第12話セミの鳴く季節に
朝の5時から、外でセミが鳴いている。
余計、暑くなる。
今日は土曜日。宮里とデートの日だ。
デートと言っても、昼間っから酒を飲むのだ。
テーマパークに興味は無いし、スイーツ女子では無い。
オレは、連れて行く店を吟味した。昼からなら、佐野家、三嶋屋、鶏のちから、ヤブ屋、酒津屋、とあるがどこにしようか?
迷う。
その時は、彼女からの提案を聞いても良い。
もう、中華は飽きた。
どこかないか?
部屋掃除、洗濯干しが終わるとシャワーを浴びた。
オレは45歳だが、髪の毛はまだふさふさだ。
ただ、見苦しく腹が出ているのが問題だ。
9時過ぎ。
麦茶を飲みながら、宮里にLINEを送った。
「どこの店に行きたい?あ、おはよう」
ピコン
直ぐに返事が返ってきた。
「名古屋駅の「たんぽぽ」に行きませんか?」と。
「たんぽぽ」はお好み焼き屋だ。やはり、宮里はオレの好きそうな店ばかり紹介する。気が合う。
「いいよ。11時半に金の時計台の下で待ってます」
「了解しました」
オレはポロシャツを来て、サングラス姿で名古屋駅を目指した。
くっそー、あの平林に彼氏が出来た。親友として喜んであげるのが普通だが、悔しい。オレはただ、若い女の子と飲むだけ。まだ、恋愛感情は沸かない。
そう考えながら待っていると、宮里ともう一人女の子がついて行きた。
「こんにちは、秋田さん。今日はイカツイですね。サングラス似合っています。お友達を紹介します。西典子ちゃんです。高校の同級生で仲がいいんです」
「初めまして、秋田さん。西と申します。いつも、リエが秋田さんの話しばかりするので、会いたくなって。すいません、邪魔でしたか?」
「いやいや。嬉しいよ。飲み仲間が増えて」
「秋田さん、ノリちゃん相当飲みますよ!」
「こんな、スレンダーな女子が大酒飲みってのは、何人も知っているよ。さ、行こっか」
「はい」
「はい」
オレら3人で名古屋駅12階の、「たんぽぽ」に向かった。
店内に入ると、鉄板がはめ込んであるテーブル席に腰掛けた。
店内は涼しい。
オレは宮里らに適当に注文するように言った。
おしぼりで手を拭き、顔を拭き、首すじを拭き、ポロシャツのボタンを外して、胸元を拭いた。
「秋田さん、プロですね」
と、西典子が言った。
「ノリちゃん、どういう意味?」
と、リエちゃんが尋ねると、
「普通のオジサンは、顔は拭くけど首すじ、胸元を拭くのは有段者よ。ね、秋田さん」
オレは褒められているのか、けなされているのか分からなかった。
お好み焼きが焼けた。
生ビールを持ったオレとハイボールを持った2人で乾杯した。
リエは気を利かして、青のり掛けていいですか?
と、言ったがオレは嫌いだと答えると、オレ分を取り分けて、自分達の分だけ青のりを振った。
「週末に、こんなオッサンと酒飲んで楽しいかい?」
と、2人に尋ねると、
「すっごく楽しいです。秋田さんって、中年の星ですよね。うちの旦那からも聴いています」
た、ノリちゃんが言った。旦那?誰の?
「うちの旦那?結婚してるの?」
「はい。子供が2人います」
「何で、オレを知ってるの?」
「林建設営業三課の秋田さんが、飲みに連れて行ってくれたって、喜んでいました」
「誰だろ?」
「田端さんご存じですよね」
「あぁ〜、鉄筋屋の田端ちゃんね」
「その田端さんの会社の社員なんです。先月、秋田さんと田端さんとうちの旦那と友達が「みち潮」で食事をしましたよね?その中の1人がうちの旦那でした」
オレは納得して、生ビールを飲み干し4杯目を注文した。
「秋田さんって、ホントに気遣いの人ですよね。ねぇ、リエちゃん」
「私もそう思う」
「そんなこたぁ、ねえよ。現場には現場の苦労がある。だから、暑い日は喫茶店や、仕事終わりに酒を飲んで話しを聴くんだ。それが、オレの仕事」
と、オレは店員に空いたジョッキを片付けてもらい、女子はコーン茶割りを注文した。
「でさ、その旦那さん何か言ってた?林建設の愚痴とか。誰にも言わないから」
と、ノリちゃんを尋問する。
「えぇ〜、不満なんて無いですよ!林建設さんが仕事取らないと、私の旦那はいや、私達の生活が出来ません。それに、しょっちゅう、秋田さんは現場にいらっいますよね?時間が無い時は、冷たいジュースやかき氷持って。旦那が言ってました。オレも林建設で勤めたいって」
オレは、複雑だった。
現場に行くのは仕事のためでもあるが、暇つぶしでもある。
こんな不埒な人間が感謝されて良いのかと。
「君の旦那、歳いくつ?」
「25歳です」
「学歴は?」
「中学中退です」
「悪いね、ノリちゃん。今、林建設は大卒しか取らないんだ。……待てよ!あ、本気で転職したいなら、オレと一度会わせてよ。現場の事は現場にいる人間が1番知っている。オレが引っこ抜くから、問題ない。でも、田端ちゃんに悪くないかな?」
西は、
「林建設にお前がいたらなぁ〜、ってボヤいているみたいです」
「良し、決まりだ。明日の午後15時。今池の7番出口で待ってなさい」
「出た出た、秋田さんの得意技」
「何だい?リエちゃんその意味は」
「一心太助」
「……ありがとう」
オレらは、15時に解散した。直ぐに経緯を田端ちゃんに電話したら、田端ちゃんは是非と喜んでくれた。
日曜日、15時、今池の7番出口に行くと既に、西典子と旦那の姿があり、2人が気付くと、
「あ、秋田さん!」
と、ノリちゃんは手を振った。
旦那は、にこりとしていた。
「暑いから、この店入ろっか」
と、小料理屋早水に入店した。暖簾前だが、早水の女将さんとは、なあなあなので女将が個室に案内してくれた。その方が都合が良かった。
「改めて、ありがとうございます。旦那の慎也です」
「この前は、ご馳走様でした。秋田さん」
「君、林建設に入社したいらしいね」
「はい」
西慎也は、金髪で耳と唇にピアスをしていた。
「君、タトゥーは入って無いよね?」
「はい、入れてません」
「なら、条件がある。まず髪の毛は黒にして、ピアスはダメ。スーツは最低3着は揃えなさい。君の経歴は16歳から9年間田端さんのとこで働いていたんだよね?」
「はいそうです」
「うちの人事課の丸山って言う課長はね、同期なんだ。特例で君の入社を認めてもらえるように、昨日で電話しておいたから。でも、君はずっと、オレのアシスタントだよ!出来るか?」
「はい、頑張ります」
「運転免許は?」
「持ってます」
「PCは触れる?」
「全くダメです」
「……まぁ、慣れたら誰でも出来るさ。今夜は君の壮行会だ。じゃんじゃん飲んでくれ」
「あ、ありがとうございます。なんて言ったら良いのか、わ、分からなくて」
西慎也は涙目になっていた。まさか、自分がホワイトカラーの職業に就けることが出来るなんてと。
ノリちゃんも貰い泣きしていた。
何故がオレもハンカチで目頭を押さえていた。
2週間後の月曜日、会社最寄り駅の改札口に若々しいスーツ姿の1人の青年が立っていた。
「おはよう、西君。今日からだ。頑張れよ」
「はい」
「今日は挨拶周りだ。運転手は君だ。とりあえず営業三課で君の入社報告がある。会社では君の事が噂になっている。特例で入社した君に興味があるらしい。オレとの関係性はプライベートの事は絶対にしゃべらない事。分かった」
「はいっ」
オレと西は、会社に向かった。
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