シャドウスパイラルの未踏破区域⑦
巨大なオーガが再生する様子を目の当たりにしたグレンは、剣を握りしめながら唖然とした。
「おい…さっき倒したよな?どうなってるんだよ、これ!」
セレフィナは腕を組み、再び立ち上がるオーガを冷静に観察していた。
「ふむ。どうやら体力だけじゃなく、しつこさもこの魔物の武器のようね。」
グレンは汗を拭いながら叫ぶ。
「冗談言ってる場合じゃない!あれ、倒してもすぐに元通りになっちゃうんだぞ!?」
「だからこそ面白いじゃない。」
セレフィナは微笑みながら呟くと、指先を軽く動かして魔法陣を展開し始めた。その余裕たっぷりな態度に、グレンはますます不安になる。
「お前、面白がるなよ!どうやってあれを倒すつもりなんだ?」
セレフィナは肩をすくめ、魔物をじっと見つめながら言う。
「簡単よ。再生の仕組みを利用すればいいの。」
「利用…?それって、どういう意味だ?」グレンは怪訝そうな表情を浮かべた。
セレフィナは指先を宙で踊らせながら説明を始める。
「再生能力はエネルギーを消費する。要するに、回復するたびに魔物の中の『核』が少しずつ消耗していくの。つまり、何度か再生させれば、核を自滅させられる。」
「何度かって、俺たちの攻撃が効かないのにどうやって再生させるんだよ?」
セレフィナは不敵に笑いながら答える。
「効かない攻撃なんて言った覚えはないわ。ただ…『手を抜いた攻撃』なら、たくさん試せるでしょ?」
そう言うと、彼女は手のひらから小さな火球を生み出し、オーガに向かって投げつけた。火球はオーガの顔面に直撃したが、ダメージはほとんど与えていない。
「ちょっと待て!手を抜きすぎだろ!」グレンが呆れた声を上げる中、オーガは怒り狂ったように吠え、再び体を再生させた。
「いいペースね。」セレフィナは平然と次の火球を投げる。オーガが吠えるたびに、その再生能力が確実に消耗していくのが彼女には分かっていた。
グレンが剣を構え直しながら尋ねる。
「それで本当に倒せるのかよ?」
「ええ、もちろん。」セレフィナは微笑みながら再生を繰り返すオーガを見上げる。
「ただ、ちょっと暇つぶしが必要だから、あなたも何かやってみる?」
グレンはため息をつきつつ、剣を振って軽い斬撃を飛ばす。それもまた、オーガを傷つけるには足りないが、再生を引き起こすには十分だった。
数分後、オーガの動きが明らかに鈍り始めた。再生に必要なエネルギーを使い果たし、巨体が揺らめくように膝をついたのだ。
「もう限界みたいね。」セレフィナは満足そうに微笑むと、最後の呪文を唱え始めた。
「エリミナ・コルデックス。」
展開された魔法陣が輝き、オーガの胸部に向けて膨大なエネルギーが放たれる。魔力がオーガの核を正確に捉え、再生の源を完全に破壊した。その瞬間、オーガは崩れるように地面に倒れ、その巨体は二度と動くことはなかった。
セレフィナは背後で呆然としているグレンに振り返り、軽く肩をすくめる。
「ね?ちゃんと倒せたでしょ。」
グレンは深いため息をつきながら答える。
「お前の冷静さが怖いよ…。でも、まあ、助かったよ。ありがとな。」
「感謝は言葉より行動でお願いね。次の戦いでもちゃんと働きなさい。」
セレフィナの軽口に、グレンは苦笑しながら剣を鞘に納めた。
彼らの周囲に漂っていた不穏な空気は完全に消え、再び静寂が訪れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます