第18話西慎也のキス指南

オレは会社に着くと、決まって缶コーヒーを持って喫煙室でタバコを吸いに行く。

扉を開くと、西がエナジードリンクを持って電子タバコを吸っていた。


「よっ!」

「おはようございます。先日はありがとうございました」

「……何のこと?」

「お寿司屋さんで」

「あ〜、あれね。いやいや、今日は暑いね。午前中、例の病院改築の現場に行くから運転してね」

「はい」

「それと……」

「何ですか?」

「車の中で話すわ」


2人は朝の朝礼で、谷課長が大演説していたが、オレは興味が無かった。

「分かったね?秋田君」

「……え、オレ?課長なによ」

「だ〜か〜ら〜、勤務中の飲酒は懲罰委員会にかけると言っている」

「懲罰……、大丈夫です。オレは酒は苦手なので……」

「お前の名前をちらほらと聴くぞ?」

「オレに似た誰かでしょ?忙しいんだ、もう行かなくちゃ!西、運転」

「はい」

「ちょっと待て!秋田君」

「うるせぇ」


社用車で現場に向かった。

「西、君は奥さんがいるよね?」

「はい」

「何時でも良いからさ、キスの仕方を教えてくれよ」

「え?秋田さんとキス?」

「違う違う、女とどうやったらカッコいいキスが出来るのか?練習したいんだ」

「分かりました」 


現場に到着して、鈴木監督と確認してから田端を探した。

「あっ、おはようございます。秋田さん。よっ、西!」

「うんうん、おはよう。これ、皆んなで飲んで」

と、秋田はコンビニで買った冷たい缶コーヒーを渡した。

「ありがとう御座います」

「どう?順調?」

「最近、雨が多くて少し遅れ気味です」

「また、飲もうね」

「はい」


その後、3件ほど回って、西とラーメン食ってから帰社した。

少し、報告書を作成してからトイレに向かった。

手洗い場の鏡で確認してから、西からキス指南を受けた。

「先ずは、腰に手を回して、そっと抱き寄せます」

「こ、こう?」

「もっと、優しく。そっと」

「これで良い?」

「そうです。そして、そっと唇を」


「お前ら、何してんだ?」

と、谷課長が現れた。

「秋田さん、秋田さん大丈夫ですか?秋田さんが体調不良でして」

「……だ、大丈夫か?秋田君」

「ちょっと、目眩が……」


谷課長を上手く誤魔化した。

オレは西にお礼を言って、1人で居酒屋に向かった。

「オイッスー!もいっちょ。オイッスー」

小料理屋早水で、ビールを注文した。

オススメにスズキの洗いがあった。それを注文した。

常連とワイワイ話していると、LINEの通知音が鳴る。

リエからだった。

「週末、久し振りにお食事しませんか?」

と。

「良いよ」

と、返信した。

キスの練習をした。週末はキスしてみたいと思っていたのだが、帰宅してシャワー上がり、洗面所で自分の身体を確認すると、見苦しい中年太り。

こんなヤツがキスしてはいけないと思い直した。

そうして、週末を迎えた。平林にも声を掛けていた。

3人で待ち合わせすると、当てもなく歩き始めた。

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