第13話新人の仕事

会社に到着した、オレは西慎也を隣の席に頼んでいたので、真新しいデスクが右隣りに設置してあった。

左隣りは、裏切り者の平林だ。


西は、髪の毛は黒にして、ピアスを取ると普通のフレッシュなサラリーマンに見えた。


朝、谷課長の朝礼が始まる。

「おはようございます。今日は、新人の西慎也君を紹介します。人事課の丸山課長の審査を経て我が営業三課で勤務する事になりました。西君、自己紹介を」

西は緊張して、

「おはようございます。これから、営業三課でお世話になります、西慎也です。宜しくお願い致します」

と、一礼した。

「そして、西君のお目付け役は秋田君だ。秋田く、宜しく……秋田君!」

「秋田さんは、今トイレです」

「何やってんだ、お目付け役が」

その時、オレは現れた。

「秋田君!」

「何だよ」

「何だよとは何だ?課長だぞ!もっと緊張感を持て」

「腹下して」

「そう言う事を言ってるんじゃない。今日は、西君を連れて担当部署の挨拶周りをしてくれ。既に、西君の名刺は用意してある」

「はぁ〜い」

「何だ?そのヤル気のない返事は」

「この前の、丸八寿司は美味しかったなぁ〜」

「……が、頑張ってくれ」

谷課長は、先週、丸八寿司で同伴出勤をするキャバ嬢と飲んでいるのを、オレが知っているから、何も言えないのである。


午前中は、総務課、人事課、作業課の挨拶周りをして、午後はオレが担当する工事現場の挨拶周りをした。

最後は、病院建設の現場だった。夕方16時半。

鈴木監督に挨拶して、次は鳶職の田端ちゃんに挨拶した。

「慎也、良かったな!本当に良かったな。お前、頑張ってたもんな。ほ、本当に嬉しいよ」

田端ちゃんは涙をこぼした。オレも貰い泣きした。

西は、田端に頭を下げ名刺を渡した。

「林建設・営業三課・西慎也」

と、ある。田端ちゃんは丁寧に自分の名刺入れに収めた。

「田端ちゃん、この後どう?一杯」

「それは、僕も思ってました。今夜は一杯奢らせて下さい、秋田さん」

「良いよ、良いよ。こっちは経費で落とすから」

「イヤ、うちもここの仕事で相当儲けていますので、お礼を」

「西君、今夜どうだい?」

「是非」 


そこに、副監督の宮沢が現れた。

「何、喋ってんだ?お前ら。さっさと仕事しろよ?」

「あぁん?」

と、田端ちゃんは怒りの表情になる。オレも宮沢を睨みつけた。

その瞬間、西が宮沢の胸ぐらを掴んだ。

「テメェ〜、誰に口聞いてんだ?あぁん」

「お、お前、誰だ?」

「林建設の西だよ!秋田さんと田端さんに謝れ!」

「えっ?林建設の?」

「おめぇ、オレの顔も知らないでモノ喋ってたのか?」

「す、すみません」

「お前、確か下請けの山上建設の宮沢だよな?与論島の学校建設があるんだが、そこに飛ばされたいか?」

「い、いえ。ここで、頑張ります」

「西、手を離してやれ」


宮沢は足早に立ち去った。

西慎也はヤンキーだ。目つきが、違った。

その後、田端ちゃんと若い衆全員と西君、オレで広い部屋の取れる、鳥ひろと言う和食屋で飲んだ。

若い衆は下は16から上は40代の男らが集まった。

西のグラスに後輩や、先輩はビールを注ぎに来る。

西はにこやかだった。

それを横目にオレと田端ちゃんは静かに飲んだ。


「秋田さん、本当にありがとう。うちの若い衆は夢を持って働き始めています。頑張れば、西みたいになれると信じて」

「ま、異例中の異例だからね。一人前になったら、1人で仕事を任そうと思っているよ。後、今25歳だろ?子供も小さい。営業は飲み屋が仕事場だから、彼の奥さんに迷惑が掛からなければ良いのだが……」


食事会は2時間で済み、オレと田端ちゃんと西でバーで飲んだ。

「西、頑張れるか?」

「はい。楽しいです」

「でも、いつも頭を下げなきゃならん。我慢出来るか?」

「……子供のために頑張ります」

オレと田端ちゃんと2人して笑い、ジントニックを飲んだ。

「まさか、お前がスーツ着る仕事に就くとはな?秋田さんに感謝しろよ」

「それは、もちろんです」

「良いよ、良いよ。そんな、気を遣わなくても。オレは反面教師だから、真似すんなよ」

「秋田さん、反面教師って何ですか?」

「……オレみたいなは、なるな!」

「でも、秋田さんを目指しているんです」

「西、もっと現場をこなせ。そうすれば、秋田さんのような人間になる。オレの嫁さんもお前の事を喜んでいる。これから、家事育児は、嫁さんが協力するから、仕事に打ち込め」

「はい」

「良いこと言うね、田端ちゃんは」

 

22時まで飲んで解散した。

入社早々、22時まで残業だった。飲酒と言う。


良く朝、珍しくオレは腹を下さず出勤した。

すると、谷課長が西に怒鳴っていた。

「どうしたの?課長」

「君もだ!」

「はぁ?何の事」

「昨日、市大病院の建設現場で副監督の宮沢さんの胸ぐらを掴んだそうじゃないか?」

「だから?」

「現場とは、もっと真摯に付き合えよな」

「うるせぇ、あっちがケンカ売って来たんだよ!」

「お前らのサボりを注意しただけだろ?」

「はいはい、そうですかい。じゃあ、副監督を代えるまでだな。西、現場に行くぞ!」

「待て待て、だから、真摯に……」


ドカッ!


オレは谷課長のデスクを蹴った。

「おいっ、どこへ行く?」

「現場だよ!」

「だから、大人の対応を……」

「西、運転しろ」

「はいっ」

西も、谷課長を睨んでいた。


現場に到着した。

「おはよう、鈴木監督。宮沢はどこかな?」

「おはようございます。秋田さん。うちの宮沢がどうしましたか?」

「アイツね、昨日、オレらに絡んで来て、本社に苦情の電話をしたんだ。事によっては、工事の業者の今後の選定に不利になるからね。宮沢副監督をこのまま、ここの現場で働かすのはいかがなものかと思ってね」

「うちの宮沢が。バカが。で、僕はどうしたら良いでしょうか?」

「このまま、ここの副監督をしていてはこの秋田の顔がね。処分してよ」

「ま、待って下さい」


鈴木監督は宮沢を呼んだ。

「お前、林建設に電話したのか?」

「はい」

「バカかお前は!僕は君を見損なった。配置換えだな」

「ち、ちょっと」

「何だ、その口の聞き方は」

「無礼を働いたのはそこの、ヤンキーですよ」

西は目つきが変わる。

「鈴木監督、宮沢君は与論島がお似合いだね」

「ま、待って下さい」


宮沢は土下座した。

「すいません。余りにも悔しかったので。許して下さい」

それを見た、オレは処分を鈴木監督に任せて、西と本社に戻り、パソコンの使い方を教えて、報告書を作成した。

ほとんど、平林が教えていたが。


今夜は真っすぐ帰宅した。

はっきり言って、そう毎日飲んでいる訳ではない。

オレはシャワーを浴び、コンビニ弁当を食べて、就寝した。


西は今月、初給料をもらった。

30万円とちょっとだった。

鳶職時代とは福利厚生が違っていた。財形貯蓄もしていた。

ボーナスは夏のボーナスには間に合わないが、冬は相当もらえるだろう。


それから、オレは営業のノウハウを西に伝授した。


オレは部屋で、小説を読んでいるとスマホが鳴る。

画面には、「林社長」と、表示されていた。

電話に出ると、林社長はお忍びで飲まないか?と連絡をして来た。

久し振りの社長との飲み会なので、OKの返事をした。西も紹介したい。


週末、料亭「なだ千」にオレと西はタクシーで向かい、林社長を待った。

5分後、林社長はハイヤーで現れた。

「やぁ、秋田君」

「お久しぶり、社長」

西は緊張していた。

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