第3話 はじめての異世界
翌日、一時限目の始業式が終わってからは規則正しい学園生活が始まった。授業は、月曜日から土曜日の毎日午後四時まで、ミス研部員は放課後と日曜日、つまり毎日地下空間が快適になるように改造を続けていた。なぜ、ミス研がそんなに地下空間の改造を頑張っているのかというと、実は四月末から五月上旬まであるゴールデンウィークに門を通って、
それから数週間が過ぎて、ついにその時が来た。
地下空間は以前と見違えるように変わった。学園内にあった落とし穴は埋めて、代わりに学園の周りを囲むフェンスの端に一人ずつでしか通れないほどの大きさの穴で、梯子で出入りする隠し通路(部員は毎日そこから入る)を造った。
最初の入り口は鍵付きの扉を設置し、公園へとつながる元々カナエが整備した道は雑草を抜いて、より通りやすくした。
一番大きな空間(通称:部室)は、床を全面セメントで均し、ホワイトボードや四人が同時に使える大きさの机と四人分の椅子、本棚などを置いて、天井には発電機から電気を引いてLED照明を取り付けた。ちなみにミス研の正式な部室は一応校舎にあるが、活動しているというカモフラージュのオカルト本が本棚にあるだけで、誰にも使われていない。
そして、異世界への門がある空間(通称:狭間の部屋)も遺跡に付かないように床を半分ほどセメントで均し、机を置いたり照明を取り付けたりした。部室と狭間の部屋をつなぐ細い道は床を滑らかなスロープのようにして、照明も取り付けた。
地下空間を覆う白い石は優秀で、地下は雨水も染みず崩落することもなかった。
ちなみに、改造にかかった費用は全てカナエのポケットマネーで賄われた。
「時が来たね。一年経ってやっとだ。」
カナエが言った。
ミス研はゴールデンウィークの間にある平日も全て休み、合宿という
「みんなで頑張りましょう!!!」
「そうだな、危険生物に出会わないことを祈るよ。」
「お、おいやめろよ………そんな怖いこと言うんじゃねえよ、ケン…」
ミス研は、狭間の部屋に集まった。ついに、門を越える。
カナエが門の境界に手を沈めていくと、凪いだ面が波をたてながら門の向こうへカナエが沈んでいった。門の向こうでカナエが何か言いながら手を招いていたが、声は聞こえなかった。
次にメイが走りながらジャンプして、飛び込むようにして向こうへ行った。
最後に、ケンは怖がるタダシの手を引っ張りながら、歩いて門を越えた。
門の向こうは本当にジャイアントセコイアのような巨木の森だった。振り返って、自分たちが通ってきた門を見ると、それは大きな遺跡の入り口であったことが分かった。
「この遺跡は、地下空間の白い石と同じ石でできている…そして、狭間の部屋にある祭壇と同じような彫刻が施されている。やはり、この遺跡は世界をまたぐことが目的なのだろう。しかし、こちらは出来たてのようなくらい綺麗だな………」
カナエがつぶやく。
「おい、周りに注意しろよ………いつクマとか大蛇とかが出るか分からないんだからな………」
ミス研がしばらく進むと
ガサッガサッ………
何かが落ち葉を踏みながらこちらへ近づいてくる。
「ホラッ!ホラ言っただろッ!!!ケンッ!お前が戦えッ!僕は知らないぞ!!」
タダシが震えながら大声で言う。
―――ガサッガサッ
「ヒャアアアッッ!」
「だ、誰ですか!!!」
メイが大声で聞く。
ケンとタダシは互いに震えて抱きしめ合いながら音のする方を見る。カナエは怖がりもせず突っ立って見ていた。メイは恐怖を大声で紛らわしながら尋ねている。
「すみません、驚かせてしまって。私は、ロナです。あなたたちは?」
ミス研の前に現れたのは、身長が百三十センチメートルほどしかない背の小さな女の子だった。金色の長い髪で青い目をしていて、北欧の民族衣装のような服を着ていた。
「
カナエはそうつぶやいてから
「We are a mystery research club. We came to this world through the gate of the ruins over there.(私たちはミステリー研究部です。向こうにある遺跡の門からこの世界へ来ました。)」
と言った。三人は急にカナエが英語を話しだしたことに困惑していた。
「By 'ruins' do you mean the 'Great Sage's Mausoleum'? You are from another world, aren't you?(遺跡というのは、”大賢者の霊廟”のことですか?あなた達は別の世界から来たのですよね?)」
カナエが英語で質問すると、ロナも流暢な英語で答えた。三人は話している内容が分からず、ただ棒立ちになっていた。
「Ja, das habe ich. Warum bist du dann allein hierher gekommen?(はい、そうです。あなたはなぜ一人でここに来たのですか?)」
三人は発音の感じが変わったことは分かったが、それがドイツ語であることまでは分からなかった。
「Ich habe in diesem "Großen Wald der Weisen" Magie praktiziert. Dann hörte ich schwache Stimmen sprechen, also kam ich hierher.(私は、この”大賢者の森”で魔法を使う練習をしていました。すると、かすかに話し声が聞こえてきたので、ここへ来ました。)」
カナエがドイツ語で聞くと、ロナもまた流暢なドイツ語で答えて、カナエ一人だけが
「なんと!おい、キミたち聞いたか?この森でロナは魔法を使う練習をしていたんだってよ!あと、私たちが通ってきた門のある遺跡は―――」
カナエは興奮気味で三人に会話の内容を教えた。三人は
「ど、どうしてキミは日本語、英語、ドイツ語を話せるのかな?魔法を使って、通訳でもしたのかな?」
するとロナは口を開いて言った。
「ニホンゴ、エイゴ、ドイツゴ………
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