第15話デート

朝9時、オレはムクリと起き上がった。

カーテンを開いた。既にセミの大合唱。

テレビをつけると、37℃予想。

デートには、過酷な日だ。

金曜日は、勤務を終えると真っすぐ帰宅して、手料理の鶏肉の味噌炒めで飯を食べて直ぐに寝た。

今日のデートは涼しい場所にしたい。

ならば、栄の地下街でカフェ巡りか?

そう、毎回、酒を飲ませるのは周りに悪い。

でも、コーヒー飲むくらいなら、ビールが飲みたいなぁと、オレは思うのだが、周りの動きに合わせようと思った。

11時。

4人の待ち合わせ場所は、サンシャイン栄のパチンコ屋前の広場だった。

地下1階の8番出口にオレは向かった。

すると、宮里が待っていた。

「あっ、秋田さん」

「よっ!」

「暑いですね」

「今日は猛暑日だから、外に出たく無かったんだよ。平林はどこに連れて行くのかな」

と、話していると、平林と彼氏の戸川達也が現れた。

オレはコイツが意外に好きなんだな。好青年って感じだ。しかし、女を選ぶセンスは悪い。平林を彼女にしているからだ。その反面、宮里がオレを彼氏にしたら平林らは、宮里のセンス悪さを指摘するだろう。


「初めまして、宮里です」

と、戸川に挨拶した。戸川は、

「こちらこそ、宜しくお願い致します」

と、返事した。好青年だ。

4人はどこに行くか迷った。とりあえず、地下街を歩いてみた。やはり、地下街は涼しい。

途中、喫煙室でオレはタバコを吸った。タツ君も電子タバコを吸う。

平林と宮里は笑いながら話していた。

「ねぇ、タツ君、平林のどこが良いの?」

「温かさと、大人の魅力ですね」

「君は医学部らしいが、絶対に美容整形の医師にはなれないね」

「何故です」

「ババアの平林を選んだ時点で」

「アハハハ」

と、戸川は笑った。


「ねぇねぇ、秋田君。いい匂いがしない?」

「ん?……土手煮の匂いだな。そこの、酒津屋の匂いだ」

「皆さん、酒津屋に入りましょう」

オレの好みの選択を平林はした。

生ビールで乾杯した。でも、ビール飲んだ後の外は、汗が止まらないだろう。ええいままよ、地下街で呑みまくって、タクシーで帰ろう。


「皆んな、ここのね、マグロの刺し身と唐揚げは最高だよ。土手煮も美味いのだが」

「じゃ、秋田さん、私、唐揚げ食べたい」

「ぼ、僕も良いですか?」

「任せなさい。秋田君は、今日は20万円くらい財布に入れているから」

と、平林は笑った。実際、オレはカードは嫌いなので、外出時、特に飲むであろう日は20万円財布に入れている。

「平林さんと、秋田さんは同期なんですよね?」

「そうよ」

「秋田さんが、新入社員の頃はどうでしたか?」

「そりゃ、カッコよかったわよ。今は中年太りだけど。スラッとしていてね、関西のK大学卒って聴いてびっくりして、あまり話せ無かったんだけど、同期だからって、私を飲みに誘ってくれたの。それから、仲良しになったのよ」

「昔の秋田さん見たいな」

平林はスマホをいじり、

「これ見て!」

「うわっ、イケメン!髪の毛長い〜」

「ババア、そんなもん見せるなよ!」

「うるさいわねぇ」

と、ワイワイやってると、河岸を変える事にした。

昼過ぎだったので、回転寿司屋の混雑は無かった。

4人で日本酒を飲み始めた。宮里の酒が強い事に戸川が驚いていた。

実際、戸川はほとんど日本酒を飲んでいない。注ぎ係。

そこに、若い家族連れがいた。

まだ、幼い子供達に、ジュースを飲ませたりしながら、寿司を食べていた。

よく見ると、西慎也だった。


「あっ、秋田さん」

オレは家族に近づいた。

「君は、家族サービスかい?」

「はい、紹介します。妻のエリカです」

「初めまして、秋田さん。いつも、夫がお世話になっています」

「いやいや、お世話になってるのはオレの方だよ。家族サービスの邪魔だから、僕はもう行くね?」

「いえいえそんな」

「良いって、そんな気ぃ遣わなくても」

と、オレは席に戻り日本酒を呷る。直ぐに戸川が注ぐ。


だいぶ飲んだ。

時間はまだ、2時半。

銀座ライオンに向かった。原点回帰。また、ビールだ。ソーセージでビールだ。


その頃、回転寿司屋で西はお会計していた。

「いくら?」

「もう既に、お客様のお支払いはお済みです」

「えっ?」

「4人の団体さんでいらして、サングラスの体格の良いお客様からお代は頂戴しております」

西夫婦は顔を見合わせ、

「あの人らしいね」

「うん、ホントに良い先輩持ったね。シンヤ」

「あぁ。オレも秋田さんみたいな大人になりてぇ」

「今夜は、私が運転するから、呑んでも良いわよ」

「え?じゃぁ、ちょっとハイボールが飲みたいから、串カツ太閤まで運転してくれ。その後は歩いて帰るから」

「お土産の串カツ10本お願いね」

「うん」


ビールを飲みながら、腕時計を見た。17時。疲れた。半日飲んでいた。その場でお開きになり、ひとカップルずつ別れた。

帰り、タクシーに乗った。宮里を乗せて。

「毎回、飲みになるんですね」

「あぁ〜、そうだよ」

「今から、秋田さんち行ってもいいですか?」

「……べ、別に良いよ」

「お酒買いましょうか?」

「いや、もう家にたくさんある。好きなの飲みなさい。わしゃ、麦茶で充分」

「カルアミルク飲みたいな」

「じゃ、コンビニで牛乳だけ買わなくちゃ」


その晩、宮里は秋田の家に行く。

何か起きそうだった。

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