第4話オッサンと若い子

「お待たせしました」

「うん」

オレは宮里に尋ねた。

「この辺り、飲み屋が多いけど、どこ行きたい?」

「秋田さんが、好きな店で」

「あのね、ここ辺りに寿司屋があってね、店が汚えの。だけど、汚え店ほど美味いネタがそろってるからね、それか中華?トイレのドアノブがぶっ壊れてて、出入りの効かねえような中華も美味いからね。そこのカメ出しの紹興酒が美味いのなんのって。オレ、オシャレな店嫌いだからね。でも、若い子を連れて行く店では無いな」

と、一通り話すと、宮里は、

「その中華料理食べましょうよ」

「お?そうかい?じゃ行ってみる?中華料理珍珍へ」

「変な店名ですね」

「……ま、付いて来なさい」


ガラガラガラ

ドアを開いた。

「あっ、秋田さん。こんばんは。今日は、かわいいお姉さん連れてきて、どうしたの?あっ!彼女さん?」

と、店員のおばさんが言う。

「クソババア、黙ってろ。後、いつものあれと、ツマミもいつもの二人前」

「はいはい」

「よっ、大将!元気?」

「秋田さん、先週も来たじゃない」

「そうだった」


オレと宮里はテーブル席に座った。

紹興酒が運ばれて来た。ツマミはピータンと餃子。

紹興酒をロックで飲むのが、秋田流だった。


「乾杯〜」


オレは紹興酒をグビグビ飲んだが、宮里もゴクゴクと飲んだ。

「うわぁ〜、美味しい。紹興酒って、ほんとは美味しいんですね?」

「うん、ここの紹興酒は25年モノ。中国じゃ。子供が産まれた時とかに、紹興酒を庭に埋めて、子供の結婚式とかで飲むらしいよ」

「へぇ〜、良く知ってますね」


「秋田さんは、失礼ですがご結婚されていますか?」

「いいや。して無いよ。だって、この体型だよ!好きになる女の子は馬鹿だよ」

「じゃ、彼女さんも」

「いないよ。じゃ、君は?」

「私、恋愛した事無いんです。人を好きになるって、素敵ですよね」

「なぁ〜に、そのうち出来るさ。好きなタイプは?K-POPアイドルとかでしょ?」

「いいえ、違いますよ。ま、この話しはもっとお酒が入ってから」

と、宮里はピータンを口に運び、紹興酒をがぶ飲みする。

若くてキレイなのに、酒の飲み方はプロだ!

この女の子ただ者では無い気がした。

「ここの餃子は美味しいよ!ニンニクたっぷりだし。あ、明日大丈夫?」

「何の事ですか?」

「ニンニク臭」

「明日は、お休みなので」

「なら、今夜はもっと飲めるね?」

「はい。この紹興酒飲みきったら、僕が良く行く小料理屋に行こう、タクシーで」

「はい」

宮里は楽しそうだった。他愛もない話しをした。


「大将、またね」

「お待ちしています」


タクシーで、小料理屋早水に向かった。

暖簾をくぐると、

「オイッスー」

と、オレが言うと、

「オイッスー」

と、常連客が挨拶する。

「女将さん、こんばんは」

「あら、秋田さん。今夜はかわいい子連れて。お嬢さん、拉致されたの?」

「そんな、不謹慎な事言わないの」


カウンター席に座ると、何を飲むか迷った。宮里はオレと同じ酒で良いと言うのでワインにした。

日本料理でワイン。

「リエちゃん、ここのワインは高級ワインでね。1杯飲むと、翌日足腰立たなくなるのよ。ね?大将」

「はい、うちのワインは高級ですから。秋田さん600円のワインが良い?それとも、980円の高級ワインにする?」

「じゃ、高級ワインで」 


女将さんが、ワインとワイングラス代わりの、焼酎用グラスを持ってきた。

ボトルの栓はコルクではなく、グルグル回すキャップだった。

宮里はずっと笑っていた。

ワインで乾杯した。

鯛のカルパッチョと、コンビーフとキャベツの2つでワインを飲んだ。


「秋田さんは、顔が広いんですね」

「まぁね。給料は殆ど酒で飛ぶから。でも、財形貯蓄はしているし、退職金もあるから」

2人は赤ワインをグレープジュースの様に飲んだ。

宮里の顔は少し赤くなっていた。

だいぶ酒が回ってきた時に、

「私、秋田さんみたいな人に憧れます。好きって気持ちは分からないけど、もっと秋田さんの事を知りたいなと思ってるんです。コレって恋ですかね」

「鯉?あ、分かった。大将、鯉の洗い」

「あいよっ」


「違うぅぅ〜、鯉じゃなくて恋。カープの鯉じゃ無いです」

「あ、恋ね?……こ、恋?」

「はい。私、秋田さんに恋してます」

「今日、初めて出会って、初めて飲んだんだよ!やっぱり美人局か?」

「違います」

オレは戸惑った。まだ、この子の事の情報は知らない。

騙されてるのか?ここは冷静に考えなければ。それに、オレはまだ少なくとも恋なんて気持ちは抱いていない。

「リエちゃん、ちょっと飲み過ぎだね。コレでお開きにしよっか?」

「はい、お待ちどうさま。鯉の洗いです」

しまった!オレは血迷って鯉を注文したんだっけ。 

結局、3本目の赤ワインを開けた。


「鯉って、初めて食べました」

「美味しいでしょ?泥抜きしないと臭いからね」

「泥抜きって何ですか?」

「……知らなくて良いよ」 


オレはこの後、平林を呼んで相談しようと思った。22時半。お開きになった。

「また、時間が合えば飲もうね」

「はい。秋田さん。今夜はごちそうさまでした。LINE送ってもいいですか?」

「うん。良いよ」

「では、さようなら」

「バイバイ」


と、オレが手を振ると、宮里も手を振った。


おれは、スマホを取り出し、

「もしもし、平林?……うん。で、今、どこにいる?……分かった。じゃ、きも善な。後20分位で行けるから。……うんうん、了解」

オレは今日の出来事を平林に報告せねばと考えたのだ。

こんなの、尋常じゃない。

もしかして、夢か?

タクシーで、焼き鳥屋に向かった。もう飲めない。ソフトドリンクで話すつもりだ。平林も近くで飲んでいたらしい。


23時。きも善に到着した。

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