第17話リエの誘惑

月曜日、一緒に出勤した。

オレ達の関係はバレていない。上手く誤魔化した。

オレは外回りで直帰。リエは定時まで資料作成。

合鍵は渡していない。

オレは先に帰宅して、料理を作っていた。ブリ大根。

これはオレの得意料理だ。

コトコト煮て、リエの帰りを待った。

インターホンが鳴る。

扉を開けるとリエが立っていた。

先にシャワーを浴びさせた。その間に、夕飯の支度をした。

風呂あがりのリエは、短パンにキャミソールだった。

巨乳を誇張しているようだった。

オレは、

「ねぇねぇ、リエちゃん。お母さんホルスタイン?」

「アハハハ。秋田さん、おっぱい好きなんだ〜」

「違う!お前が誇張するからだ」

「生のおっぱい見たいですか?」

「さぁ〜、食べよう」


「うわぁ〜、これ、おばあちゃんの得意料理だったの。美味しそう」

オレは麦茶を飲みながら、リエの感想を待った。

「どう?」

「めちゃくちゃ美味しいです。そして、このシジミ汁も美味しいです。やっぱり味噌は白味噌ですよ」

「オレはこの地方の赤だしが苦手でね」

「わかるぅ〜」

「リエちゃん、一応オレは君の先輩なんだが、何故タメ語なんだ!」

「良いじゃないですか!同棲してるんですよ」

オレはおかずだけ食べて、風呂場に向かった。リエはブリ大根に夢中だった。


15分後、シャワーを浴びてバスタオルで頭を拭きながら出て来たら、リエは後片付けを終わらせていた。

「出来る女だね?」

「そうですかぁ〜。私意外に家事得意なんです」

「そうか。オレは今から執筆するから、君は好きな事しなさい」

「執筆って?……」

「実はペンクラブの会員なんだ」

「秋田さんの小説読みたいな」

「いやいや」

「読ませてよ〜」

オレは、3年前に書いた「君は、瞬きをする」

を読ませた。

リエはソファーに腰掛けてページを捲っていた。


オレは新作のミステリーを描き始めた。

2時間ほど書いた。

リビングで目頭をリエは押さえていた。

「秋田さん、この小説エロいけど悲しい物語ですね」

「殆ど飲み小説だけどな」

「感動しました。握手して下さい」

「……あ、ありがとう」 


夜はベッドにリエを寝かせ、オレはソファーの上で寝た。

決して、肉体関係を持ってはいけない。

そうこうしていると、あっという間に1週間が過ぎた。

金曜日の夜、リエはマンションを出た。

寂しい週末だった。

飲み会の予定もない。

この1週間で酒は呑んでいない。また、リエが酔っ払って脱ぎ魔になる事を恐ていた。


月曜日、平林は沈んでいた。

余りに酷い様子だったので、飲みに誘った。

小料理屋早水で平林の話しを聴いた。

「秋田君、タツ君と別れちゃった」

「……だろうな」

「どういう意味?」

「大学生が、45のババアと上手くいく訳ないじゃん。オレたち、独身の会は永遠だ」

「まぁ、予測はしていたけど。独身の会員だからね。先週、ずっとリエちゃんと同伴出勤だったけど偶然?」

「……も、もちろんだよ」

「秋田君、身体の割りにはモテるからね。そして、短小包茎なのに!」

「バカバカ、それ言うな!でも、でけぇ彼氏と別れたじゃねぇか!」

「秋田君。ありがとう。慰めてくれて。……あ、良いこと思い出した」

「何を?」

「この前、秋田君が外回りしていたとき、リエちゃんが秋田さんの気持ちを引くにはどうしたら良いですか?と、言われたわよ。付き合っちゃえば?」

「馬鹿!俺は女はごめんだ。だって、45の中年太りのオレが社内恋愛ってあり得ない。それは、願い下げだぜ」

「ねぇ、もう一軒行かない?」

「良いよ。居酒屋千代にしよう」

「ここは私が払うわ」

「いいよいいよ、オレが誘ったんだから」

と、1万円支払い、千代で散々飲んだ。

そして、火曜日の朝、2人は普通に出勤した。

コイツらに二日酔いの概念は無いのだ。

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