勿忘草

 あれから五日が経った。

僕は今日も取り調べを受けている。彼女を殺す前に取り調べを受けていたら、緊張して頭が上手くまわらなかっただろう。

しかし、僕は五日前彼女を殺したその時から何も感じられなくなってしまっていた。

 雨宮薫は死んだ。残っているのは雨宮薫と言う名前がついた抜け殻のような何かだ。

『もう、殺して頂けませんか?』

『ダメだ、まだ事件が解決していない』

『もう、証拠見つけたんでしょ?』

そう、僕は彼女と僕との間に何があったのか一枚の原稿用紙に事細かく書き、彼女が最後にくれた白いアザレアと一緒に花瓶に入れておいたのだ。

『あんた、小学生の時物を取られる嫌がらせを受けてたんだろ?』

僕は懐かしいと思いながらゆっくり頷く。

 あの頃は、辛かった。そんな辛い日々を変えてくれたのは君だったな。楽しさを与えてくれただけでなく、僕に新たな生きる意味を与え、愛してくれた。

だから僕は死んでも君を愛して続けるよ。

 たとえ今までの事、結末までもが君に操作されていたとしても。

『浅野明日花の部屋を調べさせてもらったのだがな、あんたの名前が丁寧に書いてある教科書が大量に見つかった。それも一冊や二冊じゃない、計十二冊見つかったよ』

彼は僕の前に、懐かしい教科書たちを並べた。

 その中にかつて僕の生きる意味だった『蒼い鯨』の綺麗な表紙があった。

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君が僕に愛してると言うまでは 清野 葡萄 @SHOTA1014

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