カンパニュラ

 あの日の明日花との約束から五年が経った。

相変わらず僕は彼女と一緒の高校に進み、いつも一緒にいる。なぜなら僕の生きる意味は彼女そのものになっていたからである。

 この頃の僕は、かつての生きる意味であった『蒼い鯨』の事すら忘れ、彼女に依存していた。

 彼女は優等生で、今じゃ高校二年生にして生徒会長を務めている。

『今日も、一緒に帰ろうね』

『もちろん』

そう言うと彼女は決まって笑顔になった。

僕はそんな彼女の笑顔を毎日見るのが楽しみだった。

『今日、ちょっと遅くなっちゃうかも』

いつもみんなに笑顔で振る舞っている彼女も暇ではない。

 彼女は今やみんなの憧れでもあるのだ。そんなみんなの憧れで居続けるためにも、仕事をサボる訳にはいかないのだ。

『いいよ、小説でも読んで待ってるよ』

『相変わらず、小説好きなんだね』

 相変わらず僕は、あの日からすっかり変わってしまった彼女とは違い小説が好きだった。 

変わったのは、かつての生きる意味を忘れてしまった事と身長が伸びた事くらいだろう。

 そんな事考えている内に彼女が昇降口から出てきた。

『ごめん、待ったよね。じゃあ帰ろっか』

 あの日のように彼女に手を握られ帰路につく。

 僕は懐中電灯で足元を照らしながら彼女の横を歩いていた。生憎ここは夜でも足元を照らしてくれる都会とは違い、虫の声が聞こえる田舎だ。

 でも僕達はこの田舎の夜が好きだった。都会ではあまり見えない綺麗な星空が、ここではすぐ上を見上げれば手が届いてしまうくらい明るく見えるからだ。

 この日は天気が良いせいか、いつもより星空が明るく見えた。

 僕は星に願いを託すように祈った。

『いつまでも明日花といられますように』

『星に祈らなくても、ずっと一緒いるよ』

彼女が頬を赤く染めながら、照れくさそうに言った。

 どうやら強く願すぎたあまり、声に出してしまっていたらしい。それだけ強く願うほどに心の底からの願いだった。

 しかし、星は僕の願いを叶えてくれなかった。むしろこの出来事がきっかけで僕と明日花の人生は崩壊し始めたのだ。

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