第14話秘密
オレと西が「なだ千」の前に立っていると、林社長がハイヤーから降りてきた。
西は顔がこわばっていた。
「よっ、秋田君。相変わらず、腹が出てるね。ビール腹かな?」
「アハハハ、そうです。社長、紹介します。先月入社して、オレのアシスタントの西君です」
と、話しを振ると
「に、西慎也と申します。よ、宜しくお願い致します」
「ほう、若いね。いくつだい?」
「25歳です」
「そうか、秋田君と私は同郷でね、会社の連中に秘密で飲んでんだ。君も、私と飲んだ事は秘密だよ?分かった?」
「はいっ!」
料亭「なだ千」は、林社長お気に入りの店で、個室に案内されて、上座に林社長はドカッと座った。
オレは胡座をかいていたが、西は正座していた。
そこに、女将がやって来た。
「林社長、今日はありがとうございます。毎度ご
「良いから、酒、酒」
と、オレは女将を急かした。
ヒラメの塩昆布ゆず釜仕立てで、芋焼酎を飲み始めた。
林社長は、芋焼酎をお湯割りで飲むのが通例だ。それにならい、オレと西もお湯割りを飲み始めた。西は、芋焼酎が初めてで苦手らしく杯が進まない。
それを、無理やり飲ます社長ではない。
「君、名前は何と言ったかね?」
「西です。西慎也と申します」
「西君、遠慮なく好きなモノを飲みなさい」
「はいっ」
西はハイボールを注文しようとしたが、この料亭にハイボールなどない。
ウイスキーのロックを注文した。
「いや〜ね、最近どうだい現場は」
「はい。もうてんやわんやですよ。谷課長なんて、この前キャバ嬢と同伴しておきながら、この西には説教するんです」
と、オレは何も遠慮なく話した。
「谷君は、昔から女には弱く、男には強がるからね」
「西君とやら、仕事は楽しいかい?」
西は少し顔を赤くして、
「秋田さんの下で働いていると、色んな勉強になります。会社は建てるだけが仕事ではなく、人との繋がりも大事だと学びました」
「そうか、それなら良かったな」
社長はお湯割りを飲み干して、空いたグラスを西に渡し、お湯割りを作らす。
社長はお湯が6、焼酎が4の割合だ。秋田は、5と5。
九州では1番下っ端が、お湯割りを作るのが相場は決まっていた。
そして、個人個人の割合を覚えなくてはいけない。
鯛の塩釜焼きが運ばれてきた。
料理人が1人ずつサーブする。
社長は、
「うん。美味い!やはり、この昆布の出汁が効いて美味しいな」
と、料理人に言うと、
「ありがとうございます」
と、答えた。
西は一口運ぶと、目を開く。こんな料理なんて食べたことが無かった。
「ねぇねぇ、社長、今度の県人会に西君も連れて行って良いかなぁ?」
「もちろん、良いとも。でも、芋焼酎が苦手なら、キツいかも知れんなぁ」
「社長、ハイボールがあったよ。この前の県人会では」
「そうか、それなら西君、君も鹿児島県人会に出席するかい?」
「はい。宜しくお願い致します」
「覚悟しろよ!西。相当飲まされるぞ!」
「おいおい、秋田君。今はそう言うのアルハラと言うんだよ」
「知ってますとも。西は私の後継者になって欲しいのです。こうして、社長とご一緒出来るのも、酒が飲めたからですし」
「まぁ、酒だけが理由にはならんが、西君とやら、秋田君、面白いでしょ?コレでも彼は、K大学出身なんだよ!」
「K大学?めちゃくちゃ頭良いですね。西のK大学、東のT大学って言われてるのは存じております」
3人でとことん飲んだ。一緒に店を出た。
林社長は待たせていたハイヤーで帰って行った。
「西、どうだった?」
「秋田さん、夢の様な夜でした。まさか、秋田さんが社長と飲み仲間なんて……」
「絶対、誰にも喋るなよ!バレたら、オレたちクビだからな」
「はいっ!」
オレは腕時計を見た。
20時過ぎ。
西を帰らせた。西はお礼を言って帰って行った。千鳥足だったのでタクシーを捕まえるのを見ていた。
オレはまだ飲み足りない。
小料理屋早水に向かった。
「オイッスー」
とオレが店内に入ると、
「オイッスー」
と、返ってきた。
「あら、秋田さん。……うわっ、飲んで来たでしょ?」
「まぁね?」
「秋田さん、今夜はどこの店で?」
と、常連の細江が尋ねた。
「ガード下の安居酒屋」
「金持ってるんだから、もっと良い店で飲みなさいよ」
オレはおくびにも、「なだ千」で飲んだとは言えない。
「うるせぇ、コレはオレの流儀なんだ」
オレはしめに、うな重を食べた。土用の丑の日だったので、女将が準備していたのだ。
最後は緑茶を飲んで帰宅した。
着いたのは22時だった。
シャワーを浴び、麦茶を飲んでいると、平林からLINEが届いていた。
来週の週末、平林と平林の彼氏、オレと宮里で遊ばないか?だった。
オレは暫く考えて、OKと送った。
もちろん、宮里の了解を取り付けてから。
ダブルデートと言うやつか。
さて、何をして良いのかトンと分からなかったので、全ては平林に任せた。
そして、23時、就寝した。
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