第23話残暑残る秋の夜
8月もあっという間に過ぎて、今は9月。
だが、毎日、猛暑日が続く異常気象だった。
病院改築工事もヤマ場を迎えた。
忙しい。今日も缶ジュースぶら下げて鈴木監督と話した。
遅れ気味の工事だったが、晴天が続き順調との事。
田端ちゃんには、喫茶店行きのサービスをした。
「いや〜、間もなくだね。来月、足場は解体だね」
「そうですね。何せ、地下工事が長引き、なかなか思い通りには」
「ねぇ、田端ちゃん、今夜どう?」
「どう?って、……あぁ、良いっすよ。若いの連れて来ても良いですか?」
「うん」
「今日、西は?」
「西は、事務所で書類と格闘してるよ。そろそろ、独り立ちさせようと思ってね。もう、入社して、3カ月でしょ。小学校のグラウンド工事の担当にしたんだ。夜は、西もつれてくるよ」
「はい。久し振り西と飲みたくて。昔は、金髪で、ピアスして、足場組んでたヤツがネクタイして書類作り。出世しやがって」
「でも、田端ちゃんは嬉しいんだよね」 「はい。秋田さんには感謝してます」
「じゃ、今夜6時に「みち潮」で。待ってるから」
「はい」
喫茶店でかき氷食べて、別れた。
帰社した。
「あ、秋田さん。これで、書類どうですかね?」
と、西は報告書をオレに見せた。
「うんうん、上手く出来てる。この書類つくるのに何時間掛かった?」
「4時間です」
「これからは、その半分の時間で作れるようになれよ。営業三課は、現場と事務所の往復だ。短い時間で動かなくてはいけない。今は、君は担当が1カ所だが、おれは、5カ所担当している。頑張れよ」
「はいっ」
「あ、西!」
「何ですか?」
「今夜、6時から田端工務店とコレだ。来るか?」
と、オレは飲む仕草をした。
「是非」
「じゃ、定時に上がろう。オレは今から、もう1件回ってくるから、来週の予定表を見て報告書をもう一度チェックしてから、坪井にハンコ貰えよ」
「分かりました」
オレは、リエに声を掛けて取引先の現場に向かった。
リエが運転手だ。
「どうだ、この1カ月間、飲む練習は」
「……えっ、あっ、何とか昔の悪いクセを直しました。そして、自分の限度が分かりました」
「今夜、また、田端工務店と飲むが来るか?」
「良いんですか?」
「君が、判断しろ」
「行かせて下さい」
「自信はあるな?」
「はい」
17時半。歩いて「みち潮」に向かった。1台のハイエースが駐車場に止まる。中から、作業着姿の若い男共が降りてきた。
仕事終わりのようだ。
皆んな、車から降りると、安全靴からスニーカーに履き替えていた。
どう見ても、チンピラにしか見えない男共だが、最後に田端ちゃんが出てきた。
「こんばんは。朝はありがとうございました。おいっ、お前らこの方が林建設の秋田さんだ。挨拶しろ」
「今夜は、宜しくお願い致します」
「君たちは、初顔が多いね。最近、入社したの?」
若者達は黙っていた。
「秋田さん、コイツら、全員、新入りです。秋田さんの顔を覚えてもらいたくて。……よっ、西!頑張ってるか?」
「はい」
「あっ、この前のリエちゃん。今夜も可愛いね」
「ありがとうございます」
「さっ、予約していたから、大広間を準備したよ」
20代の若い衆は、こんな店で飲んだ事は無かったので、緊張していた。
「田端ちゃん。今日は車だけど、誰が運転手?」
「秋田さん、代行です。帰りは」
「あ、それが良いねぇ」
田端は若い衆には、有無を言わせず生ビールを注文した。
オレは黒ビール。
西もリエも生ビールだった。
乾杯した。
秋だから、旬の戻りガツオの刺し身が出てきた。
若い衆は、腹が減ってるのか、刺し身をがっついた。
田端ちゃんは、
「お前ら、ここは定食屋じゃねえんだからがっつくなよ」
と、たしなめていたが、オレは面白かった。
キノコの天ぷらが出てきた。店の好意で山盛りにしてくれた。
田端ちゃんと西はずっと話していた。
オレとリエは、若い衆の間に座り、話しをした。
芋焼酎のお湯割りは、ユタカと言う舌にピアスをしている若者が作った。20歳らしい。
「社長と秋田さんは長いんですか?」
「そうだね。20年くらい一緒だよ。その頃、田端ちゃんは18歳でね。焼酎のお湯割りを作るのは君みたいに、田端ちゃんの仕事だったんだ」
「へぇ〜、社長の印象は?」
「良かったよ。一緒にね、飲む前に銭湯行ったらびっくりしちゃった。入れ墨でね」
「秋田さんは、入れ墨は?」
「入れてないよ!君達は?」
「僕は腕に」
「あ、だからアームカバーをしてるのか?」
「はい」
「今は、タトゥーもファッションだしね。この前、トラックの運ちゃんとタバコ吸っていたら、小指無かったよ。そう言うもんさ」
「秋田さんは、良く僕らにジュース持って来てくれるので、最初はジュースオジサンと言ってましたが、社長が僕の胸ぐら掴んで、秋田さんを誰だと思ってんだ!って、叱られましたよ」
「まぁ、この体型だしね。君達はカッコいいからモテるでしょ!」
そこに、中山と言うまた、ピアスだらけの男が、
「ユタカは今同棲中ですが、オレら全員結婚してます」
「へぇ〜、若いのに。リエ、君も田端工務店で働けば?」
「私、林建設で十分です」
リエが大人しい。ペースを考えているのが分かる。
若い衆には、うな重を食べさせた。
若い衆は、酒より食いもんだ。
やはり、肉体労働者だ。キノコの天ぷらの山盛りも無くなり、うな重も瞬殺だった。
それから、ダラダラと飲んだ。
お店に伝えて、ハイエースを停めたまま、別の店へ移動した。
とりあえず、ここの支払いは5万円だった。
領収書をもらった。
オレはチェーン店には絶対に行かない。
いつもガラガラの、居酒屋ナナへ向かった。
10人で貸し切り状態。
ナナは、若い夫婦が切り盛りする九州料理屋だ。
モツ鍋を10人前注文した。
博多と言えばモツ鍋だ。
だが、いつも客が少ない。
昼間は弁当を出している。明太子弁当。それが、人気で店は維持できている。
若い衆にモツ鍋を食べさせて、オレら田端ちゃんと林建設組は明太子で焼酎を飲んだ。
オレは、若い衆が美味しそうに食べる姿を見ると嬉しくなる。
リエは相当飲んだが、脱ぐ様子はなかった。
辛子明太子おにぎりでシメた。
21時で解散した。
ハイエースは代行で工務店の駐車場まで運んだ。
そして、田端ちゃんと林建設組は、3軒目に向かった。
オールドクロックでウイスキーをロックでのんだ。ツマミは生チョコレート。
ウイスキーにチョコレートは合う。
田端ちゃんは次の現場の仕事の話しをした。
また、田端工務店にも依頼しようと考えていた。
街外れに高層マンションの仕事を林建設は取ってきた。
その、足場は田端工務店と決めていた。
リエはしっかりとした表情だった。
西はトイレでリバースして、チェイサーを飲んでいる。
居酒屋ナナとオールドクロックは、田端ちゃんの奢りだった。
楽しく会話して解散した。
帰りのタクシーの中で、オレとリエはしゃべった。
西は泥酔していたので、別のタクシーに住所とお金を払い、帰らせた。
「宮里君。合格。これなら、来月の社長同席の懇親会に連れていける。社長はオレと……社長はオレらみたいな社員にも優しいから。飲んだ事は無いけど。ウワサで」
「ありがとうございます。最後のウイスキーが効きました」
「アハハハ。そうか。良く耐えたな。飲めないなら、他の飲めば良かったのに。オレはアルハラなんてしないから」
「存在自体が、アルハラですからね。秋田さんは」
「そうか、そうか。……ん?……まっいっか」
タクシーはリエの自宅前に停まった。
「今夜はありがと、、、ゴフッゴフッ」
リエは、外でリバースした。
心配いりませんと言ったのでタクシーで帰宅した。
エアコンと扇風機を回して、ソファーに座った。
いつの間に寝てしまった。明日は、久し振り映画でも観るか!と、考えながら。
オレに彼女は出来るのだろうか?
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