時間は林社長の取り巻きが仕切っていたが、社長は瓶ビールを両手に各課の連中のグループで挨拶をしていた。
営業三課の番が回ってきた。
「やぁ〜、こんばんは。今日は飲んでるかい?」
「社長、いつもありがとうございます。営業三課があるのも……」
と、谷課長は挨拶していたが、
「秋田君。どうだい?仕事の方は?」
「社長、見ての通りこの課長の下じゃ辛いっすよ!」
「じゃぁ、飛ばすか?」
「ま、そこまでしなくても。これが西で、こっちは、宮里です」
2人は緊張していた。西はオレと社長の仲の秘密を知っている。
谷課長と宮里は緊張の余り、上手くしゃべれない。
「秋田君、この後どうする?」
「どうするとは?」
「二次会だよ」
「でも、専務も常務もついてくるんでしょ?」
「いや、私1人だ」
「じゃ、マツタケ?」
「マツタケ……良いだろう。私の知ってる中区の小料理屋を予約するから、営業三課の連中だけ、後30分でここを出よう。皆んな飲んでる。私が消えても、君らが消えても気付かれない」
緊張した課長は、
「社長、宜しいのですか?」
「何が?」
「営業三課で……」
「嫌なら君は辞退しても良いんだよ」
「な、何をおっしゃいます。あ、秋田、社長に礼を言え!」
「え?オレが?社長に?なんで?」
「お前なぁ〜」
「まぁまぁ、谷君、面白い男じゃないか?こんな部下を持って君も幸せだな」
「……はい」
西と宮里は黙って飲んでいた。
社長はこっそり手招きして、タクシーに乗り小料理に向かった。
「秋田君、マツタケを準備したよ」
「ん?マツタケ?中国産じゃないですか?」
「……ば、馬鹿、秋田。日本産に決まってるだろ!」
「秋田君、御名答。中国産だよ!」
「やっぱりな。この小料理屋、オレの行きつけですから。ねぇ、皆んな。オイッスー」
『オイッスー』
「ね?常連だから」
「君の名前はまだ、聴いていなかったね?」
と、リエに社長は話しかけた。
「み、宮里理恵と申します」
「社長、この子は宮里でこの若者は西です」
「谷、君には聴いとらん」
「社長、今度ね、北区のマンション工事の足場業者は田端工務店にお願いしたいんだけど、良いかな?」
「君が好きな会社で良いよ!」
「で、この前懇親会があったんだけど、それって経費で落ちる?」
「良いよ。君は、春に社長賞をもらった生え抜きだ。好きにしなさい」
「だってよ!谷課長!」
「社長、質問なんですが、うちの秋田とどのような関係で?」
「師匠だ……ゴホン、え?関係。今夜初めて会ったよ」
「……そ、そりゃあそうですよね?うちの出来損ないの秋田が社長の知り合いなら、会社潰れますからね」
「なんだと、谷!秋田君が出来損ない?お前の方が出来損ないではないのかね?来週、君はデスクの整理をしなさい」
「ま、待って下さい!な、何故、私が……」
「君が出来損ないだからだよ」
「……」
「社長、ここは怒りを鎮めて、穏便に」
「私はね、師匠……秋田君の悪口言うヤツは大嫌いでね。そうだな、総務課の社史作成部門へ異動だ。来月の人事異動でそうしよう。て言うことは課長は坪井にして、係長は秋田君で良いんじゃない?」
「オレ、役職やなんだよ。現場一筋。じゃぁ、表向きは係長は西君にして、その援助に君が入れば良い」
「あ、良いっすね。何か、摂関政治みたいで」
「谷!そう言う事だ。クビよりマシだろう、もう年だ。そろそろ若者に席を譲りたまえ」
「……は、はい」
「て、事で、西!来月から係長宜しく!」
「社長、私はまだ入社して3カ月です。係長は無理です」
「だから、君は表向き。ホントの係長は秋田君だから。ミスも全て秋田君の責任だから」
「……分かりました。頑張ります」
「で、話しがまとまったところで、このマツタケの土瓶蒸しをいただきましょう、中国産
の」
「師匠はいつも、味にこだわりますな?」
「これが、九州男児です」
「ま、同郷だがな。アハハハ」
谷課長はここで初めて気付いた。秋田と社長は友人であった事を。
しかし、覆水盆に返らず。
翌月、谷課長は総務課に異動した。
宮里は、酔うどころか飲めなかった。
ホントに社長の機嫌を損ねるとクビか飛ばされるかの怖い人だと。
その、友人のオレにもびっくりした。
まさか、呑兵衛のオレが社長と友達で絶大なる力を持っている事を。
大人の世界は怖いと実感した。西は係長抜擢が夢のようであった。
西はオレを神様の様に思えた。
そして、季節は冬になる。課長に昇進した坪井はいつもより多く胃薬を飲んでいた。
西係長は、デスクに書類を山積みして格闘していた。しかし、外回りして帰ってきたオレはその書類のほとんどを片付けてやった。
処理の仕方を教えながら。
ただ、経費は総務課から目を付けれて、以前より厳しくなった。だが、社長の一声で以前と同じように落ちる様になった。
西は現場に行きたいと言っていたが、冬は暖かい場所での作業。
PCたにらめっこしていた。
宮里はオレと一緒の地位、主任になった。だが、給料はオレ比べものにならないくらい低い。
冬、マンション建設の現場に向かった。オレは温かい缶コーヒーを持って田端ちゃんに会いに行った。この周りに喫茶店はない。
田端ちゃんは、西が係長になったと聴くと嬉し泣きした。
それを見て、オレももらい泣きをしてしまった。
冬はやはり、日本酒。
12月の忘年会シーズンに突入した。
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