四本の薔薇
『薫くん、私を殺してくれない?』
彼女がやつれた顔に引き攣った笑顔を浮かべながら、僕に言った。
『…え?なんで?』
僕は驚きを隠せなかった。
誰だってそうだろ。愛している人に急に自分を殺してなんて言われたら、驚きを隠せるわけがない。
彼女は引き攣った笑顔を浮かべたまま、言葉を振り絞るように言う。
『あのね、薫くんは小説が売れる度にどんどん有名になって言ってるでしょ?私、それが耐えられないの。薫くんがどんどん私から離れて行っちゃってるみたいで…』
彼女は、今にも泣きそうな声で続ける。
『だからね、まだ薫くんが私を愛してくれてる間に私を薫くんの手で殺して欲しいの』
彼女は遂に泣き始めてしまった。
僕も彼女に釣られて感情が込み上げてくる。 込み上げてくる感情を必死に抑え、次に僕が発した言葉は、『…わかった』だった。
彼女は右目から一筋の涙を流しながら、笑顔で言う。
『ありがとう。最愛の人に殺してもらえるなんて、私は幸せ者だね』
僕は最低だ。こんな時だって言うのに僕は泣いている彼女を綺麗だと思ってしまった。
確かに僕は、彼女を殺す。
だけどそれは今じゃない。
『その代わり、君が僕に愛してるを言ってくれたらね』
『わかった!今すぐにでも言えるけど、今言うのはロマンチックじゃないから、次のロマンチックが来た時に残しておこう!』
彼女もどうせ死ぬなら、ロマンチックなシチュエーションの中で死にたいのだろう。
僕は彼女がこの選択を選ぶのをわかっていた。
彼女はロンチストだ。これまでも、これからも。
僕はこの日、二度目の生きる意味が変わった日だった。
いつかは僕は彼女を手にかけなくればいけない。だからせめて、君が僕に愛してるを言うまでは。
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