第20話やっちゃったぁ〜
急きょ、テーブルを2つ合わせて、8人席にして飲み始めた。
オレと田端ちゃんは、芋焼酎のお湯割り。お湯割りを作るのは、21の武田と言う若い金髪で耳と唇にピアスをしている男の子だった。
オレも田端ちゃんも、5対5の割合なので作るのは楽だ。
田端ちゃんと芋焼酎を飲みながら、マグロユッケを食べていると、ちやほやされるのが久し振りの平林と、若いリエは工務店の若い衆とワイワイ飲んでいた。
「かぁ〜、若いって憎いね」
「どうして?秋田さん」
「だって、若いってだけでモテるじゃない。それに前も言ったけど、なんで鳶職人や建築関係者の男ってカッコいいの?田端ちゃんは38でしょ?カッコいいもん。オレが38の頃は既にこんな醜態だよ」
と、オレは腹のぜい肉を掴んだ。
「秋田さん、男は顔じゃないですよ!秋田さんは人から好かれるじゃ無いですか?オレも秋田さん好きですよ」
と、田端はマグロユッケに乗るウズラの卵の黄身を絡めて口に運ぶ。
「そんな、真顔で好きデスって……。もう、45よ45。フォーティーファイブよ!終わってるね」
「だから、大丈夫だって」
「君!そのピアスで金髪の君!」
「お、オレっすか?」
「武田、誰だと思ってんだ。うちの仕事は秋田さんがいなかったらとっくに廃業なんだぞ!タメ語使うな」
「すいません。秋田さん何ですか?」
「オレって、醜い豚かな?」
「……」
「その間は、イエスだね」
「だ、大丈夫ですよ」
「分かった分かった。お友達と喋りなさい」
武田は、同僚の話しに加わり話し始めた。
オレは田端ちゃんと話しに夢中で、リエの事を忘れていた。
オオ〜、スッゲー
何だ何だ?げ!リエ、おっぱい見せてる。
しまった〜!キャツは、酔うと脱ぎ魔になる事を忘れていた。
若い衆はおっぱいをガン見していた。隣の平林が直ぐに服を着させた。
「ゴメンね、あの子、脱ぎ魔まんだ」
「うちの事務員の女の子は、キス魔ですよ」
「はぁ〜、参ったな。こりゃ、来週開け、説教だな」
「別に良いじゃない」
「あの子、これからだよ。人生が。脱ぎ魔と知れたら、馬鹿な男が引っかかるからねぇ」
と、オレはアツアツのアジフライに手を付けた。ソースが好み。ウスターソースが。
「田端ちゃん、この後、バーでも」
「良いっすよ。こんなカッコでも良いですか?」
と、田端ちゃんは、下は作業業、上はTシャツだった。
白いTシャツだったので、背中の彫り物が浮いていた。
それには、オレは慣れている。タトゥーの入ってる作業員は何人でもいる。
しかも、ミキリなので胸の当たりもうっすらと。
聞けば、この若い衆もタトゥーが入っているようで、アームカバーをしていた。
田端ちゃんは、ちゃんとした入れ墨だが、若い衆はファッション感覚らしい。
21時半に飲み会は終了した。今夜は田端ちゃんにゴチになった。
「リエちゃん、タクシー呼んだから帰りなさい。お金は払っているから」
と、言うと、
「イエッサー」
と、敬礼してタクシーに乗った。若い衆に、田端ちゃんは2万円渡した。彼らは、カラオケに行くらしい。
「平林、良かったらバーに行かない?」
「あら、良いの?」
「田端ちゃんも行くよ」
「でも、今夜は男同士で楽しみなよ。私は明日も飲み会だから、帰る。誘ってくれてありがとう。おやすみなさい。田端さん」
「はい。おやすみなさい。お疲れ様でした」
2人で夜道を歩いた。今夜は熱帯夜。早く店に入りたかった。
15分歩いて、「オールドクロック」にたどり着く。
オレと田端ちゃんは先ずは口直しに、レッドアイで乾杯した。
すると、カウンター席の端っこで、涙を流しながら、水割りを飲んでいる女性がいた。
オレらは気なってしょうがない。
オレは女性に声を掛けた。
「今夜はどうかされましたか?」
「……」
「怪しい者ではありません」
と、名刺を置いた。田端ちゃんも名刺を置いた。
女性は少しは安心したのか、オレと田端ちゃんの間に女性を座らせて話しを聴いた。
良くある失恋話しだと思った。
「か、彼氏が末期のガンになっちゃって」
「……」
「……」
「これから、どうしようと悩んでいて、余命3カ月って言われたらしいんです」
「何ガン?」
と、オレは尋ねた。
「食道ガンです」
「……」
「……」
「私は広田優子と言います。お知恵を拝借出来ませんでしょうか?」
「どういう事だい?」
と、田端ちゃん。
「このまま、別れるか、最期まで一緒か?」
「難しいね」
「あのぅ、うちの親戚に食道ガンで食道を全摘出してから、まだ何年も生きている人もいるよ!」
と、オレが言うと、
「本当ですか?ありがとうございます」
「だから、別れるのは辞めて最期まで」
「そうそう、まだ、治るかもしれないし」
「勇気が湧きました。ありがとうございます。じゃ、私はこれで」
と、言って支払いに行こうとしたら、会計はオレがするからと、言った。
広田は何度もお礼を言って店をでた。水割り1杯しか飲んで無かった。
オレは思った。好きな人が出来ても、病気や事故したら考える事も多くなるだろうと。
その晩は、田端ちゃんと深夜まで飲んだ。支払いはオレが持った。
リエは恋愛対象外にした。
新しい出会いはすぐ近くに現れた。
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